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過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった  作者: 鳥助


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28.癒してあげる(1)

 その後も私はルティアに付き添い、一緒に公務をこなした。面会に訪れた人々にはいつも通り穏やかに応じているのに、時折こちらへ向けられる視線だけが違う。


 優しい。けれど、その奥に暗く冷たいものが沈んでいる。


 きっかけは、たぶんあの猫だろう。けれど、態度が変わるほどの出来事があったわけでもない。


 だからこそ、理由が分からない。私の頭の中には、ただ疑問符ばかりが浮かんでいた。


 そして公務を終え、ルティアと共に私室へ戻ってきた。侍女もメイドも下がり、私室にはルティアと私だけになった。


「マナ」


 椅子に腰かけるルティアが私を呼ぶ。私はすぐに傍に寄った。


「はい、なんでしょうか?」

「あなた、猫に癒されたって本当?」


 あっ、やっぱりあのことが原因でルティアの雰囲気が変わったんだ。


「えっと……はい……」

「どんなことで癒されたの?」


 静かな声だった。けれど、逃げ道を塞ぐような響きがある。私は少しだけ迷いながら口を開いた。


「その……膝の上に乗ってきてくれて、喉を鳴らして……撫でていたら、すごく落ち着いたんです」


 思い出すと、自然と顔が緩む。あの柔らかい毛並みと温かさ。小さな体がこちらを信頼して預けてくる感じが、どうしようもなく心地よかった。


「それに……ずっと撫でていたら、すり寄ってきて。すごく可愛くて……」


 そこまで言って、ふと口を閉じた。……空気が、重い。


 ゆっくりと視線を上げると、ルティアがこちらを見ていた。微笑んでいる。けれど、その瞳はまるで底の見えない水のように暗かった。


「そう」


 短い相槌。けれど、それだけで胸の奥がひやりと冷える。


「膝の上に乗ってきて、撫でてもらって……あなたを癒したのね」


 ルティアは椅子の背に体を預け、指先で肘掛けをゆっくりとなぞった。


「許せない」


 低い声に、思わず肩がびくりと跳ねた。今のは聞き間違いではない。確かに、ルティアはそう言った。


「ル、ルティア様……?」


 恐る恐る名前を呼ぶ。けれど、ルティアはすぐには答えなかった。


 態度の豹変に驚いていると、ルティアが私の両頬を両手で包み込んで、顔を上げさせられた。


「……ねえ、マナ。どうしてなのかしら。あなたは疲れていたのでしょう? 公務も多くて、気を遣うことも多くて……きっと心だってすり減っていたはずよね。だったらどうして、その心を癒したのが私ではないの?」


 言葉が、胸に重く落ちた。


「私はずっと、あなたの傍にいたわ。あなたが疲れているのも、無理をしているのも分かっていた。だから、守ろうと思った。支えようと思った。あなたが少しでも楽になるようにって……ずっと考えていたのに」


 ルティアの手が少し震えた。


「それなのにただの猫が、あなたを癒した? おかしいじゃない。だって、あなたを癒すのは……本来、私の役目でしょう?」


 信じられない、と言うように小さく笑う。けれど、その笑みは少しも楽しそうではなかった。


「あなたの心を慰めるのも、あなたを安心させるのも、あなたが笑えるようにするのも……全部、私がやるはずだったのに……どうして、猫なんかに出来るの? どうして、私じゃないの?」


 ルティアの瞳の奥で、暗い感情が揺れている。


「あなたを癒すのは、私じゃなきゃいけないの。私でなきゃ駄目なのよ」


 そう言って、私の目を見つめてくる。その暗く重い感情に心が痛くなる。


 そうさせたのは、私が何度も死んだから。何度も死ぬ場面を見せて、ルティアに辛い思いをさせたから……。


 私が悪い。もっと、上手く出来てさえいれば……って! 私まで曇ってどうする! 私が曇ったらルティアを救えない!


 自責の念にとらわれているルティアを救えるのは私しかいない。だったら、何か手を!


「そ、そうですね! 私を癒してくれるのはルティア様しかいません。だから、公務の疲れを癒してくれませんか?」


 精一杯の笑顔を浮かべてそう言った。きっと、私が求めるとルティアは気を取り戻してくれる。そう思って。


 すると、暗く沈んだ目をしたルティアがハッとした表情になった。


「そうよね、私しか癒せないよね。だったら、たっぷりと癒してあげるわ。こっちに来て、マナ」


 明るい顔をしたルティアが私の手を引いて歩く。向かった先は広いベッド。その上に乗り、向かい合わせになった。


「えっと……ここで何を?」

「もちろん、マナを癒すの。私がマナの猫になってあげる」


 ルティアが猫に? どうして、そんな話になるの?


 意味が分からず戸惑っていると、不意にルティアが私の目の前でゆっくりと身を屈めた。


 そして、そのままごろんと横になる。長い髪がベットの上に広がり、白い手が胸の前でくいっと曲げられる。まるで猫の前足みたいな仕草だった。


 こちらを見上げる瞳は、どこか甘えるように細められている。けれど、その奥には逃がさない何かが潜んでいる気がした。


「ほら、マナ」


 指先が小さく動く。猫が「撫でて」と催促するみたいに。


「にゃあ」


 ……猫の鳴き真似だった。一瞬、頭が真っ白になる。


 いや、だから。これをどうすればいいの!?

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