第18話 森の歌と癒やしの楽園 エルフ雑貨店
まいど! Q17の正解は
「③ 異世界カフェ~裏メニューは勝者への道~
現代ストレスからの逃亡者たちが勇者パーティとなって異世界を救う件」
だねぇ!
おばちゃんと同じ作者の『稲盛皆藤』が描いてるんだよー!
ちょっとメタな宣伝入れた引っかけ問題、難しかったかねぇ?
おばちゃんも一本取られたらしいさね!
さて、エルザたちの「診療所」が開設されて、モールはさらに活気づき、従業員の健康も
バッチリ守られるようになったよ。
だけど、ここは殺風景な荒野のど真ん中。
ミノやジッジーさんが造り上げた鉄と岩だけの頑丈な要塞じゃ、やっぱり心に「潤い」や
「彩り」ってやつが欲しくなるじゃないのさね。
今回は、森の妖精・エルフ族がこのモールにやってくるよ!
荒んだ魔界に、色鮮やかな野菜と癒やしをもたらす第18話、開幕さね!
【♪ 軽快なコーラスと弾むようなストリングスが心地よい、
春風のような北欧風の民族楽器や美しいコーラスワーク♪】
「さあて、殺風景な荒野のど真ん中にも、色鮮やかな花を咲かせてみせようかねぇ!」
新装開店から数週間。レゴブロックを組み合わせるように増築を重ねた中華屋『杏』を
中心とするモールは、今では現世モニターの注目を一手に集め、連日のドラマから目が離せなく
なるほど熱気があった。
だが、その忙しさの裏で、二階の事務室には不穏な空気が流れていた。
「……信じられへん。サトルはん、
なんでこの『戻る』ボタンをそんな不便なとこに配置してんの?
これやったら、ホーム画面に戻るのにいちいち三回もタップせなあかんやんか」
「はあ?ペンジさん、それは使い方の問題っすよ。
こっちの『ジェスチャー操作』を使えば、画面の端をスワイプするだけで一瞬っす。
カスタマイズ性の高さこそが、この魔導板の真骨頂なんすよ。
そんな基本的なショートカットも知らないんすか?」
事務室のデスクで、サトルがゴブリンの指で器用に魔導板を操作し、次々とウィンドウを
切り替えていく。対するペンジは、オークの分厚い指で別の魔導板を握りしめ、
眉間に深い皺を寄せていた。
「カスタマイズ?ちゃうわ。
そんなんただの複雑な自己満足や。
ワイの魔導板はな、電源入れて一回押せば誰でも直感的に使えるんや。
この『直感的なインターフェース』こそが、美学ってやつやろ。
おまはんのんは、設定をいじり回さなまともに動かん『玄人向けのおもちゃ』やろが!」
「なっ……!それを言うなら、ペンジさんのが使ってるやつこそ、
メーカーの言いなりに制限された『自由のない檻』じゃないっすか!
拡張性もクソもない、閉じた庭で満足してるなんて……
これじゃ、前世のスマホ戦争の二の舞っすよ!」
サトルが立ち上がり、魔導板をペンジの鼻先に突きつける。
「いいっすか、オープンソースの精神を理解してくださいよ。
OSをいじって最適化してこそ、本当の『魔導』っす」
「やかましいわ!
ワイはな、OSの安定性とブランドの信頼を大事にしてんねん。
そんなピーキーな設定、現場の職人が使っててバグでも出してみい。
モール全体の運営がストップするリスクがあるんやぞ!」
二人の睨み合いは、もはや魔界の経営戦略会議というより、前世のカフェで繰り広げられた
終わりのない宗教戦争そのものだった。
「はい、はい、はい、お二人とも、そこまでにするっちゅよ」
冷静なメッキーが、白熱した議論が武力による解決に発展する手前で上手く割り込んだ。
「ぶっちゃけ、好みの問題っちゅからね。
アンドロイド派もI-OS派もどっちも使えるように初期設定で選べるように
設計して下さいっちゅよ。答えなんて永遠に出ない問題だちゅ」
大の大人二人は、元・エリート商社マン、世界の佐藤忠商事の仲裁に、やっと冷静に戻る
ことができた。
そもそも、みんなは、モールの売上分析のために、魔導板を睨んで、対策の
ための会議をしていたのだった。
「……おかしいっすね。全体のトラフィックは右肩上がりなんすが、
女性層や非戦闘員の『滞在時間』が極端に短い。
メッキーさん、これどう分析します?」
ネズミ獣人のメッキーが、髭をヒクつかせながらモニターを覗き込む。
「ちゅっ。理由は明白だちゅ。
ミノさんとゴーリキさんが造ったこのモールは、たしかに『不沈艦』
のように頑丈で安全だちゅ。でも、見渡す限りコンクリートと鉄と岩ばかり。
……ハッキリ言って、むさ苦しくて『殺風景』すぎるんだちゅよ」
「それっす! 休日に家族連れがのんびり歩きたくなるような、
彩りや癒やし……『アメニティ空間』が決定的に不足してるんすよ」
元IT社長と元エリート商社マンが、腕を組んで深く息を吐く。
だがここは、草木も生えない魔界の荒野。潤いのある空間など、どうやって作ればいいのか。
その頃。一階の従業員通用口では、猫獣人のジッジーが、鋭い眼光で一人の侵入者を足止め
していた。
「……そこまでだ。入館証のない行商人は、この防音魔法隔壁を通さん。
我が防犯プロトコル、すなわち防犯マニュアルが不審者の立ち入りを禁じている」
「お、お願いします……! 少しだけでいいんです、
この手作りの品を、お店の隅に置かせてもらえませんか……っ」
ジッジーの威圧感に震えながらも、必死に頭を下げているのは、ボロボロのローブを纏った
エルフの女性だった。背中には、自分の背丈ほどもある巨大な編みカゴを背負っている。
騒ぎを聞きつけ、二階から降りてきたサトルが魔導板で彼女のステータスをスキャンした。
「……エルフ族のアリサ。前世は『オーガニック雑貨店の店長』。
名前は、有野理紗。で、ニックネームはアリサだったっすか。
戦闘力ゼロ、重労働スキルなし。システムの評価は……『0点』っすね。
悪いっすが、うちのモールは今、即戦力しか求めてないんすよ」
サトルの冷酷なビジネス判断に、アリサは絶望で肩を落とした。
「……やっぱり、そうですよね。この過酷な魔界じゃ、
私みたいな『綺麗で香りのいい雑貨』を作るだけのスキルなんて、
ただの無価値なガラクタ……」
彼女のカゴからこぼれ落ちたのは、丁寧に彫り込まれた可愛らしい木のマグカップや、
心を落ち着かせる香りのドライハーブ、そして、色鮮やかに編み込まれたタペストリーだった。
「――誰だい! そんな手間暇かかった素敵な品を、ガラクタなんて呼ぶ節穴は!
まーだ、閻魔システムの点数にこだわってんのかい。
わーしが、あんたたちにそんなこと一言でも言ったことあるかい。
人の価値ってのは、システムが上から勝手に決めるもんじゃないよ。
誰も与えてなんてくれない。自分でこうなりたいっていう、志が、
その人の価値を作っていくんだからね」
ピシィィン! と乾いたお玉の音が辺りに響き、こだました。
そう、騒ぎを聞きつけた、グレーのランドセルを背負ったちび女将・マリアンがいつから居たのか、
突然、一階従業員通路に飛び出してきた。
「モールマネージャー!」
ジッジーは、ちび女将・マリアンの姿を確認すると、猫獣人の髭をピンと震わせ驚きを隠せ
なかった。
マリアンは、床に転がった木彫りのカップを拾い上げ、愛おしそうに撫でた。
「あんた、すごい腕だねぇ! 手触りも最高だし、
このハーブの香り……荒野の土埃でやられた鼻の奥が、
スッと通るみたいじゃないか!」
「……え? でも、そんなものお腹の足しにもならないし、
ステータスも上がりません。
システムからは『効率の悪い無駄な真似』だって切り捨てられて……」
「馬鹿お言い! 人間も魔物も、カロリーだけで生きてるわけじゃないんだよ!
サンドウィッチマンも『ドーナツは真ん中に穴が開いてるからゼロカロリーだ』
って言ってたろ?
綺麗な器でご飯を食べれば味は二倍になるし、いい香りの部屋で眠れば、
明日の活力は十倍になる! それが『生活』ってやつさね!」
マリアンは巨大なお玉をドンと床に突き立てた。
「サトル! メッキー! あんたたち、この店に足りないのは
『彩り』だって言ってたね!? だったら、わーしが料理で教えてやるさね!
神崎さん、鍋の準備だ!」
「御意!!」
白い割烹着姿の神崎玲二が、流れるような包丁捌きで、獣人たちから仕入れたばかりの
色鮮やかな野菜と海鮮を切り分けていく。
マリアンは、アリサが持っていた香りの良いスパイスを少しだけ分けてもらい、真っ赤に
熱した鉄鍋に油を引いた。
ジャァァァァァァッ!!!
「いいかい、アリサちゃん! 閻魔の野郎が0点って、そんなの関係ないさね。
わーしもこう見えて0点の丸虫だったのさ。そんなのオッパッピーさね。
今では、ここのモールマネージャー兼中華屋杏の店主でちび女将の
マリアンって呼ばれてんだ。
差しのいっぱい入ったカロリーの高い肉だけがエラいわけじゃない!
赤、緑、黄色! それぞれ違う味と形を持った野菜たちが集まるからこそ、
最高の味が生まれるんだ!」
マリアンは、エビ、イカ、豚肉、うずらの卵、タケノコ、ニンジン、絹さや、キクラゲ……
八つの宝を鉄鍋に放り込み、極限の火力で一気に煽る。
神崎が事前にサッと『油通し』をしておいたおかげで、野菜たちの色は宝石のように鮮やか
に輝いている。そこに、鶏ガラスープとオイスターソースの特製ダレを絡め、水溶き片栗粉で
とろみをつける。
グツグツ、トロォォォ……ッ。
最後にゴマ油をひと回しすれば、香ばしい匂いが通用口の空間を完全に支配した。
「さあ、おあがり! マリアン食堂特製、『彩り野菜の八宝菜』さね!」
艶やかなとろみを纏った八宝菜が、アリサの作った木彫りの器に美しく盛り付けられた。
アリサは震える手でスプーンを持ち、一口、口へ運ぶ。
サクッ……(絹さやの軽快な音)。プリッ……(エビの弾力)。
「……っ!」
アリサの大きな瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「どーしたんだい、アリサちゃん、もしかしてエルフってのは野菜しか食べないって?
それで泣いてるのかい?」
オイスターソースの深いコクを、生姜とハーブの香りが優しく包み込み、野菜それぞれの
シャキシャキとした食感が、まるで口の中で楽しい音楽を奏でているようだ。
「いえ……美味しい……。すごく、優しい味……。
色んな素材が、一つにまとまって……まるで、綺麗なお花畑みたい……っ」
「ヒヒッ。一つ一つはバラバラの素材でも、優しい餡で包み込めば、
こんなに綺麗で美味い一皿になる。……ウチのモールも同じさね。
アリサちゃんの『雑貨』や『香り』は、ウチのコンクリだらけの店を
極上の楽園に変える、最高に鮮やかな野菜なんだよ!」
マリアンの言葉に、アリサは声を上げて泣き崩れた。システムから無価値だと捨てられた
彼女の「美への愛」が、マリアンの料理によって、確かに肯定された瞬間だった。
「ちゅっ……マリアンおばちゃんの言う通りだちゅ。
アリサさんの雑貨を核にした『癒やしエリア』を作れば、
顧客の滞在時間は劇的に伸びるはずだちゅ!」
メッキーが魔導板を弾きながら興奮の声を上げる。
「エルザです。アリサの持っているオーガニックハーブ、
素晴らしい抗炎症作用があるわ。診療所の備品として、
定期購入の契約を結ばせてもらうわね」
いつの間にか降り立っていたエルザが、ハーブの束を手に満足げに微笑んだ。
「ガハハ! なら、俺がアリサの姉ちゃんのために、
温もりのある最高に可愛い『木組みの店舗』を増築してやるぜ!」
「ワイの作った魔導ランプの光量も、雑貨が映えるように柔らかく調整したるわ!」
ミノとペンジが、早くも新しい設計図を巡って熱い議論を始めている。
「あの、ここのみなさんは本当にお優しいのですね。
エルフなんでこんな見た目ですが、私も50歳で転生してきたので、
実年齢はおばちゃんなんですけどね」
「そんなこと気にしなくていいのさね。わーしなんか見た目はただの
ロリロリの、がきんちょだぜ。おまけにランドセルみたいなもんまで、
しょわされてんだからさ」
「「「たしかに」」」 「「「わっはっはっは」」」
そこに居た大勢の部下たちは、マリアンに臆することなく、目の前の料理に舌鼓を打ちながら
大合唱で同意の笑い声をあげた。
数日後。鉄と岩の無骨なモールの一角に、エルフ族をテナント誘致した『エルフ雑貨店』が
オープンした。自然豊かなオープンスペースに、読書コーナーや休憩所を兼ねたカフェコーナー
もある心が安らぐ雑貨屋さんである。
ふわりと漂う森の香りと、色鮮やかなタペストリー。そこは、戦いと労働に疲れた魔物たちが
足を止め、心から安らぐ『癒やしの楽園』となった。
マリアンの八宝菜がつないだ彩りは、巨大モールに欠けていた「最後のピース」を見事に
埋め合わせたのである。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
アリサちゃんのエルフ雑貨店がオープンして、ウチのモールが一気に華やかで良い匂いになったよ!
システムは「効率」ばかり言うけど、やっぱり人間も魔物も、心を癒やす「彩り」がないと
干からびちまうからねぇ。無骨なミノさんやペンジさんも、こっそりアリサちゃんの木彫りの
マグカップを買って愛用してるみたいさね。
システム(閻魔)からの出題【Q18:八宝菜の秘密】
今回、マリアンと神崎さんが野菜の「彩り」を宝石みたいに鮮やかに保つために行った、
中華料理のプロのひと手間とは何かな?
① 野菜を一つずつ魔法でコーティングした
② 炒める前に、サッと熱い油を通した
③ 閻魔システムに課金して色を鮮やかにした
「ヒントは、本文の調理シーンにあるよ。……さあ、あんた達なら、どれが本当の正解か、
もう分かってるよねぇ?」




