表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった  作者: 鳥助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

10.戸惑いの朝

 明るい日差しがカーテンの隙間から差し込み、ゆっくりと瞼の裏を照らす。もう起きる時間らしい。ぼんやりと意識が浮かび上がり、私は静かに目を開けた。


 視界に入ったのは、見慣れた部屋の壁。そして――自分の体に絡みつく、温かな腕の感触。


 ……ああ、そうだ。昨夜、ルティアが部屋を訪ねてきて。不安だと言って、一緒に眠ったのだった。


 その腕は思ったよりもしっかりと私を抱いていて、逃げ場を塞ぐというより、何かを確かめるようにぴたりと密着している。不思議と苦しくはない。むしろ、安心感があった。


 死に戻ってからというもの、眠りはずっと浅かった。物音一つで目が覚めるし、夢の中でも気が張っていた。けれど昨夜は違った。久しぶりに、深く沈むように眠れた気がする。


 誰かの体温が、こんなにも効果があるなんて。


 ……でも。相手は王女だ。本来なら、気安く同じベッドで眠るなど許されない。昨夜は情に流されたけれど、今後はきちんと線を引くべきだろう。


 うん。ちゃんと断ろう。固い意志を持とう。


 まずはルティア様を起こして――そう思い、私はゆっくりと体を反対側へ向けた。


 その瞬間。


 ――至近距離で、視線とぶつかった。


「……っ」


 息が止まる。そこには、ぱっちりと開いた瞳。瞬き一つせず、じっと、じっと、じっと。まるで私が目を覚ます瞬間を、ずっと待っていたかのように。


 距離が近すぎる。鼻先が触れそうなほど近い。逃げ場のない角度から、まっすぐに見つめられている。


「わっ……!?」


 思わず声が漏れる。ルティアは、ほんのわずかに口元を緩めた。


「マナ、おはよう」


 穏やかな声。優しい声音。けれど、その瞳の下には、うっすらと影が落ちている。


「い、いつから起きて……?」

「マナが寝ているのに、私が寝ている訳にはいかないわ」


 くすり、と笑う。


「マナがいつ目覚めるか分からないから、ずっと起きてたわ」

「ど、どうしてそんなことに?」

「だって、いつマナが不安で起きるか分からないでしょう? その時、安心させてあげられるのは私だけ。だから、その時のために起きていたの」


 そう言って微笑むルティアの目は、確かに私を見つめているのに、どこか焦点が定まっていないように暗く沈んでいる。目元には隠しきれない隈がうっすらと浮かんでおり、本当に一晩中まぶたを閉じなかったのだと嫌でも分からされた。


「マナの不安を取り除きたいの。ほんの少しの不安もなくして、マナには笑ってもらいたい。そのためだったら、どんなことでもするわ。一晩寝ずにいることだって……ううん。これから夜は寝ないで、マナの側で見守っていてあげるわ」


 ……いやいや、重い。朝から重い。というか、それ以前に駄目だ。


 ルティアは王女だ。ただでさえ政務や公務、謁見や勉強で一日の予定はぎっしり詰まっている。その上で睡眠まで削ったら、どれだけ体に負荷がかかるか分からないはずがない。


「私は大丈夫ですから。ルティア様のためにも、ちゃんと寝てください」


 できるだけ穏やかに、諭すように言う。けれどルティアは、首を横に振った。


「私のことなんてどうでもいいの」


 その言葉は、あまりにも即答だった。


「私はマナを何度も殺した罪がある。それを許してほしいとは思わないわ。思わないけれど……せめて傍で、何かをしてあげたいの」


 抱き締める腕が、わずかに強くなる。


「守れなかった。気づけなかった。何度も、何度も。マナが苦しんでいる間、私は何も知らずに笑っていたかもしれない。そんな自分が許せないの」


「それは違います」


 思わず、強く否定していた。


「ルティア様のせいじゃありません。暗殺者が悪いんです。私は自分の意思で守ろうとしただけで――」

「でも、守らせていたのは私よ。マナは優しいから、自分で選んだって言うでしょう。でも、原因は私。標的は私。マナが死ぬ理由は、全部、私」


 その瞳が、ぎゅっと細められる。


「だからせめて、今度は私が眠らない。マナが安心して眠れるなら、私は起きている。マナが怖い夢を見ないように、ずっと見ている。呼吸しているか、ちゃんと生きているか、何度でも確かめる」


 微笑んでいるのに、目が笑っていない。ぞくり、とした。


 その感情はなんていうのだろう……。どうして、そんな歪な感情になってしまったのだろう。こんな風にさせるつもりはなかったのに。


「ルティア様」


 私はそっと、彼女の頬に手を伸ばした。


「私が安心して眠れたのは、ルティア様が起きていたからじゃありません。一緒に寝てくれたからです」


 気づいて欲しくて、正直に伝える。


「隣で、温かくて、ちゃんと休んでいるルティア様がいる。それが安心なんです。無理をしているルティア様を見たら、私は逆に不安になります」

「……不安?」

「はい。だって、倒れてしまうかもしれないでしょう?」


 私は少しだけ眉を寄せてみせる。


「もしルティア様が体を壊したら、私は自分を責めます。私のせいで眠らなかったって。そうなったら、きっと今よりもっと辛いです」


 ルティアの腕の力が、ほんの少し緩んだ。


「私は、ルティア様に元気でいてほしい。笑っていてほしい。無理をしてほしいわけじゃないんです」


 数秒の沈黙。これで思いが伝わったかな?


 そう思っていると――ルティアの目からボロボロと涙が零れた。


「わ、私っ……また、マナに迷惑をかけていたのねっ。そんなつもりはなかったのっ。ただ、マナが安心して寝ていられるように、傍にいたかっただけなのっ。お願い、私を、嫌いにならないでっ。謝るから、謝るからっ」

「ル、ルティア様……」

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。マナは優しいから責めないんだよね。そんな優しさに甘えて、またマナに迷惑をかけて……。許して、許して、許してっ」


 ルティアを責めるつもりなんてなかったのに、どうしてこうなるの!? 少しでも楽になってくれたら、そう思って言ったのに!


 その後、何度も謝るルティアを宥め続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ