34.暗殺者探し(3)
「じゃあ、マナ。その花瓶を拭いて」
「はい、分かりました」
疑惑のデイリーと一緒に掃除をする。指示された花瓶の前に立つと、布巾で綺麗に拭いていく。
ここで、トルシーとエリーにはなかった身体能力があるか確かめる。まぁ、護衛メイドというのだから、身体能力は高いはずだ。
だけど、一度この目で確かめておきたい。そう思って、花瓶を拭くふりをして――花瓶を棚から落とした。
「あっ……」
花瓶が落ちて、割れ――。
「待った!」
なかった。とっさにデイリーが軽い身のこなしで花瓶をキャッチしたのだ。明らかにあの二人よりも俊敏な動き。暗殺者に匹敵する身体能力だ。
「ふー、危ないところだったわね。もう、気を付けないとダメよ」
「ごめんなさい……。デイリーさんのお陰で助かりました」
一応、反省したようにしゅんと項垂れた。やはり、暗殺者はデイリーなのだろうか? メイド三人の中で一番身体能力が高い。だけど、動機がない。
ここはもっと探るべきか? そう思っていると、項垂れた私の頭をデイリーが撫でてくれた。
「反省したなら、いいのよ」
顔を上げると、慈しみの溢れた顔でこちらを眺めていた。それは、いつもの優しい感じじゃなくて、もっと別の何かに感じた。
それはルティアと似たような感じ。だけど、少し違うところがある。その中に悲しさを感じた。
「デイリーさんは嬉しそうでも、なんだか悲しそうですね」
「えっ? そ、そうみえる?」
「はい。何か、あったんですか?」
何かのヒントになればと思い、尋ねてみた。すると、デイリーは気まずそうに視線を逸らす。
「ちょっとね……死んだ妹の事を思い出していたの」
……まさか、デイリーさんにも死んだ妹が?
「その妹さんは、どうして?」
「……私の妹もメイドをしていたわ。それも、ナディア様のね」
デイリーさんの妹もメイドを? その話は初耳だ。
「ナディア様が襲われた時、妹もその場にいて……殺されたの」
その話に息を呑む。まさか、そんな状況になっているとは知らなかった。ということは、ルティアとデイリーは同じ辛さを味わった人?
「巻き添えになって死んでしまったの……」
そう、俯くデイリーの目は酷く曇っていた。だけど、それも一瞬のことで、すぐに目の色を変える。
「もし、ルティア様が取り立てていなかったら、こんなことにならなかったのに……」
静かに怒る目がそこにはあった。悔しそうに目を細め、手を握りしめる。
「年が近いからという理由だけで妹が取り立てられて……一緒に殺されて……」
低く唸るような声で搾りだした。その後、何か言い出しそうだったが、その言葉を吞み込んでしまって聞けなかった。
黙って聞いていると、ハッとデイリーが我に返った。
「ご、ごめんなさいね! こんな話をするつもりはなかったの! さぁ、掃除の続きをしましょう?」
慌てたように笑顔を作ると、デイリーは掃除に戻っていった。そして、何事もなかったかのようにテキパキと動き始める。
……デイリーの動機が見えてきた気がする。妹が死んだ原因をルティアだと思っている。その恨みで暗殺を考えている。
暗殺者としての力量もあり、動機もある。暗殺者はデイリーだ。
◇
「あぁ! マナ、会いたかったわ!」
みんなでお出迎えをすると、すぐにルティアが抱き着いてきた。
「これから、マナと二人で部屋でくつろぐから、みんなは休んでいて」
「かしこまりました」
そう言って、ルティアが指示をすると、侍女もメイドも動き出した。私は軽々と持ち上げられて、椅子に座らされた。
そして、テーブルにはあっという間にお茶とお菓子が用意される。そして、部屋には私とルティアだけになった。
「マナは何をしていたの? 寂しくなかった? 大変じゃなかった?」
「大丈夫です。お陰で色々な事が出来ました」
「そう? でも、満足そうなマナの顔を見たら、そう思えてきた。本当はマナには仕事もして欲しくないんだけど……そうじゃないと、マナに怒られるから仕方なく……」
あまり納得してないようにぶつぶつと愚痴を零す。その姿を見て心が和む。やはり、普通のルティアが良い。
「じゃあ、お菓子を食べさせてあげるわね」
「その前にお話があります」
「お話? マナからお話? 何、何でも言って!」
私の言葉にルティアはとても嬉しそうに笑った。まるで、おやつを待つ犬のように。
「暗殺者が誰なのか分かりました」
そういうと、ルティアの笑顔が凍り付いた。
「そ……それは本当?」
「はい。見立てが正しければ、合っていると思います」
震える声のルティアに私は強く頷いて見せた。すると、ルティアの雰囲気が変わった。笑顔から無に、明るい目から冷たい目に。
その体から発せられる圧はとても強いものだった。
「……だったら、教えて。その人、殺すから」
座った目でそう言った。




