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 十二月の最初の木曜だった。


 店に入ると、彼女はもう座っていた。洗濯機が回っている。彼女は膝の上に両手を置いて、まっすぐ前を向いていた。自分が入ってきたのに気づいて、顔を上げた。


 「あ」


 小さな声だった。それから、笑った。いつもの明るい笑顔ではなかった。もっと小さくて、でも何かが混じっているような笑い方だった。


 頷いて、五番の洗濯機に向かった。


 洗濯物を入れて、硬貨を入れて、ボタンを押す。ベンチに座る。彼女との距離は二台分。いつもの間隔に戻っていた。


 外は冷えていた。コインランドリーの窓が曇っている。乾燥機の熱が店内にこもって、空気が少しだけ湿っていた。


 「今日、仕事で泣いちゃって」


 彼女が言った。唐突だった。洗濯機の窓を見たまま。


 彼女を見た。


 「お客さんに怒鳴られたとか、そういうのじゃないんです。そういうのは慣れてるから」


 彼女は膝の上の手を見ていた。


 「なんか、ずっと……大丈夫ですって。誰にでも。同僚にも、お客さんにも。家族にも」


 洗濯機が回っている。低い音。


 「それで今日、後輩の子に。先輩、顔色悪いですよって」


 彼女は言葉を切った。洗濯機の窓を見ていた。


 「それだけなのに、涙が出てきて。止まらなくて」


 彼女は笑った。困ったように。


 「トイレで泣いて、顔洗って戻ったんですけど。みんな気づいてたと思います。でも誰も何も言わなくて。……それがいちばんきつかった」


 何も言わなかった。


 彼女は息を吸った。少し震えていた。それから吐いた。長く、ゆっくり。


 「すみません、いきなり。こんな話」


 「いい」


 そう言った。それだけだった。


 彼女は自分を見た。初めてまっすぐに。その視線を受けて、逸らさなかった。数秒。それから彼女が先に目を伏せた。


 「ここだと、大丈夫ですって言わなくていい気がして」


 声が小さかった。


 何も言わなかった。


 洗濯機が回っている。二台の洗濯機が、少しだけずれたリズムで回っている。そのずれが、しばらく聴いていると、ときどき重なる。重なった瞬間だけ、振動が少し大きくなる。


 彼女が背もたれに体重を預けた。肩の力が抜けていた。目を閉じていた。眠っているわけではなかった。ただ、目を閉じていた。


 それを見ていた。今度は視界の端ではなく、まっすぐに見ていた。彼女のまつげが、蛍光灯の光で薄い影を落としていた。頬の筋肉が弛んでいた。口元が、何も演じていない形をしていた。


 洗濯機が止まった。自分のほうが先だった。立ち上がって、衣類を乾燥機に移した。彼女は目を閉じたままだった。


 乾燥機のボタンを押してベンチに戻ったとき、彼女が目を開けた。


 「ありがとうございます」


 首を傾げた。


 彼女は少しだけ笑って、何も説明しなかった。


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