第15話 司令塔たちの区画始動、 モール事務所と鉄壁警備網!
まいど! Q14の正解は
② 冷酷なシステムに切り捨てられて凍りついていた心が、マリアンの『温かい人情中華』
とウサミチの優しさによって救われたから
だねぇ!
一杯の温もりにトオルさんがワンワン泣いて喜んでくれて、わーしも胸が熱くなっちまったよ。
仕事がない時はのんびりゴロゴロするのも大事だけど、一度注文が入れば、うちらはプロとして
一歩も引かないのさね。シュンちゃん、14話の最初はあんなに退屈そうに糸のハンモックで揺れて
いたのに、いざ出前が入った瞬間のあの目の色の変わりようったらなかったよ!
おかげさまで、14話でみんなで手作りした看板やPOP、そしてウサミチ達が届けてくれた
最初の「オカモチ出前」の効果は絶大だったよ!
ウチの温かい灯りと匂いに誘われて、前の騒動のせいで離れちまってた近所の住民たちが、
おそるおそるお店に戻ってきてくれたんだ。
だけど、喜んでばかりもいられないよ。13話で現世(地球)のバズによって「アクセス制限」
が解除された影響で、これからこの聖域には、魔界全域から信じられない数の客と、それに紛れた
怪しい連中が押し寄せることになる。
お店が大混乱、戦場になっちまう前に、今回は元IT社長のサトル、警備のプロのジッジー、
そして物流のウサミチとシュンちゃんが、それぞれの『縄張り』を立ち上げてプロの仕事を見せるよ!
【♪北京ダック( エキゾチックで小粋なシンコペーション、弾むような昭和レトロポップスの名曲)♪】
「さあて、頭脳と防犯のプロトコル、一気に叩き込んでいこうかねぇ!」
あれから数週間後。
ピピッ、と冷徹な電子音が響く。
新装開店した中華屋『杏』の勝手口――そこは二重扉になっていて、1枚目の扉を入ると
ガラス越しの警備室受付デスクがあって、一般の客が絶対に立ち入ることのできない、
鉄壁のチェックが行われる、『従業員・業者専用通用口』となっていた。
「はい、そこストップだちゅ。
業者さんは水晶にしっかり入館証をかざして、名前と所属、
それからそこに表示された現在の魔力総量を登録してくれちゅ。
サンプルが狂うと後でサトルさんに怒られるちゅ」
ネズミ獣人のメッキーが、カウンターの受付デスクで、仲間の獣人たちの指導に当たっていた。
前世のエリート商社マンらしい手際で、業者用のラミネートプレートをパパパッと捌いていた。
かつて何百億円もの物流を動かしていた男の書類処理スピードは、魔界の役人の比ではない。
その受付デスクのすぐ真横、厳重な防音魔法隔壁で区切られた一角に、新生『杏』の
セキュリティーを司る、【警備室】が鎮座している。
「……フム。ペンジの取引業者だな。
厨房への『魔導多重超高火力コンロ』の追加搬入、
および火気使用届は事前に申請受理してある。
時間は8:00。全て申請通りだ、通ってよし」
デスクの奥で、静かにパイプの煙を燻らせながら、何十画面もの魔導モニターを鋭い眼光で
睨みつけているのは、獣人のジッジーだ。
前世では最大手警備会社の「伝説のSP」として、数々の国際会議やVIPの命を守り抜いてきた。
また後には「セキュリティプロフェッショナル」としてTV出演でも名を馳せた防犯の鬼である。
ジッジーの縄張りであるこの警備室は、まさにモールの防衛要塞だった。
壁一面のモニターには、聖域の境界線、外壁の死角、厨房の裏口、果ては二階の従業員通路まで、
建物内外のあらゆる角度が高解像度で映し出されている。
ジッジーの背後には、建物の全魔力インフラを一括制御する巨大な『魔力電源制御パネル』と、
侵入者や異常火災を瞬時に検知する『中央防災盤』が、赤く怪しいランプを静かに明滅させていた。
「いいかいメッキー、それからサトル。
悪党というのは、デジタルなデータではなく、必ずこういう『業者の出入り』や
『バックヤードの物理的な死角』という、肉体が生み出す隙を突いてくる。
どれだけ二階の事務所が立派な売上計画を立てようと、この一階の通用口で
不審者を一歩でも通せば、城は内側から一瞬で崩壊するのだ」
ジッジーが厳格な声で高説を説いていると、彼の耳につけたインカムから、ザザッとノイズ
混じりの威勢のいい声が響いた。
『こちら一階、出前区画!ウサミチです!
シュンちゃんの先導で、過疎の黒鉄鉱山からの大口出前注文、
ラーメンと炒飯合わせて三十箱分、今から爆速で積み込み入ります!
ジッジーさん、出前ヤードのシャッター開けて!』
「警備室より出前区画へ。シャッター開。外部のクリアは確認済みだ。
……ウサミチ、シュン、焦ってスープをこぼすなよ。
あれは神崎殿が魂を込めたスープだ。
一滴の無駄も我が防犯マニュアルが許さん」
ジッジーの部下が壁の電源パネルの巨大なレバーを引くと、重厚な鉄のシャッターが
ガラガラと地響きを立てて開いた。
そこは、中華屋杏のすぐ隣に直結された【出前区画】だ。
八本の腕を持つ蜘蛛の獣人・シュンが、天井から張り巡らせた微細な糸の振動で魔界全域の
「最短・最適ルート」を脳内で逆算し、足自慢のウサミチ率いるランナー部隊が、銀色に輝く
特製オカモチを背負って次々と魔界の荒野へと飛び出していく。
一階の警備と出前区画は、無駄のない歯車のように完璧に噛み合っていた。
出前区画は、将来を見据えて中華屋杏の隣に杏の10倍以上のスペースを確保した
拡張工事の真っ最中であった。そこには倉庫や配送センターなどのデリバリーも含めた総合物流
区画へと進化することが決まっていた。
一方、一階の泥臭い肉体労働の熱気や、鋭い警戒感とは完全に隔離された、建物の二階。
そこには、一階の喧騒が嘘のように静まり返り、カチカチ、カタカタと魔導キーボードの音
だけが心地よく響く、広大なオープンフロアのオフィスが広がっていた。
こここそが、新生『杏』のすべての数字と戦略を司る頭脳――【モール事務所】だ。
「各部門の売上データ、連動確認完了。
スライムアイドルのフロント物販、昨日比140%のプラス。
出前の受注件数、アクセス制限解除に伴って、現在進行形で
グラフが右肩上がり、天井を突き破りそうっすね。
サーバーの負荷、残り15%で耐えてます」
フロアの中央、巨大なデスクを機能的に並べたオープンフロアの事務スペースのお誕生日席で、
ゴブリンのサトルが前世の「ITベンチャー社長」としての冷徹な横顔で端末を叩いていた。
サトルの座席の島では、事務員として雇われたゴブリンやコボルトたちが、魔導端末を
上手く使いこなして、各テナントから上がってくる大量の伝票や報告書を手際よく整理し、
ファイルへと収めている。
フロアの奥には、お偉方や外部の商業ギルドの有力者を迎えるための、高級なフカフカの
革製ソファーが並ぶ上品な『応接室』が。
そしてその隣には、重厚な木製のドアで仕切られた『モールマネージャー室』があったが、
いつもマリアンは厨房の方に居るため、その部屋はいつも不在の表示のままだった。
サトルの隣の島のお誕生日席では元・大手広告代理店白々通のトップクリエイティブ
ディレクター、銀狐のメコンが、高級な金細工の扇子をパタパタと煽りながら、ハイエルフや
ダークエルフの販売促進部からの申請書を確認し、優雅にポンポンと押印していた。
「いやあ、サトルさん。
この二階の入金システムは本当に商売の革命だちゅ」
一階の受付業務をひと段落させ、打ち合わせのために二階へ上がってきたメッキーが、
事務フロアの壁際に設置された大型の機械を見て、ネズミの髭を満足げに揺らした。
そこにあるのは――ドガガガガ、ジャラジャラジャラッ!と凄まじい音を立てて硬貨や魔石を
カウントしている、特大の『魔導入金機』と『自動お釣り両替機』だった。
各区画の責任者や、出前を終えた部隊は、一日の終わりに必ずこの二階の事務所へ上がり、
売上をこの入金機に投入することになっている。
「前世の総合商社でも、コンビニやスーパーを子会社にしていたから、
よく会議で話題に上ってたっちゅ。
現場が握る現金を回収するタイムラグと、その管理コストが一番の
ボトルネックだったんだちゅ。
各テナントや出前部隊が、この二階の入金機に売上をぶち込んだ瞬間、
データがサトルの魔導板に一瞬で反映される。
翌朝の釣銭は両替機で自動支給。
……これなら、どれだけ売上が膨らんでも、
中抜きの不正も計算ミスも100%防げるちゅ!」
「そうっすよ、メッキーさん。
一階のジッジーさんが物理的な安全の盾になり、
ウサミチ達が現場の血を巡らせ、僕たちがこの二階のオープンフロアで
『数字の透明性』を担保する。
これが、僕たちの造るメガロモールステーツの運営マニュアルっす」
数字と効率、そして鉄壁の安全管理。
現世のビジネス最前線で泥水をすすりながら戦ってきた男たちが作り上げた、無機質で
完璧な城。
しかし、あまりにもシステム化され、少し冷たい空気になりかけたその二階事務所の空間に――。
トントン、と小気味良い、だけどどこかドスドスとした力強い足音が響き、応接室の金色装飾の
ドアが勢いよく開け放たれた。
「はいはいはい!頭でっかちのエリートさんたち!
さっきから一階の警備室と二階の事務所でインカム飛ばし合って、
難しい横文字だのシステムだのばかり並べてんじゃないよ!
脳みその油が切れちまったら、せっかくのいい男たちが台無しさね!」
部屋に入ってきたのは、つやつやの黒髪をお団子頭に結い、背中にピカピカでグレーの
ランドセルを背負った小さな『ちび女将』――マリアンだ。
その後ろには、大きな銀のトレイを恭しく両手で掲げた、白い割烹着姿の元・特級調理師、
神崎玲二が静かに控えている。
「モールマネージャー!
それに神崎さん!」
サトルが魔導板から目を離し、驚いて声を上げる。
マリアンは、応接室の大きなガラステーブルの上に、ドン!と巨大な大皿を置かせた。
トレイの銀蓋が外された瞬間、中央事務所の無機質だった空気は、一瞬で濃厚な甘みと、
鼻腔を暴力的に突き刺す香ばしい熱気によって完全にハイジャックされた。
「これは……『北京ダック』……っ!?」
メッキーが思わず机を叩き、生唾をゴクリと喜び噛み締めた。
大皿の中央に、職人の芸術品のように美しく並べられていたのは、神崎の超絶的な鉄鍋技法
によって、180℃に熱した高温のラードを何度も何度も、何百回と回しかけされ、飴色を超えて
見事な琥珀色にまで焼き固められた、魔界巨鳥の最高級スキンだった。
室内の魔導ライトを反射して、まるで磨き上げられた宝石のようにテカテカと眩い光を放ち、
その下には旨味の詰まったジューシーな肉がギッシリと敷き詰められている。
「今はただの大衆中華屋だけどさ、これから閻魔もびっくりさせる、魔界の常識を
ひっくり返すようなデカいモールを動かしていく、うちらの最高の中枢メンバーのご飯だ。
これくらいド派手で縁起のいいもんを食ってもらわなきゃ、一階の厨房で鉄鍋振るう
こっちの気が済まないのさね!」
マリアンは不敵にニヤリと笑い、自ら薄餅を手に取った。
「ほら、一階の警備室を部下に任せてもらって、ジッジーさんも呼んだよ。
ヤードの仕事を一時交代したシュンちゃんも、ウサミチも、
みんなこの二階の応接室に集まりなさい!
神崎さんが一枚一枚、最高の厚みで切り落としたこのパリパリの皮をさ、
特製の薄餅にのせて、甘辛い甜麺醤をたっぷりつけて、ネギとキュウリと
一緒にくるっと巻いて、全員でガブッとやんなさい!」
一階のジッジー、ウサミチとシュンが応接室のソファーを囲み、サトル、メッキーと並ぶ。
さらに、ミクとエルザ、ミノ、ゴーリキ、ペンジ、そしてメコン。
幹部たち全員が久しぶりにモール事務所に集まって、自分で巻いた特製の北京ダックを、
一斉に口へと放り込んだ。
バリクゥッッッ!!!
静かな応接室に、信じられないほど硬質で、かつ心地よい、最高の破壊音が綺麗にハモって
響き渡った。
「――っ!! なんだこれ、美味すぎる……っ!
皮の裏側に極限まで閉じ込められていた濃厚な鳥の脂の旨味が、
噛んだ瞬間に口の中で弾けた!
甜麺醤のコクのある深い甘みと、ネギのシャキシャキした辛みが、
脂の重さを完璧に中和して……脳内の処理速度が通常の10倍に跳ね上がる感覚だ!」
サトルが眼鏡をガタガタと震わせながら絶叫する。
「だちゅ、だちゅ、だちゅ!
このパリパリ感、前世の香港の超高級ホテルで食ったやつより遥かに凶暴で、
だけどどこか懐かしい下町中華のソウルがあるだちゅ!
カオピンのモチモチした食感と、北京ダックのクリスピーな歯ごたえが、
口の中で完璧なジャストインタイムを形成してるだちゅ!」
メッキーがネズミの耳を激しくピンと立てて、感動のあまり身悶えした。
「ふむ……。この一切の妥協なき均一な焼き加減、
まさに『欠陥のない完璧なセキュリティー構造物』だな」
ジッジーもまた、普段の渋い強面をこれでもかと綻ばせ、北京ダックを静かに、だけど
猛烈な勢いで噛み締めていた。
「噛むたびに溢れる脂の熱量が、冷え切ったセキュリティー脳を芯から温めてくれる。
これほどの至高の味を提供された以上、一階の通用口からネズミ一匹、
不審な侵入者を許すような妥協は我がプロトコルには存在しえん。
ちび女将、素晴らしいモチベーション・マネジメントだ」
「これ、マジで走った後の身体に最高に染みるね! 何個でもいけちゃうよ!」
ウサミチが口の周りを甜麺醤だらけにして野生児のように笑い、シュンも八本の腕のうち
二本で器用に次の薄餅を巻きながら、
「美味しい……脳のシナプスが全部繋がっていくみたいです。
これならいくらでもルートの階層計算ができます」と目を細めていた。
「フハハハハ!それだよみんな!
これぞ、これこそがシステムに管理されない、
冷徹なデータセンターと物理要塞を人情の熱で満たす、
マリアン流下町中華の骨頂だ!!」
メコンが、高級な扇子を放り出して、自分も北京ダックを二本同時に口へ放り込み、
琥珀色の脂を滴らせて涙を流していた。
全員が美味い飯を囲み、同じテーブルで笑顔で口を動かす様子を、ちび女将マリアンは
満足そうに、本当に愛おしそうに見つめていた。
「いいかい、あんた達。
二階の事務所で数字を睨むサトルも、
一階の受付と警備室で目を光らせるメッキーもジッジーも、
外の悪路を爆速で駆けるウサミチもシュンちゃんもさ。
みんながそれぞれの縄張りで、プロのプライドを持って
『杏』の土台を支えてくれているから、
わーしは安心して一階の厨房で大好きな鉄鍋を振るえるんだよ」
マリアンは小さな、だけど誰よりも強い拳を、応接室のガラステーブルにトン、と置いた。
「どんなに立派な運営マニュアルや防犯カメラがあったって、
それを動かす人間の腹が減ってちゃ、正しい判断はできないさね。
しっかり食って、しっかり守って、しっかり稼ぐ!
うちらの店を信じてやってくるお客さんが、一人残らず安心して、
お腹いっぱいに温かい飯を食えるように、その自慢の頭脳と足と腕で、
ウチの土台をがっちり支えておくれな!」
「「「「――了解、ちび女将!!」」」」
二階のオープンフロアでは、事務員たちの手によって入金機がジャラジャラと景気のいい
音を立てて売上を数え上げ、一階の警備室ではジッジーの防犯シールドが青く美しくモニター
全画面に展開され、搬入口からはウサミチ達が再び魔界の荒野へと力強く飛び出していく。
ただの下町の中華屋だった『杏』は今、一階の鉄壁の物理警備・物流と、二階の
強固な統括事務所という、完全なる巨大モールの骨格をその身に戴き、どんな混沌の大津波が
押し寄せようとも絶対に揺るがない、不沈の商業要塞へと大進化を遂げるのだった。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
サトルの数字管理にジッジーの一階警備室、そしてウサミチとシュンちゃんの物流ヤードの連携、
最高に格好良かったねぇ!
モールの二階事務所には売上を入れる入金機や両替機、奥には応接室やマネージャー個室があって、
一階警備室には電源パネルや防犯カメラ、外部の業者通用口がある。
このリアルな仕組みがあってこそ、うちらの巨大な『杏』の安全は守られているのさね。
神崎さんが腕を振るってくれた北京ダックのパリパリ感、冷徹なエリート達の心も一瞬で
ハッピーにする最高の魔法だったねぇ。
あんた達のブックマークや評価(☆)が、中央事務所の魔導サーバーを強化する最高のバフに
なるんだ。これからも頼もしい司令塔たちを応援しておくれな!
システム(閻魔)からの出題
【Q15:一階の警備室にある、モールの安全を守る重要な設備はどれ?】
① 自動お釣り両替機と入金機
② 特製オカモチとスパイダーデリバリー
③ 魔力電源制御パネルと中央防災盤
「ヒントはねぇ、ジッジーの背後で赤く明滅していたフィジカルセキュリティーの要さね。
さあ、どれが正解か分かったかい?」




