26.なんだか、さらに重くなったような……
「ふふっ。マナが膝の上にいると、とても心地いいわ」
「……重くありませんか?」
「羽のように軽いわ。このままだとマナが飛んで行ってしまいそうだから、しっかりと掴んでおかないとね」
レティアの膝の上に乗っていると、後ろからギュッと抱きしめられる。
「さぁ、マナ。沢山食べて。あなたの為に用意したお菓子とお茶よ。美味しいものを食べて、大きくならないと。まだまだ、マナは小さいんだから」
「えっと……私だけ食べても楽しくないので、ルティア様も一緒に食べて欲しいなって思います」
「それで、マナがもっと楽しくなるのね! だったら、一緒に食べましょう。マナがもっと楽しくなると、私も嬉しいから」
そう言うと、すぐに肯定してくれる。私の気持ちを最優先にしているみたいで、少しこそばゆい。
そして、私が菓子を一つ摘まむと、ルティアも一緒に摘まむ。
「マナ、美味しい?」
「はい。一緒に食べられて美味しいです」
「それは良かった。だったら、これからもずっと一緒に食べましょう。マナの楽しい気持ちが続くまで、ずっと……」
ルティアが錯乱状態になり、落ち着きを取り戻した。その事を、侍女やメイドに伝えると、早く落ち着いた事に安心した様子だった。
日頃の疲労が溜まっているせいもあるのだろう。この日はそのままルティアは休息日となり、私室でゆっくりと休むことになった。
そんなルティアが真っ先に私に尋ねてきた。何かやりたいことはないのかと。
そのルティアの質問を聞いた侍女とメイドが私を見てくる。まるで、ルティアのために答えろと言っているみたいだった。
だから、私は仕方なく一緒にお茶をしたいと願い出た。すると、ルティアはすぐに指示をして、お茶の用意をした。
用意が整うと、ルティアは当たり前のように私を膝の上に乗せ、お茶の時間が始まった。
いつもは楽しく会話をして、お茶とお菓子を楽しむ。そんな何気ない楽しさがあったのだが――。
「……マナ」
名前を呼ばれる。その声は穏やかで、柔らかくて、けれどどこか深い。
振り返ると、ルティア様は私を見下ろして微笑んでいた。さっきまで錯乱していたとは思えないくらい、落ち着いた表情だ。
だけど、その瞳の奥には、静かな闇に沈んでいた。
「こうしているとね……不思議なの。マナがここにいるだけで、私はちゃんと息ができるのよ」
静かな声だった。けれど、その一言一言が胸の奥に落ちてくる。
「何か特別なことをしてくれるわけじゃなくていいの。話をしなくてもいい。何もしてくれなくてもいい。ただ……こうして、私の傍にいてくれるだけでいいの」
私の肩を抱く腕が、優しく締まる。
「マナがここに座って、お菓子を食べて、時々こちらを見上げて笑ってくれる。それだけで……私は、自分がまだここに存在していていいんだって思える」
言葉は穏やかだった。けれど、胸の奥から絞り出すみたいに、ゆっくり続く。
「マナが笑うとね、不思議と私も笑えるの。ついさっきまで、何もかもが重くて、息が詰まりそうだったのに……あなたが笑うだけで、全部が少し軽くなる」
頬に、柔らかな指が触れる。
「だから、マナの気持ちが一番大事なの。何よりも尊重しなくちゃいけない。あなたが嫌な思いをすることは、絶対にさせたくないし……あなたが楽しいと思うことを、私は一番大切にしたい」
ゆっくりと、私の髪に頬を寄せる。
「マナはね……私にとって、特別なの。唯一と言ってもいいわ。こんな風に思える人は、もう他にいない」
その声は、穏やかだった。けれど言葉は、どこまでも重い。
「あなたがいるから、私は前を向ける。あなたがここにいるから、私は壊れずにいられる」
腕の中の温もりを確かめるように、抱きしめる力が少しだけ強くなる。
「マナは、私の希望なのよ。本当に……存在するだけで尊いわ」
くすっと、小さく笑う。その声は、とても優しかった。私自身を求められていると知って、嬉しかった。
だけど、やっぱり重い。というか、前よりも重くなっているような気がする。
私はルティアの本心を知って嬉しいを言ったからこうなったの? だから、ルティアは自分の気持ちを隠さずに言うようになったの?
だったら、今まで隠してきた本心ってこんなにも重いものだったんだ。それを思うと、素直に喜べない自分がいる。
もっと、軽くていいのに。もっと、ルティア自身のことを考えればいいのに。私の事ばかり考えて、話している。
嬉しい気持ちと複雑な気持ち。どっちもあって、どっちも選べない。
ルティアの曇りを晴らすのに、何をしたらいいの?




