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過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった  作者: 鳥助


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12.怪しい人物

「おかえりなさいませ、ルティア様」


 公務を終えたルティア様が戻ってきた。メイド一同、部屋の前で整列して一礼する。


「マナ!」


 名を呼ぶ声が聞こえて、顔を上げた。すると、すぐ目の前にルティアが迫っていた。そして、勢いを付けて抱きついてきた。


「ル、ルティア様!?」

「会いたかった! 誰よりも会いたかった! この瞬間をどれだけ待ちわびたことか! マナ、マナ、マナ! 今日はもうずっと一緒にいるわ! 離してあげないんだから!」


 驚いていると、ルティア様が私の首筋に顔を埋め、すりすりと顔をこすり付ける。体に回された腕はギュッと力強く抱き寄せて、少し苦しい。


「ルティア様……みんなが見ている前ですよ?」

「それがどうしたの? そんなの構わないわ。というか、私とマナの仲が良いところを見せつけないと! みんなに分からせてあげないといけないわ」

「は、恥ずかしいです……」


 二人きりの時でも恥ずかしいのに、人の前だと何倍も恥ずかしく感じる。すると、くすくすと笑う声が聞こえる。


「あらあら、ルティア様ったら……」

「本当にマナの事が可愛いんですね」

「とっても微笑ましいです」


 三人の専属メイドは柔らかく笑っている。その表情に敵意はない。声色も自然。仕草も優雅で隙がない。


 完璧すぎる。


 私はこの三人に何度も助けられてきた。仕事のことを何も知らなかった私を支え続けていたのも彼女たちだ。忠誠心は本物に見えるし、仕事ぶりも非の打ち所がない。


 だからこそ、違和感が消えない。


 暗殺者が着ていたメイド服は、この三人のものと酷似していた。ただ似ているだけではない。縫製の癖、胸元の刺繍の位置、腰のリボンの結び方。細部まで一致していた。


 あれは量産の制服じゃない。王女専属の特注品だ。仮に拝借したのだとすれば、保管場所を知っていなければならないし、サイズも合う保証はない。


 それなのに、あの暗殺者の体には――ぴたりと合っていた。動きに無駄がなかった。布が引っかかる様子もなかった。裾の長さも完璧だった。


 あれは借りたのではない。あの服は、着慣れていた。


 つまり。暗殺者は内部の人間。それも、日常的にあの服を着ている者。三人のうち、誰か。


 問題は、動機だ。ルティア様は王女。狙われる理由はいくらでもある。王位継承、政治的均衡、他国の干渉。だとすれば、メイドが買収される可能性は十分ある。


 けれど。あの暗殺は、妙だった。迷いがなかった。


 任務として遂行する冷たさはあったが、どこか感情が混じっていた。刃を向けた瞬間、ほんのわずかに躊躇があった。あれは、標的をよく知っている人間の迷いだ。


 ……考えすぎかもしれない。疑いは毒だ。けれど私は、死に戻りを繰り返してきた。「気のせい」で流した違和感が、何度命取りになったか知っている。


 優しさは、疑念を鈍らせる。信頼は、判断を甘くする。そして私は今、ルティア様に近づきすぎている。


 もし犯人がこの三人の中にいるのなら、私は完全に監視下だ。私とルティア様の距離も、会話も、感情の揺れも、すべて見られている可能性がある。


 ……なら、どう動く? 下手に警戒すれば、こちらの警戒が伝わる。証拠はない。推測だけ。


 そして何より。今、私が疑念を口にすれば、ルティア様は傷つく。専属メイドは、ルティアの支えだ。


 妹を失った後も、ずっと傍にいた人たち。もしその中に裏切り者がいると告げれば――ルティア様は、また何かを失う。


 それは、駄目だ。私は守る側。疑うのも、調べるのも、私の役目。ルティア様には、何も気づかせない。


 ルティアが私の死に戻っている事を知った今、無暗に失敗できない。今度こそ、守り切る。


「それにしても、マナったら凄いんですよ」


 その時、一人のメイドが口を開いた。


「本日の書類整理、わずか半刻で終えてしまわれたんです」

「ええ。それだけではありませんわ。一ついえば、十のことをこなしてくれるんです」

「私たちが気づかなかったことにも気づいて……本当にお見事でした」


 三人が順にそう言って、微笑みを向けてくる。私は思わず瞬きをした。


「そ、そんな……私はただ、気づいたことを……」

「それが凄いのです」

「ルティア様の補佐として、これ以上なく頼もしい存在ですわ」

「本当に、誇らしいです」


 まっすぐな称賛。打算のない声音。胸の奥が、じわりと温かくなる。――嬉しい。


 警戒しているはずなのに、素直にそう思ってしまう自分がいる。


「……ありがとうございます」


 自然と頬が緩む。きっと今、私はとても嬉しそうな顔をしている。


「あらあら、照れていらっしゃる」

「可愛らしい……」

「頑張り屋さんですものね」


 するりと手が伸びてきて、頭を優しく撫でられた。


「ひゃっ……」

「小さくて、細くて……守って差し上げたくなりますわ」

「こんなに可愛らしいのに、あれほど有能だなんて」

「癒やされます……」


 柔らかな香り。布擦れの音。優しい声。……本当に、敵意はない。ない、はずなのに。


 ぞくり。背筋に冷たいものが走った。空気が変わった。ルティアに抱きしめられているのに、なぜか凍えるような感覚。


 すると、ルティアがゆっくりと体を離す。そこにいたのは――笑っているルティア様。


 けれど。目が、笑っていない。深い瞳の奥はどこまでも暗い。


 甘やかすように抱きついていた腕が、いつの間にか私の腰を強く引き寄せていた。


「……そう。マナは、そんなに頑張っているのね」


「ええ、本当に――」


 メイドの一人が頷きかけた、その時。


「だったら、頑張ったマナにご褒美をあげないといけないわね?」


 甘い声。けれど、空気は凍ったまま。


「そういえば……あなたたち、普段なかなか手を付けられない仕事があったでしょう?」


 三人の背筋が、ぴんと伸びる。


「資料整理。目録再作成。それから、私室の掃除」


 さらりと並べられる仕事の数々。


「今からやったらどうかしら? そしたら、マナも楽になるんじゃないかしら。名案だと思うの」


 一瞬の沈黙。そして。


「かしこまりました、ルティア様」

「ちょうど手を付けねばと思っておりました」

「すぐに取り掛かります」


 三人は優雅に一礼し、そそくさとその場を後にした。その場には私とルティアが残された。そして、余計に強く感じる、強い重圧。


「マナ」


 その声は優しいのに重たく冷たい。手を握られると、体が硬直する。


 そのまま部屋の中に入れられ、扉が閉じられる。そのまま、手を引っ張られて部屋の奥へと進んだ。


 そして、連れてこられたのはベッドの前。一体、こんなところにきてなんの――そう思っていたら、体を押されてベッドに倒れこんだ。


 そして体をルティアが押さえつける。


「ルティア様?」


 どうしてこんなことを? 不思議に思っていると、ルティアと目があった。目は暗く沈んでいて、光が一切ない。重い視線が向けられた。


 そんな目でルティアは柔らかく微笑んだ。


「言ったでしょう? 私がマナを守るって」

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