35.必要な段取り
そんな冷たい顔をするルティアを始めてみた。背筋が凍り付きそうになるのを堪え、私は首を横に振る。
「今は教えられません」
「どうして、そんなことをいうの? だって、その人はマナを何度も殺した人。すぐに殺さなきゃ、またマナが死ぬ。そんなことは絶対にさせない。惨たらしく殺すべきだわ」
地の底から湧き上がるような怒りを抑え、言葉を絞り出した。今にもナイフを持って突撃しそうなルティアを見て、私は落ち着かせようと口を開く。
「何度も繰り返した中で私は殺されましたが、今はまだ殺されていません。だから、今先に手を出してしまえば、ルティア様が人殺しになります。それは、絶対に避けたいです」
「私がどう思われようともいいのよ。マナが無事で生きてさえいれば、私はそれでいい」
「それはダメです。私が許しません」
きっぱりと伝えた。すると、ルティアが動揺した様子を見える。
「マナが……許さない? そ、それはいや……。マナに嫌われると、私……生きていけないっ。ごめんなさい、マナ! 私が出すぎたわ! だから、嫌わないで! 傍にいさせてっ!」
曇った目で動揺し、許しを請う。こうなるから強く否定はしたくなかったんだけど、これもルティアを守るためだ。
「大丈夫です、嫌いになりませんよ。でも、私の話をちゃんと聞いてくれますか? それだったら、ルティア様を好きでいられます」
「私……マナの言うことを聞くわ。ちゃんと聞く。それでマナが喜んでくれるのよね。だったら、ちゃんと聞くからっ……」
相変わらずの曇りっぷり……。でも、暗殺者の件が終われば、きっとルティア様も元に戻ってくれるはず。だから、ここは心を鬼にしてやらないと。
「それで、マナはどうするの? 暗殺者が分かったのに、放置をするの?」
「暗殺者は護衛騎士も倒す力量を持っています。そして、私との力量差は五分くらい……。運命の日まで私自身を鍛えるか、もっと他の手段を取る必要があります」
「他の手段……。だったら、騎士を増やすのがいいと思うの。マナ一人で戦わせるのは酷だから、もっと味方がいればいいと思うんだけど……」
その方法は考えていなかった。私しか暗殺者がいることを知らない状況で、他の人の力を借りるなんて想像がつかなかった。
だけど、今回はルティアがいる。ルティアも死に戻りを知っているし、暗殺者がいるって分かっている。だったら、ここは二人で協力し合って暗殺者に立ち向かうのがいいのではないだろうか?
「その方法はとてもいいと思います。今の私では暗殺者を止められません。ですが、他の人の力を借りれば……」
「そうしたほうがいいわ。マナだけに戦わせるのは、とても心苦しいもの……」
正直言ったら自分の力だけでルティアを守れない現実は悔しい。だけど、私が欲しいのはルティアが生きている現実。そのためだったら、他人の力だって借りる。
「じゃあ、話を詰めていきましょう。次は絶対にルティア様を守ります」
私の言葉にルティアは頷き、話し合いは続いていった。
◇
作戦は決まった。暗殺者を捕まえる方法は、結局のところ単純なものだ。襲ってくる瞬間を待ち、現行犯で捕らえる。それだけ。
だけど、その「それだけ」が今まで出来なかった。証拠がなければ、暗殺者の存在そのものを誰も信じない。私が「未来で殺されました」と言ったところで、まともに取り合ってもらえるはずがないからだ。
だからこそ、今回は違う。ルティア様がいる。
ルティア様が「自分を狙う者がいるかもしれない」と言えば、話は別だ。王族の命に関わる問題となれば、騎士団はすぐに動く。
そして実際、動いた。ルティア様が王宮の騎士団長に相談した結果、護衛の増員は驚くほどあっさりと認められた。
理由は単純だ。王女の不安を取り除くため。それだけで、騎士が数名派遣されることになったのだ。
もちろん、騎士たちは作戦のすべてを知っているわけではない。「王女を狙う不審者が現れる可能性がある」という程度の説明だけ。
それでも十分だ。暗殺者が襲い掛かってきた瞬間、部屋に潜ませた騎士たちが一斉に取り押さえる。
いくら暗殺者が強くても、数には勝てない。護衛騎士すら倒す実力を持つ相手だとしても、囲まれてしまえば終わりだ。
逃げ場はない。抵抗する暇もない。捕まる。きっと、何も出来ないまま。そう、これは罠だ。
暗殺者をおびき出すための、単純で、確実な罠。そして作戦の最後のピースは――暗殺者が「動きやすい状況」を作ること。
暗殺者が明らかに行動を早めた時があった。それは、メイドを解雇した時だ。この王宮から去らなければいけない状況になると、その前に実行しようとするだろう。
だから、作戦決行の日。ルティアはメイドを解雇した。後は、その夜に暗殺者が忍び込んでくるのを待つだけとなった。
今度こそ、ルティアを守る。




