第19話 鉄と炎の職人街! 鍛冶・工房エリアと激辛・石焼麻婆豆腐!
まいど! Q18の正解は「② 炒める前に、サッと熱い油を通した」だねぇ!
神崎さんが事前にサッと施した『油通し』のおかげで、野菜たちはシャキシャキの歯ごたえを
失わず、まるで宝石のように鮮やかな彩りを保てたのさ。
プロのひと手間ってのは、やっぱり見事なもんだねぇ。
さて、アリサちゃんのエルフ雑貨店がオープンして、ウチのモールも一気に華やかで癒やされる
空間になったわけだけど、街が大きくなればなるほど、調理器具の増産や工作機械の整備といった
「ハード面」の強化が欠かせなくなってきたんだ。
そこで満を持して立ち上がるのが、設備・工作部を率いるオークの工場長。
いよ!東大阪の新星!ペンジ、出番だよ!
【♪ 浪花の鉄人ブルース(BGM:唸るようなサックスと重厚なベースラインが、
町工場の熱気を呼び覚ます昭和の労働歌) ♪】
「ガハハ! ワイの出番やな! 鉄と炎とカイゼンの魂、魔界に見せつけたるわ!」
新装開店から数週間。レゴブロックを組み合わせるように増築を重ねてきた中華屋『杏』
を核テナントとするモールは、周辺のテナント数も増え、ますますの活況を呈していた。
現状では売り上げが悪いからと言って、テナントを差し替えるような非情なことはせず、
モールマネージャーが開店の決裁を下した案件は、横に広がる形でどんどん追加の新規テナント
としてオープンしていった。
だが、その裏で悲鳴を上げている部署があった。
「……アカン。もう限界や。
ワイの腕が何本あっても足りへんで……!」
モールの周囲に設けられた仮設の作業スペースで、オークのペンジが頭を抱えていた。
彼の守備エリアには、修理を待つ厨房の鉄鍋、破損した魔導ランプの枠、新店用の看板の
金属パーツ、そして水道管のパイプなど、ありとあらゆる「ハードウェア」が山のように
積まれている。
二階から降りてきたゴブリンのサトルが、魔導板を叩きながら深刻な顔で言った。
「ペンジさん、ハイエルフのテナントから追加の魔導空調機の発注が来てます。
それと、ウサミチのデリバリー部隊から軽量型オカモチの増産要求が五十個っす。
……正直、ペンジさん一人の家内制手工業じゃ、モールの拡張スピードに物理的に
追いついてないっすよ」
「分かっとるわ! せやから言うてるやろ。
ワイ一人やのうて、本格的な『工場』……いや、
職人たちを集めた『工業区画』が必要なんや!」
「『工場』とか『工業区画』とか、
またダサいこと言ってますなぁ」
どこからともなく現れた、高級そうなスーツで身を固めた五色商会、銀狐の獣人メコンが
割り込んだ。
「なんや、メコンはん、ワイら職人が働くところは、昔っから
『工場』って常識ですやん」
ペンジはコテコテの大阪弁のイントネーションですぐさま反論した。
「そーですなぁ、せめてモールに相応しく、『ファクトリー・ウイング』とか
如何ですかな?」
「まー、メコンさん、名称はまたモールマネージャーに決めてもらうとして、
目下、人員の問題解決が急務では?」
冷静なサトルは、メコンの割り込みをあしらって、本題に戻した。
「確かに、でも、魔界でまともな職人を集めるなんて至難の業ですよ。
プライドばかり高くて、納期もコストも守らない連中ばかりじゃないですか」
メコンの言葉に、ペンジはニヤリと笑った。緑色の太い指で、自身の顎を撫でる。
「……心当たりなら、おる。腕は一流や。
ただ、頭が固くて『効率』っちゅうもんを知らん連中やけどな。
あいつらをワイの『カイゼン』で叩き直せば、最強の工場が出来るはずや」
「心当たり、あるんですか?」
「ああ。ワイがこの『杏』に拾われる前……
荒野を放浪しとった時に、背中を預けて戦ったドワーフの馬鹿野郎どもや」
ペンジの瞳の奥に、かつての血湧き肉躍る戦闘の記憶が蘇っていた。
【♪地響きのような重低音のBGM♪】
――それは数ヶ月前、ペンジがまだただの「はぐれオーク」として荒野を彷徨っていた頃
のことだ。
赤茶けた岩山が連なる険しい渓谷で、金属が激しくぶつかり合う音が響き渡っていた。
「ゴォォォォォォッ!!」
燃え盛る炎を纏った巨大な魔獣『フレア・グリズリー』の群れが、ドワーフの戦士たちを
取り囲んでいた。
「押し返せ! 俺たちの誇り高き大剣で、魔獣の分厚い皮を叩き斬るんだ!」
ドワーフの長、ドガルドが巨大な両手剣を振り回し、魔獣に立ち向かっていた。
彼らの武器は、魔界の希少金属をふんだんに使い、何ヶ月もかけて打ち直された芸術品の
ような大剣だった。
だが、重すぎる大剣は振りが遅く、スタミナの消耗が激しい。一撃の威力はあっても、群れ
で襲い来る素早い魔獣の動きには対応しきれず、ドワーフたちは徐々に岩山の袋地に追い詰め
られていた。
「……アホか。ムダが多すぎるわ!
あんたらの小さい身体で、そんな格好だけの重い剣振り回しとったら、
あっという間にガス欠やろが!」
岩陰から飛び出したペンジが、呆れたように叫んだ。
「なんだと!? 貴様、
オークの分際で俺たちの鍛冶の腕を馬鹿にするのか!」
「腕はええ! でも『設計思想』が古すぎるんや!
まあ、細かいことは後や、
とりあえず、その剣貸してみーや!」
ペンジはドワーフたちが重そうに振り回している剣を借りた。
ザンッ! ズバァァァッ!!
ペンジは軽快なステップで魔獣の攻撃を躱し、カウンターで急所を的確に斬り裂いていく。
「なっ……なんだその力は!
わしらには歯が立たないのに、なぜフレア・グリズリーの分厚い外皮を切り裂ける!?」
驚愕するドガルドの前に、さらなる巨大なボス魔獣が咆哮を上げて突進してきた。
口からは灼熱の業火が吐き出される。
「危ないっ!! 避けろ、オーク!!」
だが、ペンジは逃げなかった。持ち前の馬鹿力でボス魔獣がブレスを吐く直前で、一刀両断
にした。ついに群れを討ち果たしたのだった。
ゼェ、ゼェ……と息を荒くしながら、転がる魔獣の死骸の中でドワーフたちが座り込む。
ドガルドは死の恐怖感がなかなか離れないようで、身体をブルブルと震わせていた。
ペンジはドガルドの肩をガシッと掴んだ。
「ワイは、オークで力があるさかい、あんたらの大剣が使えたけどな、
その剣はあんたらには重すぎや。
ワイの手が言うこと聞いたら、もっと軽くて丈夫な剣が作れるはずやねん」
ペンジは自分の手がオークという種族になってしまったことで、人間のように自由に使えなく
なってしまったことを、毎日のように恨み、泣きわめいて毎日を過ごしていた。
まだマリアンと出会う前のペンジには何もできなかったが、オークとして馬鹿力を使っての
人助けができたことで、生きる力が少し沸いたのだった。
「どうや、ドガルドはん。もしワイの手が言うこと聞くようになったら、
お前らの伝統の腕と、一緒に、世界を変えるモノ作りができる。
いつかワイが自分の工場を持つ時が来たら、お前ら、力を貸してくれへんか?」
ドガルドはしばらく考え込んでいたが、やがて豪快に笑い出した。
「ガハハハ! ペンジ! 夢みたいなこと言ってら。
その手が、指がねえ。まあ、その時が来たら、
もっと軽くて丈夫な剣ってやつ、俺たちにも教えやがれ!」
――そして現在。
ペンジの呼びかけに応じ、ドガルド率いるドワーフの一団が『杏』のモールに到着していた。
「おおっ! これが噂のメガロモールか! すげぇ活気じゃねえか!」
彼らを迎えたのは、一級建築士のミノだ。ミノとペンジは綿密な打ち合わせの上、
モールの東側区画に、新たな鍛冶・工房エリア『ファクトリー・ウイング』を建設し始めていた。
ミノの重機のような怪力と、ドワーフたちの熟練の石組み技術。それらが組み合わさり、
モールの外壁に「レゴブロック」をガチッとはめ込むように、頑丈で機能的な巨大工場が
わずか数日で立ち上がったのである。
「ええか、お前ら! 今日からここがワイらの城、
『ファクトリー・ウイングの核テナント、ペンジ工房』や!」
真新しい工場のエリアで、ペンジがドワーフたちに号令をかける。
「ワイが前世の工場で学んだ『トヨタ生産方式(TPS)』の魂を、
お前らにも叩き込んだる!
まずは『整理・整頓・清掃・清潔・しつけ』の5Sや!
道具をその辺に転がすな! ムダな動きを削れ!
そして常に『カイゼン』を意識するんや!」
「お、おう……なんだかよく分からねぇが、
この流れるような作業動線、確かに無駄がねぇ! 腕が鳴るぜ!」
ガルドたちドワーフは、最初は戸惑いながらも、ペンジの圧倒的な合理性と機能美に惹かれ、
みるみるうちに工場のラインに順応していった。
カンッ! カンッ! シュィィィン……!
規則正しいハンマーの音と、魔導旋盤が回転する音が、まるで一つの音楽のように工房内に
響き渡る。彼らはマリアンの厨房で使う新たな『魔導多重コンロ』や、モール内の金属装飾、
さらにはウサミチが使う軽量化オカモチなどを、驚異的なスピードと品質で量産し始めたのだ。
【♪夕焼け小焼け♪】
だが、職人の仕事は腹が減る。
夕刻。煤と汗にまみれたペンジやガルドたちが、工場の床にへたり込んでいると、ガララッ
と重い鉄扉が開いた。
「はいはいはい!
鉄の匂いばっかり嗅いでないで、こっちのいい匂いも嗅いどくれ!」
巨大な配膳カートを押して現れたのは、グレーのランドセルを背負ったちび女将・マリアンと、
白い割烹着姿の神崎玲二だった。
「おおっ! ちび女将! 待ってましたで!」
サトルとメッキーがその後ろから、魔導板をチェックしながらついてくる。
「いいっすねぇ。ドワーフ族をテナントとして統合し、
マリアンさんのセントラルキッチンから毎日の『素材』と『出汁』を卸す。
これで彼らは、胃袋だけでなく経済的にも完全にウチのモールに依存する形になる。
完璧なエコシステムっす」
「ちゅっ。彼らの高い技術力を自社サプライチェーンにがっちり取り込む、
最高のM&A戦略だちゅな!」
「難しい理屈はどうでもいいのさね!
汗を流した男たちには、ガツンとくるパンチが必要だろ!
今日は特別製さね!」
マリアンがカートから取り出したのは、赤々と熱せられた分厚い石鍋だった。
【♪ 激辛・石焼麻婆豆腐
(BGM:荒々しいドラムとアップテンポなピアノが絡み合う、
スリリングなインダストリアル・ジャズ調理音) ♪】
神崎が、真っ赤なラー油と花椒がたっぷり効いた麻婆豆腐を、熱々の石鍋に流し込む。
ジュワァァァァァァァァァァッッッ!!!
石鍋の中で豆腐と挽肉がマグマのように煮えたぎり、暴力的なまでの辛みと香ばしいニンニク
の匂いが、工場の高い天井まで一気に立ち上った。
グツグツと沸き立つ泡の音が、まるでアップテンポなジャズのドラムソロのように、職人たち
の鼓膜と胃袋を強烈に刺激する。
「さあ、食いな!
マリアン食堂特製、地獄の『激辛・石焼麻婆豆腐』さね!」
「うおおおおッ! いただきまあああす!」
ドガルドたちが木のスプーンで熱々の麻婆豆腐をすくい、フーフーと息を吹きかけてから一気に
口へ放り込んだ。
「……ッッッ!! カ、カラァァァァイ!!」
ドガルドの顔が一瞬で真っ赤になり、毛穴という毛穴から滝のような汗が噴き出す。
「辛い! 舌が痺れる! だけど……奥から豚肉の強烈な旨味と、
豆板醤の深いコクが押し寄せてきやがる!
豆腐が口の中でとろけて、ラー油の熱さが胃袋をガンガンに
燃やし尽くす!! 止まらねぇ……白飯、白飯をくれぇぇッ!」
職人たちが次々と石焼麻婆豆腐に挑み、ヒーヒーと炎を吐きながらも、その圧倒的な旨さと
刺激の虜になっていく。汗をかきながら食べるその姿は、まるで炉の前で鉄を打つ時の熱気
そのものだった。
「前世で、たまたま入った、新宿アイランドビルの地下にあった、
ランチで激辛麻婆豆腐しか出さない行列の店の味を思い出すなあ。
あの時も、辛さと旨さで最高に感動して痺れたなぁ」
どこからともなく現れた、大手広告代理店白々通の
元・トップクリエイティブディレクター、メコンがドワーフたちに紛れているようで、
しかしそのかっちりとしたスーツ姿は完全に浮いていた。
「ガハハハ! 辛いやろ! でもこれが『杏』の味や!
しかし、メコンはん、神出鬼没やなぁ。
ええかお前ら、ワイらの工場もこの麻婆豆腐と一緒や!
熱くて、刺激的で、一度ハマったら二度と抜け出せんような
最高の『製品』を、魔界中に届けたるんや!」
ペンジが口の周りを真っ赤にしながら吠えると、ドワーフたちも木のスプーンを天に掲げて
呼応した。
「おうよ!! 俺たちのハンマーと、ちび女将の飯があれば、
どんなモノだって造り出せるぜ!!」
レゴブロックのように連結された新たな『職人街』。
そこには、インダストリアル・ジャズのリズムのような心地よい金属音と、激辛麻婆豆腐の
熱い湯気が、いつまでも熱気と共に立ち昇り続けるのだった。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
ペンジさんの東大阪仕込みの加工技術と、ドガルドたちのドワーフの職人魂が合わさって、
ウチのモールに最強の『工業区画、ファクトリー・ウイング』がレゴブロックみたいに
ガチッと連結されたよ!
マリアンのセントラルキッチンからの美味しい仕込みも加わって、みんな胃袋から経済まで、
もう『杏』から離れられなくなっちまったさね。
さて、今回のシステム(閻魔)からの出題は、これまた難問だよ!
システム(閻魔)からの出題【Q19:ペンジの工場のモットーはどれ?】
① 安全第一、品質第二、生産第三
② ヒヤリハットは 事故のサイン 見過ごすな
③ 次工程はお客様
「ヒントはねぇ、本文には直接出てこないから、前世の知識を絞り出しておくれよ!
ペンジさんが前世の自分の工場でコンサルを迎えて取り入れていた、あの有名な
『生産方式(TPS)』に関係があるのさ。さあ、あんた達には分かるかい?」




