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過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった  作者: 鳥助


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37.決行の日(2)

「やっぱり、あなたがルティア様を狙っていたんですね」


 そう言った瞬間、デイリーの顔がぐにゃりと醜く歪んだ。


「どうして……私の計画が……。まさか、マナ。あなたの仕業?」

「ルティア様が狙われていることには気づいていました。だから、先手を打たせてもらったんです」


 私は静かに言う。


「もう諦めてください。ここで降参するべきです」


 だが次の瞬間、デイリーの顔が怒りに染まった。


「ふざけるな!」


 甲高い叫びが暗闇の部屋を裂く。


「妹を殺したルティアを、私が許すと思うの!?」

「責任転嫁はやめてください。ルティア様は殺していません」

「うるさいっ!」


 デイリーが狂ったように叫ぶ。


「あの女が妹をナディアに付けさえしなければ……! こんなことにはならなかった!」


 言葉は通じない。最初から、聞く気などないのだ。ルティア様を憎む理由を、自分の中で作り上げているだけ。


 私は小さく息を吐いた。説得は、もう無理だ。腰のナイフを抜き、両手に構える。刃が月明かりを受けて鈍く光った。


 一方のデイリーは、すでに騎士たちとの戦闘で深い傷を負っている。腕や足には大きな切り傷があり、血が滲んでいた。万全の状態とは程遠い。


 それでも、油断はできない。だけど、勝てる可能性はある。私は静かに足を踏み出した。


「総員、かかれ!」


 すると、騎士の一人で声を上げた。動ける騎士が剣を構えてデイリーに向かっていく。次々と剣を振るうが、弾かれ、いなされ、避けられる。それでも、怪我のせいか防戦一方になる。


 私はひたすらデイリーに隙が出来るのを待った。闇雲に戦えば、自分の体が傷つく。そうなると、ルティアが傷つく。また、私を守ろうと飛び出してくる可能性がある。


 だから、今回は傷を負えない。ルティアにまた辛い思いをさせたくない。だから、機会を窺う。


 騎士たちが少しずつデイリーを追い詰めていくが、デイリーはそうはさせまいと激しく剣を振るう。戦いは膠着しつつあった。


 その時、騎士の二人が同時に剣を振るった。その剣を受け止め、デイリーの動きが止まった。ここが、チャンスだ!


 瞬時に駆けて、デイリーの目の前に飛び出す。そして、正面からナイフを振るった。


「ぐっ……!」


 だが、デイリーは咄嗟に体を曲げて、その一撃を避ける。だけど、完全には避け切れなかった。横わき腹に深くナイフが通ったのだ。


 すると、デイリーの体勢が崩れる。


「今だ! 畳みかけろ!」


 その声に動ける騎士たちが一斉に飛び掛かった。その怒涛の攻撃にデイリーは防戦一方。次第に状況はこちらに傾いてきていた。


 私は死角へと移動して、デイリーの隙を伺った。騎士の猛攻を受けても、尚も抵抗し続けるデイリー。うかつに出てしまえば、こちらがやられる。


 飛び出したい気持ちを抑え待っていると――デイリーの膝がガクッと落ちた。攻めるなら、ここ!


 瞬時に飛び出し、デイリーの死角を狙う。ナイフを構えると、それを勢いよく突き出した。


「ぐっ……!」


 ナイフはデイリーの背中を貫いた。その衝撃でデイリーの動きがピタリと止まり、膝を着いた。


「今だ! 抑えろ!」


 その声に私は後ろに飛んだ。その次の瞬間、騎士たちがデイリーに乗りかかり、その動きを拘束する。


「は、離せ! 私は、私はっ!」


 尚も暴れるデイリー。だけど、上から騎士たちが体を取り押さえる。そして、その手と足を縄で縛られ、デイリーは拘束された。


「尋問はこれからだ、覚悟しておけ!」


 縛られたデイリーは騎士たちに抱えられて、部屋の外に連れ出された。


「では、今から報告をしてくる。それに、部屋に人員を補充する。それまで、ルティア王女を任せてもいいか?」

「もちろんです」


 騎士の人がそういうと、部屋には私だけが残された。部屋は荒れ果ててしまい、とても落ち着いてはいられない。


 いや、そんな事よりもルティアだ。すぐにタンスに駆け寄ろうとすると、先にタンスが開いた。


「マナ!」


 ルティアが飛び出してきて、すぐに私を抱きしめた。


「マナ、マナ、マナ! 危険な事をして、また死ぬかと思った! また、マナが傷つくかと思った!」


 そして、我慢をした分だけ叫んだ。その悲痛な気持ちが伝わってきて、私も心が痛くなる。だけど、こうするしかルティアを守れなかった。


「また、あの瞬間が来ると思ったらっ……! また、血まみれになるマナになったらっ……!」

「大丈夫です、もう大丈夫ですよ。ほら、見てください」


 私は体を離して、自分の体を見せつける。


「見てください。どこも血が流れていません。傷もついていません。約束した通り、無事に戻ってきたでしょう?」


 落ち着かせるように笑顔でいうと、ルティアは戸惑ったように手を伸ばしてくる。そして、頬を撫で、首を撫で、肩を撫で、お腹を撫でた。


「ほら、怪我なんてしてません。私は無事ですよ」


 その手をギュッと握って、もう一度伝える。だけど、それでもルティアの顔は晴れない。


「怖かった、怖かったのよ……。マナが戦いに出ると、また死ぬんじゃないかって思って……」


 私が何度も死んだのが相当トラウマになってしまったらしい。そう簡単にルティアの曇った目は元には戻らない。


 少しずつ削っていった心は、暗殺者がいなくなったからといって、すぐに元に戻ることはない。


 その事実を見せつけられて、心が軋む。それだけ、ルティアを苦しめていたという事実を改めて見せつけられた。


「……すいません、ルティア様。私が……私がルティア様を苦しめて……」


 どうして、ここまでルティアを追い詰めてしまったのだろう。もう少し早く、気づけばよかった。そうしたら、ルティアを苦しませずに済んだのに。


「あぁ、お願いマナ……もう無理をしないでっ。ずっと、傍にいてっ……」


 そう言って縋りついてくるルティアの目は曇っている。焦がれていたあの目は戻ってこない。自分が原因で曇らせてしまった。


 だったら、自分で取り戻すしかない。ルティアが元に戻るまで、ずっと……。


「安心してください。これからは離れませんから。ルティア様が元に戻るまでずっとお傍にいます」


 ルティアの曇りがなくなるまで、ずっと傍で仕えていこう。それが、私にできる贖罪だ。

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