第20話 獣たちの交易市場! 五色商会とマンガ肉風・特大黒酢角煮!
まいど! Q19の正解は「③ 次工程はお客様」だねぇ!
ペンジさんが前世の東大阪の工場で、コンサルを入れて学んだ『トヨタ生産方式(TPS)』
の有名なモットーさね。自分の次の作業をする人のことを「お客様」だと思って、思いやり
を持って丁寧な仕事をする。これぞプロの神髄だねぇ。
さて、工業区画も稼働して、いよいよウチのモールは一つの『街』としての機能を完璧に
備えてきたよ。今回は、メッキーとメコンの仲間である魔界の流通エリート集団『五色商会』
の残り三幹部が査定にやって来る!
でもね、どんなに偉そうな理屈を並べても、美味い飯を前にしたら本能には逆らえないのさ。
五色商会のドタバタお引っ越し騒動、はじまりはじまり〜!
「……各員、警戒レベルを引き上げろ。厄介なVIPのお出ましだ」
一階の【従業員・業者専用通用口】に併設された警備室で、猫獣人のジッジーがパイプの煙を
吐き出しながら、魔導モニターを鋭く睨みつけた。
メガロモールステーツの広大なトラックヤードに、地響きを立てて巨大な黒塗りの魔獣車が
横付けされる。
降り立ったのは、圧倒的な覇気と高級なスーツを纏った三人の獣人たちだった。
燃えるような赤い毛並みを持つ赤獅子の獣人・リィク。
冷徹な緑の瞳を光らせる蒼鷹の獣人・アオバ。
そして、見上げるような巨躯を誇る黒熊の獣人・コクテン。
彼らこそ、メッキーとメコンが所属し、魔界の流通と経済を裏から牛耳るエリートギルド
『五色商会』の残る三幹部たちであった。
「ここが、メッキーたちが入れ揚げているという『杏』のモールか。
……活気はあるようだが、しょせんは辺境のバラックだな」
リィクが周囲を見渡し、鼻で笑う。前世では不動産メガベンチャーの営業本部長として、
数々の巨大プロジェクトを動かしてきた男だ。魔界においても、彼の「商売」のスケールは
システムすら凌駕していた。
「データを見れば一目瞭然です。ここはシステムの保護がない無法地帯。
我々のブランド価値を下げるだけのリスク資産です」
アオバが手元の魔導板を弾きながら、前世の外資系コンサルタント
らしい冷徹な声で切り捨てる。
「俺たちの巨大なロジスティクスを、こんな防衛も危ういスラムに集約するだと?
バカバカしい。視察など時間の無駄だ」
大手海運会社の巨大倉庫センター長であったコクテンも、重い腕を組んで吐き捨てた。
彼らは、五色商会のリソースがこの新興モールに集中していることを危惧し、直接「査定」
を下すためにやって来たのだ。無価値と判断すれば、即座にメッキーとメコンの権限を剥奪
するつもりであった。
二階の中央モール事務所の応接室。フカフカの革製ソファに彼らを案内したゴブリンの
サトルは、元ITベンチャー社長としての愛想笑いを浮かべつつも、額には冷や汗をにじませていた。
「単刀直入に言うぞ、メッキー。
俺たち五色商会は、魔界全土に独自の経済圏を築いたエリート集団だ。
それをこんな辺境の中華屋を核テナントにするモールに集約するなど、
投資効果が全く見合わない。お前は血迷ったのか?」
リィクがテーブルをドンと叩き、鋭い牙を剥き出しにして威嚇する。
「ちゅっ。キミたちこそ、数字の表面しか見てないだちゅ」
メッキーはネズミの髭をピンと尖らせ、一歩も引かずに言い返した。
「ええ。ここは数字には表れない『熱量』のハブ。
あなたたちの冷え切った脳髄とデータベースでは、
このナラティブの真価は理解できないかもしれませんがねぇ」
銀狐のメコンが、金細工の扇子をパタパタと煽りながら不敵に微笑む。
「ふざけるな! 我々の流通網と巨大倉庫を預けるには、
ここはあまりにも脆弱すぎる!」
コクテンが吠え、アオバが冷たく眼鏡を押し上げる。
「結論は出ています。このモールとの提携は即刻解除し、
五色商会のリソースはすべて中央の管理都市周辺へ再配置すべきです」
前世のエリートビジネスマンとしてのプライドが激しくぶつかり合い、妥協点は一切見出せ
そうになかった。論理と数字が支配する会議室は、完全に決裂の空気に支配されていた。
その時。
「はいはいはい! 横文字と怒声ばっかりで、
空気がすっかり不味くなってるじゃないのさ!」
バァァァンッ! と応接室の重厚なドアが勢いよく開け放たれた。
そこに立っていたのは、グレーのランドセルを背負い、自分の身の丈ほどもある巨大なお玉
を肩に担いだ、ちび女将・マリアンだった。
「な、なんだこのおばさん口調の幼女は!
俺たちを愚弄する気か!」
リィクが目を丸くして怒鳴る。しかし、マリアンは全く動じずに彼らを仁王立ちで睨みつけた。
「あんたたち、遠くからわざわざ来て文句ばっかり。
……要するに、腹が減ってイライラしてんだろ?」
「……は?」
「前世でどれだけ偉かったか知らないけどね、
腹が減ってちゃ良い商談なんてできっこないのさ!
数字だの投資対効果だの、頭でっかちなこと言ってんじゃないよ!
理屈をこねる前に、まずはわーしの飯を食いな!」
マリアンの合図と共に、真っ白な割烹着姿の神崎玲二が、巨大な銀のトレイを恭しく運んできた。
「神崎さん、アレだよ! 獣人なら、理屈より本能で味わいな!」
この世界に料理人神崎の名を知らない者など存在しなかった。
「ウッ、カッ、神崎さん!噂は本当だったのか」
ドォォォンッ!!
【♪ 原始のビート
(野性味あふれる力強い太鼓のリズムと、魂を揺さぶる金管楽器の音色が響き渡る曲) ♪】
テーブルの中央に置かれた巨大な皿。蓋が開けられた瞬間、暴力的とも言える圧倒的な香りが
応接室を完全にハイジャックした。
醤油が焦げた香ばしさ、八角の甘くエキゾチックな香り、そしてツンと鼻腔を刺激する極上の
黒酢の酸味。
「こ、これは……っ!?」
皿の上に鎮座していたのは、巨大な骨の周りに分厚い肉がぐるぐると何重にも巻き付いた、
まさに原始の欲望を呼び覚ますような『マンガ肉』の山だった。
豚バラ肉を極限まで柔らかく煮込み、深みのある特製黒酢ダレで照り照りにコーティング
した『マンガ肉風・特大黒酢角煮』である。
「さあ、遠慮せずにガッツリいきな!」
その匂いに、リィクたち三人の「獣」としての本能が、エリートの理性を完全に吹き飛ばした。
彼らは高級なスーツの袖を汚すことも厭わず、両手でマンガ肉の端を掴むと、猛然と食らい
ついた。
ガブゥッ! ジュワァァァ……ッ!!
「グォォォッ! なんだこの柔らかさは!
表面の香ばしさと、中から溢れ出す濃厚な肉汁が……
黒酢の酸味で完璧に中和されて、いくらでも食える!」
コクテンが熊の咆哮を上げながら、巨大な肉の塊を次々と腹に収めていく。
「噛みちぎる快感! そしてこの奥深いスパイスの香り……っ!」
リィクの目から、不意に一筋の涙がこぼれ落ちた。
彼の脳裏に、前世の記憶がフラッシュバックする。不動産の営業トップとして走り続け、
冷めたコンビニ弁当や、味も分からない接待の高級フレンチばかりを口に押し込んでいた
日々。数字を追うだけの人生に疲れ果て、心の中はいつも空腹だった。
だが今、この一噛みで激しく魂が揺さぶられる。肉の弾力、脂の甘み、それをまとめる
黒酢の酸味。噛み締めるたびに、命の喜びと「生きている」という実感がマグマのように
湧き上がってくる。
「美味い……! 俺は、待ってたんだ、これを。
本当の美味いものを食いたかったんだ……!」
アオバもまた、口の周りをタレだらけにしながら貪り食い、大粒の涙を流していた。
「分析不能です……! この完璧な温度管理と味覚のバランス……
データが、私の味覚の限界値を超えてバグっていく……!」
夢中で肉を貪り食った三幹部は、ついに中心の「骨」にまで到達した。
「……ん? この骨、妙に柔らかいぞ……
しかも、肉の旨味を極限まで吸い込んで、尋常じゃなく美味い……!」
リィクが驚きの声を上げる。
「おほほ! 骨まで美味しく食べられるように、
極太のエリンギに肉を巻いて煮込んだのさね。
わーしの店に、無駄なものなんて一つもないんだよ!」
マリアンの言葉に、三人は顔を見合わせた。
圧倒的な味の暴力。そして、最後の一口まで客を喜ばせようとする、底知れぬホスピタリティ。
数字やデータでは決して計れない「本物の価値」がここにある。
「……完敗だ。メッキー、メコン。お前たちの目は正しかった」
リィクが口の周りを拭い、深く頭を下げた。
そして、ガバッと立ち上がると目を血走らせて叫んだ。
「この圧倒的な『熱量』こそ、我々五色商会が求めていた究極の求心力だ!
おいアオバ、コクテン! すぐに手配しろ!」
「は、はいっ! 魔界中の流通網を、直ちにこのモールに接続させます!」
「ああ! 俺たちの巨大倉庫の物資も、そして『五色商会の本部機能』も、
すべて今すぐここに集積するぞ!!」
「えっ!? 今すぐちゅか!?」
メッキーが目を丸くする。
「当たり前だ! こんな美味い飯が毎日食える環境を、
一秒たりとも逃してなるものか! 全軍、引っ越し作業開始ぃぃぃッ!」
リィクの号令と共に、モールの外で待機していた五色商会の部下たちが一斉に動き出した。
「ガハハ! 引っ越しなら任せとき!
ワイが作った『特製・魔導輸送台車』の出番や!」
東大阪の星、ペンジが巨大な台車を何台も連結させてトラックヤードに現れる。
「よっしゃあああ! 重い荷物なら俺の筋肉に任せな!
引っ越しは重心が命だぜ!」
ゴーリキが、五色商会の本部にあった巨大な金庫や豪華なマホガニーのデスクを、軽々と
担ぎ上げて運んでいく。
「最短ルートで運び込みます!
小さな蜘蛛たち、導線を確保して!」
シュンが天井から糸を張り巡らせて指示を出し、ウサミチが目にも留まらぬ速さで
書類の入った段ボール箱を次々と二階のオフィスへリレーしていく。
「オラオラ! 傷一つつけんじゃねぇぞ! そこ、もっと右だ!」
ミノが的確な指示を飛ばし、空きテナントだった広大な一角が、あっという間に
五色商会の立派な新本部へと改装されていく。
「フハハハハ! 素晴らしい! これぞまさに『電撃移転』のナラティブ!
私の販促キャンペーンと合わせれば、明日の魔界新聞の一面はいただきですねぇ!」
メコンが金細工の扇子をパタパタと煽りながら笑い声を上げた。
わずか数時間後。
モールの二階に、五色商会のエリート獣人たちがズラリと揃う巨大な『交易本部』が、
レゴブロックをガチッとはめ込むように完璧に完成した。
「ちび女将! 今日から我々五色商会は、このモールを魔界流通の『絶対的中心』として
機能させる! その代わり……毎日のまかないは、必ず頼むぞ!」
リィクが、すっかり信者のような顔でマリアンの両手を握りしめる。
「ヒヒッ、任せときな! あんたたちがしっかり稼いでくれるなら、
わーしは毎日、とびきりの飯を作ってやるさね!」
こうして、魔界の物流と経済を裏から牛耳る五色商会のすべてが統合され、一階の広大な
エリアには魔界中の珍しい食材や物資が集まる『獣たちの交易市場』がグランドオープンを
果たした。
メガロモールステーツの経済圏は、いよいよ魔界全体を飲み込む巨大な渦となっていくのだった。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
五色商会のエリート獣人たち、最初はツンツンして難しい顔をしてたけど、最後は理性を忘れて
お肉にかぶりついてたねぇ。おまけに、美味い飯に釣られてその日のうちに本部ごと引っ越して
くるなんて、行動力が凄まじいさね!
これでウチのモールに魔界中の珍しい食材や物資が集まる『交易市場』が完成したよ!
システム(閻魔)からの出題【Q20:マンガ肉の秘密】
マリアンが特大黒酢角煮を「マンガ肉風」にするために、
骨の代わりとして芯に使った食材は何かな?
① 魔恐竜の極太い大腿骨
② 旨味を吸い込んだ極太のエリンギ
③ 筋肉達磨たちの鉄アレイ
「ヒントはねぇ、最後まで余すことなく美味しく食べられるっていう、ウチの心意気さね。
さあ、どれが正解か分かったかい?」




