表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった  作者: 鳥助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/38

6.マナの存在(ルティア視点)

 王宮に連れ帰った日から、私の世界は、ほんの少しだけ色を取り戻した。


 冷たい石造りの回廊も、重く垂れ込めていた空気も、なぜか柔らいで見えた。あれほど息苦しかった場所が、マナがいるだけで、違うものに変わっていく。


 マナはまだ王宮の広さに戸惑っていて、きょろきょろと辺りを見回していた。その仕草があまりにも無防備で、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 その小さな背中を見ているだけで、守りたいという感情が自然と湧き上がる。まるで、凍りついていた心に春が差し込んだみたいだった。


 朝、目を覚ますと、まず思い浮かぶのがマナのことになった。今日はどんな顔をするだろう。ちゃんと眠れただろうか。食事は口に合うだろうか。それだけで、起き上がる理由ができた。


 公務の合間、ふとした瞬間に思い出す。ぎこちない礼の仕方。慣れない言葉遣い。真っ直ぐにこちらを見る瞳。


 思わず口元が緩む。以前の私なら考えられなかったことだった。


 ほんの些細なことで、私たちは笑い合った。廊下で足を滑らせそうになったこと。甘い菓子に目を輝かせたこと。庭園の花を見て、子どものように感嘆の息を漏らしたこと。


 言葉を交わすだけで、胸が満ちていく。こんなにも簡単に、幸せを感じていいのだろうかと、戸惑うほどに。


 マナの頭を撫でると、少し照れたように目を細める。その柔らかな髪の感触が、指先に絡むたび、胸の奥の傷が静かに塞がっていく気がした。


 抱きしめれば、確かな温もりが腕の中にある。生きている。ここにいる。それだけで、涙が出そうになる。


 ナディアを抱きしめたときとは違う体温。違う鼓動。違う匂い。それなのに、どうしてこんなにも安心するのだろう。


 世話を焼く時間が、何よりも愛おしかった。食事の好みを知り、衣服を選び、勉学を教える。転ばないように手を差し出し、疲れていればそっと背を撫でる。


 守っているという実感が、私を支えた。私はまだ、誰かの盾でいられる。誰かのために、ここに立っていられる。その事実が、どれほど救いになったことか。


 王宮の冷たい石壁の中で、失われたはずの時間が、少しずつ戻ってくる。ナディアがいた頃のように、笑う理由があり、帰る場所があり、守るべき存在がいる日々。


 広すぎた寝室は、マナが訪れるだけで温かくなる。何気ない報告を聞き、今日あった出来事を共有する。そのひとときが、私の一日の終わりを優しく包んだ。


 空っぽだったはずの胸が、今は満ちている。失ったはずの希望が、形を変えて戻ってきたみたいだった。


 マナは、私の光だった。生きる理由だった。この子が笑ってくれるなら、どれだけ重い責務も耐えられる。この子がここにいる限り、私は壊れずにいられる。


 尊い時間が、確かに戻ってきていた。失われたはずの温もりが、再び私の腕の中にある。だからきっと、大丈夫だと思えた。


 今度こそ、守れると。今度こそ、失わないと。そう、信じた。


 穏やかな日々は、あまりにも唐突に裂けた。目の前で、八つ裂きにされた。


 守ると誓った子が。崩れ落ちる小さな体を、ただ見ていることしかできなかった。また、間に合わなかった。また、守れなかった。


 胸の奥がひしゃげる。内側から抉られるように痛い。息ができない。視界が滲む。


 謝罪が喉の奥で形になる前に、世界が歪んだ。視界が反転する。音が遠ざかる。


 気がつくと、私はマナの前に立っていた。それは、マナがメイドになった日。


 無傷の体。何も知らない瞳。私は、息を止めた。夢だと思った。きっと、疲れているのだと。あまりにも衝撃が強すぎて、都合のいい幻想を見ているのだと。


 けれど、脳裏に焼き付いた光景は消えない。裂ける音。飛び散る血。途切れる呼吸。


 あれは夢ではない。あれは、現実だ。私は守れなかった。


 守ると約束したのに。守ると誓ったのに。目の前で、あの子は死んだ。


 ここに連れてきたのは私だ。王宮という檻に閉じ込めたのは私だ。狙われる場所に置いたのは、私だ。


 全部、私のせいだ。私がいるから、マナは死んだ。私が守れなかったから、あの子はあんな痛みを味わった。


 全然、足りない。覚悟も、力も、決意も。私は何もできなかった。私が悪い。私が、私がいるから。


 だから次こそは守らなくちゃいけない。同じ未来にはさせない。どんな手を使っても。この身がどうなっても。


 そう決めたはずなのに、また、マナは死んだ。形を変えて、何度も、何度も。


 そのたびに、私は間に合わないまま凍りつき、目の前で裂けていく小さな体を見つめることしかできず、喉が潰れるほど叫んだ。


 癒しの力を使う前にマナが死んでいく。なんの為の力だと何度も自分を責めた。


 血の匂いと断末魔と途切れる鼓動が現実として刻みつけられ、守ると誓った言葉の軽さと無力さを思い知らされながら、結局は何一つ守れなかった自分の愚かさと弱さと傲慢さを何度も何度も突きつけられて、私はただ、守れなかったという事実の前に立ち尽くすことしかできない。


 そのたびに、血を見る。そのたびに、絶望する。


 そして――戻る。あの日に。メイドになった最初の日に。


 私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。私がマナを殺した。許されない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~

魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった

この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ