16.動機探し
「あぁ、マナ! 離れてごめんなさい! 不安でしょう? 寂しいでしょう? 辛い思いをさせてしまうわ……」
「だ、大丈夫です!」
「マナは優しいから、平気なふりをしてくれるのね。そういう健気なところは好きだけど……いいえ、好きって言ったらマナに悪いわ。ごめんなさい、自分勝手で……」
「ルティア様は十分優しくしてくださいますから、それだけで救われますよ。ほら、早くいかないと公務に支障が出ますよ」
ギュッと抱きしめられて、思いのたけをぶつけられた。周りには侍女たちやメイドたちがいて、こちらを微笑ましそうに見つめている。皆の前で抱きしめられると、なんだか恥ずかしい……。
そうしていると、ルティアは名残惜しそうに体を離して立ち上がった。
「すぐ終わらせて帰ってくるからね。それまで、良い子にして待っていてね」
「はい。お待ちしております」
寂しそうな顔を見せながら、ルティアは侍女を伴ってこの場を離れていった。その後姿を見守ると、近くにいたメイドが声を上げる。
「じゃあ、ルティア様が公務に出かけられたことだし、部屋を綺麗にするわよ」
その声にこの場にいたメイドたちと私は頷いた。部屋を綺麗にすることも大事だ。だけど、私にはもう一つやることがある。
この三人のメイドの中に潜む、暗殺者を見つけ出すことだ。
◇
「マナ、そっちのシーツを持って」
「はい」
メイドのトルシーと一緒になって、ルティアのベッドメイクをする。皺がないように伸ばし、綺麗にマットレスの下にシーツを挟みこむ。
「うん、とても上手。スラム上がりには全然思えないわ。手際は良いし、良く分かっている」
私の仕事ぶりにトルシーは満足げに頷いた。ここは、探りを入れておくべきか。
「ありがとうございます。トルシーさんの指導が良いので、助かってます」
「あら、そう? 嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「トルシーさんの仕事ぶりが素晴らしいので、ルティア様も信頼を置いているのでしょうね」
そう聞いてみると、少しだけトルシーさんの表情が曇る。
「そうだと、いいんだけど……。私の実家は王妃派だから、あんまり信用されてないと思うのよね」
「そうなんですか? ルティア様が側妃側だとしても、とても重宝しているように思えますが……」
「簡単な話じゃないのよ。きっと、王妃派の動向を探るために私を重宝してくださっていると思うのよね。ほら、色々と悪い噂があるから」
悪い噂とは、ルティアの癒しの力の関連だ。ルティアが癒しの力を持ったせいで、王族の中でその価値が上がってしまった。それを王妃が良く思っていないらしい。
裏ではルティアを貶めるために、色々とやっているという噂だ。そんな王妃側の家なのがトルシーだ。
スパイにもなるし、逆スパイにもなれる存在。危険だけど利用価値があるからトルシーがルティアのメイドをやれている。
「でも、私はルティア様を慕っているわ。だから、貶めるようなことはしない」
そう笑って答えるトルシー。だけど、腹の中では何を考えているかは分からない。王妃の命令があれば、暗殺者にもなりえる。
トルシーが暗殺者の可能性は大いにあった。
◇
「エリーさん、こんな感じでどうですか?」
「……うん、綺麗に磨かれてる。やるじゃない、マナ」
綺麗に鏡を拭いて、エリーさんに見せる。すると、エリーさんは満足げに頷いて、親指を立てた。
「ほんと、この間までスラムにいたっていうのが信じられないわね。めちゃくちゃ、要領良いじゃない
「エリーさんがきちんと教えてくださるお陰です。ありがとうございます」
「そんな風にお礼を言われると、照れちゃうわね。本当にマナは可愛いわ」
そう言って、エリーは優しく頭を撫でてくれる。この様子なら探りを入れても大丈夫そうだ。
「ルティア様と同じように撫でてくれて嬉しいです。同じというと、ルティア様と同じ癒しの力を持っている人がいるって聞いたんですが……」
「それはいるわ! メフェスト聖教の聖女様よ。神に愛された神子で、唯一の癒しの力を持っているの。メフェスト聖教はとても素晴らしい宗教だから、神に愛されるのも分かるわ。あぁ、大聖堂にお祈りに行きたいわ……」
エリーは手を組んでうっとりとした顔でそう言った。どうやら、エリーはメフェスト聖教の敬虔な信徒らしい。
「じゃあ、ルティア様も神に愛された神子なんですか?」
「……それが分からないの。メフェスト聖教に熱心に祈りをしていないのに、どうして聖女しか持っていない癒しの力を持っているのか……」
その質問にエリーは表情を暗くさせる。まるで、ルティアが癒しの力を持っているのを認めていないといった様子だ。
もし、エリーにルティアを殺す動機があるといえば、きっとメフェスト聖教への信仰の暴走になる。神に祈っていないルティアが神に選ばれた存在だと認められなくて、それで……。
「今度、ルティア様に大聖堂に行くように伝えなきゃ! 神への信仰は幸せな人生に直結するわ! ルティア様にはもっと幸せになって欲しいから、信仰して貰わなきゃ!」
力説するエリーはちょっと怖かった。だけど、これでエリーの動機が見えてきた。エリーもルティアを暗殺する可能性はある。
◇
「デイリーさん、机を拭き終わりました」
「どれどれ……うん、いいわ。ちゃんと拭けてる。偉いわ」
デイリーさんに報告すると、仕事を確認して褒めてくれた。
「本当に何でも出来るのね。メイドにしておくのがもったいないくらいよ」
「そうですか? これでも精一杯なんですけど……」
「そんなこと言って。動きがとてもスムーズだったぞ。マナは出来る子ね」
こつんと額を叩かれた。この会話の流れだったら、質問しても不思議がれないかな。
「ルティア様には適いません。とてもお仕事が大変ですよね」
「そうね……。癒しの力が目覚めてからは、とてもお忙しくなってしまわれたわ。利用価値があると分かった途端にこれだもの……。ルティア様の体が心配だわ」
何かの情報を引き出そうとしたが、これと言って情報がない。これはもっと踏み込むべきか?
「でも、ルティア様の力があれば、色んな人を助けられそうですね」
「そうね、もしその力がもっと早く目覚めていれば……」
「もっと早く?」
「いえ、なんでもないわ。さぁ、仕事の続きよ」
そうしてデイリーさんは言葉を濁した。取り仕切って、すぐに違う仕事を始めた。もしかして、ルティア様の癒しの力に何かの思いがある?
それは動機になるんだろうか? 今の時点でははっきりしないけれど、デイリーさんは何かあるかもしれない。
そして、デイリーさんは護衛メイドでもある。だから、その力を使って暗殺をしているのかもしれない。
こうしてみると、三人のメイドにはルティアに対する何かしらの負を負っていることになる。誰でもルティアの暗殺を考える余地があるということだ。
まだ、情報が必要だ。もう少し、探りを入れてみよう。




