32.暗殺者探し(1)
赤ちゃんプレイに絆されている場合じゃない。ここは、しっかりと自分の意思を持って、ルティアのために動くべきだ。
「じゃあ、マナ。一緒に行きましょう?」
そう言って、私を持ち上げるルティア。毎日のように連れまわされたら、やりたいことが出来ない。
だから、ここは確固たる気持ちで――。
「私は行きたくありません。公務はとても大変で、辛くて死んでしまいそうです」
はっきりと伝えた。ここまで強く言えば、きっとルティアも分かってくれる。
そう思っていると――ルティアの顔が絶望に染まった。まるで、大きな罪を背負ったような顔だ。
「わ、私……死よりも辛いことをマナに課せようとしていたの? 私、そんなつもりじゃ……。マナを心配して、それで……。でも、それはマナのためじゃなくて、私の身勝手なっ……」
わなわなと体を震わせ、ショックを受けている様子だ。その姿を見るのは辛い。だけど、このままじゃいけない。
「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! そんなつもりはなかったの! 私、酷いことをっ! マナに酷い仕打ちを! き、嫌わないでっ……こんな私を嫌わないでっ!」
曇った目で涙を流す。悲痛な心を叫んで、許しをこう。その姿は見たくなかったが、そうじゃないと前進しない。辛い気持ちをぐっと堪えて、ルティアに言い聞かせる。
「ルティア様の気持ちは分かっています。嫌いにはなりませんよ」
「ほ、本当? 本当に嫌わない? 酷いことをしようとしたのに?」
「はい。だから、安心してください。ルティア様お一人に辛い公務を押し付けるのは心苦しいのですが……」
「そんなことないわ! 全然辛くないわよ! だから、マナがそんなに辛い思いをしなくてもいいの!」
少しはこちらの話を聞いてくれるようになったみたいだ。
「だったら、お一人で公務に行けますか?」
「もちろんよ。行く、行くわ。行くから、マナは苦しくならない?」
「はい。全然苦しくないですよ」
そういうと、ルティアはようやくホッとした表情になった。そうして、ルティアは少し名残惜しそうにこちらを見ながら、公務に出かけていった。
ルティアと離れるのは寂しいけれど、こうでもしなきゃ自分が自由に動けない。この間に、今度は絶対に暗殺者を見つける。
◇
私は記憶を整理する。暗殺者はメイドの中にいる。それはもう確信している。
だけど。問題はそこからだ。誰なのかが、分からない。容疑者は三人。
まず一人目、トルシー。トルシーの家は、王妃派の貴族。そして王妃は、ルティアを良く思っていない。
理由は分かりやすい。ルティアは最近、癒しの力に目覚めたからだ。「神の奇跡」に近い力を持つ王族の存在は、政治的な意味を持つ。求心力もあるし、王位争いにも影響する。
王妃からすれば邪魔な存在。だから密かに命令を出して、亡き者にしようとしている。……という可能性は、十分にある。
次はエリー。彼女は、メフェスト聖教の信者だ。しかも、ただの信者じゃない。かなり深く信仰している。
祈りの言葉をよく口にするし、聖教の話になると目が輝く。悪い人ではない。
でも、問題がある。メフェスト聖教には、聖女がいる。癒しの奇跡を使う、正真正銘の聖女。
そしてエリーは、その聖女を心から敬っている。……だからこそ。突然癒しの力が目覚めたルティアを、良く思っていない。
以前、ぼそっと言っていたことがある。「奇跡は神が選んだ者に与えられるもの」と。
つまり、言い換えれば、ルティアは選ばれた存在じゃない。そう思っている可能性がある。
信仰の暴走。あるいは、聖教からの命令。どちらにしても、ルティアを排除する理由は成立する。
そして三人目。デイリー。彼女は護衛メイドだ。
剣を持てば、たぶん普通の騎士より強い。動きも洗練されていて、隙がない。正直に言うと、もし彼女が暗殺者だったら一番厄介だ。
ただし問題がある。動機がない。少なくとも、今のところは。
デイリーは仕事を忠実にこなす。ルティアへの態度も普通だ。敵意も、嫌悪も、特に感じない。だから今の時点では、疑いは弱い。
でも、彼女に明確な動機が見つかったら。その瞬間、一番怪しい人になる。
誰も、普通に見える。誰も、怪しく見える。この中にルティアを殺そうとしている人がいる。
この中から洗い出すには、どんな手段を取ればいいだろうか? 暗殺者にあって、普通のメイドにはないもの……やはり、戦闘力。
戦闘力がなければ、護衛騎士を殺すことは出来ない。だったら、デイリー以外の二人に戦闘力があるか調べないといけない。
そして、二人に戦闘力がなければ、容疑者はデイリーに決定だ。




