15.ぬくもりに包まれて
一緒に食事を取っている間、ルティアは目に見えて明るくなっていった。
私が一口食べるたびに嬉しそうに微笑んで、次はこれよ、と世話を焼いてくる。その表情は柔らかくて、少しだけ誇らしげで――まるで、昔のルティアに戻ったみたいだった。
それが、嬉しかった。
……もちろん、時折ふとした瞬間に影はよぎる。笑っているのに、どこか必死で。私を抱き寄せる腕が、ほんの少しだけ強い。
それでも、さっきよりずっと軽くなっている。少なくとも、私にはそう見えた。それだけで、十分だった。
元はと言えば――きっかけは、私だ。私という存在があるからルティアは亡くなった妹、ナディアのことを思い出した。あの曇った瞳。震える声。縋るような指先。
あんな顔をさせたくなかった。だったら、いっそ傍にいない方がいいのではないか。一度は、本気でそう思った。
けれど。私が少し距離を取ろうとしただけで、ルティアは不安そうな顔をする。取り繕うけれど、隠しきれない。笑っているのに、目だけが追いかけてくる。
あの顔を見ると、胸が痛くなる。離れた方がいい、なんて言葉は、どこかへ消えてしまう。
私は、ルティアを苦しめるために傍にいるわけじゃない。笑ってほしいから、傍にいる。安心してほしいから、ここにいる。守られてばかりじゃなくて、私もルティアを支えたい。
それが、私の本心だ。
だから決めた。ルティアの気持ちを、最優先にする。重いなら受け止める。甘えてくれるなら、いくらでも甘えさせる。必要とされるなら、何度でも応える。
それは義務じゃない。私が、そうしたいから。ルティアが笑うと、嬉しい。私を見て安心する顔をすると、胸がいっぱいになる。
過保護で、少し独占欲が強くて、でも誰よりも優しい王女様。そんなルティアが、好きだから。
曇った瞳が少しずつ晴れていくなら、その隣にいるのが私でありたい。たとえ時間がかかってもいい。ゆっくりでいい。
以前のように、明るくて過保護で、ちょっと困るくらいに私を甘やかしてくれるルティアに戻るまで。
私は、離れない。
◇
「マナ、今夜は一緒にいましょう?」
「えっ?」
ルティアの支度を済ませた後、自室に戻ろうとしたところを呼び止められる。今夜は一緒に?
「まだ不安でしょう? だから、私に傍にいさせて。マナの不安を取り除いてあげる」
「……と言いますと?」
「私のベッドで寝て。そしたら、添い寝するから。そうしたら、不安はなくなるでしょう? 昨夜みたいに」
……なるほど。私は昨夜に不安だと言ったから、それを改善するために一緒に寝ようと言ってきたのか。
その優しさが心に沁みるが、本当にいいの? だって、王女様のベッドだよ? 私みたいなスラム上がりが一緒に寝ていいわけがない。
でも、ここで断ると、またルティアが曇る気がする。そんな姿は見たくない。ということは、折れるのは私の方?
「……分かりました。傍にいてくださいますか?」
「えぇ、もちろん! マナの不安を私が解消してあげるわ!」
控えめにいうと、パァッと表情を明るくして喜んだ。
「では、着替えて参ります」
「じゃあ、私は着替えさせましょうか? その方が楽よね?」
「っ!? い、いえ! 流石にそれは! で、では!」
流石に着替えまで手を付けてもらえない。私は逃げるように部屋を後にした。
そして、自室に向かうと寝着に着替える。気合を入れなおすと、再び王女の部屋へと戻った。
「ルティア様、戻りました」
「こっちよ、マナ」
呼ばれて行くと、そこにはベッドに横たわったルティアがいた。本当に一緒にベッドに入ってもいいのか……。迷っていると、ルティアに手を引かれた。
「さぁ、マナは寝て」
「は、はい……」
ドキドキしながらベッドの上に上がる。想像以上にフカフカで気持ちのいいベッド。そのベッドに恐る恐る体を沈ませると、ルティアが布団をかぶせてくれる。
「これで、一緒よ。私が傍にいるから、安心してマナは寝て頂戴」
「? ……あの、ルティア様も寝るんですよね?」
「私は寝ないわ。いつ、マナが不安で飛び起きても大丈夫なようにずっと起きている。その方が安心でしょ?」
にっこりと笑っているのに、その目は暗い。相変わらずルティアの行動は重い。
昨夜も寝ていないのに、今日も寝ないのは体に悪いんじゃないか? 何か、ルティアを寝かせる方法は……そうだ。
「いいえ、ルティア様も寝てください。寝て、私を守ってください」
「寝て、守る?」
「悪夢を見るんです。だから、ルティア様が眠って、私の夢に入ってきてください。そして、悪夢を退治するんです」
「まぁ、そうだったの。マナの夢にまで入り込んでくるなんて、とても悪い子ね。いいわ、私も寝て、マナの夢を守ってあげる」
すると、目の色を変えて張り切った。良かった、これで寝てくれる。
そのことに安堵していると、手をギュッと握られた。いつもの優しい手だ。
「こうしていたら、いつでも駆けつけられるわ。これで、安心して眠れるでしょ?」
そう言って微笑む顔はいつもの過保護なルティアそのもの。あの日々が帰ってきてくれたようで、とても安心した。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、目を閉じて。マナが眠りにつくまで、起きていてあげるから」
その優しい声に眠気が襲ってくる。久しぶりの安心感で、スッと自然と眠りについた。




