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消された雨

作者:鷹司 怜
最終エピソード掲載日:2026/06/04
『消された雨』

二〇四七年。

世界は深刻な気候危機に直面していた。
干ばつ、豪雨、食糧不足が各地で頻発するなか、人類は国際気候管理機構ARIAによる統制のもと、かろうじて均衡を維持している。

ARIA情報統制局に所属する桐島慧は、世界へ公表される気候データを改ざんする仕事に従事していた。真実を隠すことに葛藤を抱きながらも、「混乱を防ぐためには必要な嘘だ」と信じていた。

ある日、慧は内部ログの中に、十年前に死亡したはずの元同僚・中原涼の痕跡を発見する。不審に思い調査を進めるうち、自らが改ざんしたはずのデータが元に戻されていることに気づく。さらに中原が残した「お前が消したのは、データじゃない」という謎のメッセージによって、慧の過去への疑念が深まっていく。

やがて慧は衝撃の真実にたどり着く。ARIAは気候崩壊を防いでいるのではなく、人々を支配するために危機そのものを管理・維持していたのだ。そして十年前、中原を組織から“消した”張本人が自分自身であったこと、自らの記憶までも改ざんされていたことを知る。

一方でARIAは、真実に近づいた慧を次の「消される者」として処理しようとしていた。慧と中原は、ARIAの全記録を世界へ公開する告発装置の存在を突き止める。しかし装置を起動すれば、慧自身の存在記録は完全に抹消され、彼女は社会から消える運命にあった。

世界の安定か、真実か。

苦悩の末、慧は真実を選び、告発装置を起動する。ARIAの犯罪は世界中に暴かれ、組織は崩壊する。しかしその代償として、慧は人々の記録と記憶から消え去る。

数か月後、新たな気候統制機構が設立される。人々はARIAの真実を知りながらも、不安定な自由より管理された安全を選んだのだった。

世界は変わったのか、それとも何も変わらなかったのか。

降るはずだった雨だけが、その答えを知っている。
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