↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第三章 王都編 〜今さら呼ばれても〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/58

第49話 帰り道



 夜が明けて間もない王宮の車寄せには、まだ朝靄が残っていた。


 荷を積み終えた馬車の脇で、アルが大きなあくびをしている。


「本当に、土産を買う暇もありませんでしたね」


「買っただろう。昨夜のうちに」


「あれは殿下が買えとおっしゃったんですよ。俺の分じゃない」


 軽口を背に、アレクが馬車へ足をかけたときだった。


「アレクシス殿下!」


 石畳を駆けてくる足音がした。


 振り返ると、淡い色の髪をした若い男が、息を切らして立っている。夜会で、広間の隅からこちらを見ていた顔だ。


「突然、失礼いたします。公爵家の、セドリックと申します」


 背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。


「戦場でのお働き、何度も聞かせていただきました。一度、どうしてもご挨拶をと……」


 頬が、わずかに上気している。憧れを隠すつもりもないらしい。


「公爵家の、セドリック」


 アレクは、その名を口の中で繰り返した。


「……そうか。君が、彼女の弟か」


「姉を、ご存じなのですか」


「リヴェルでは、世話になっている」


 セドリックの顔に、困ったような笑みが浮かんだ。


「それは……姉が、ご迷惑をおかけしていないといいのですが。あの人は昔から、本ばかり読んで、気の利かない人でしたから」


 少し照れたように、言葉を継ぐ。


「リヴェルが栄えているという噂も、聞いてはいます。ですが、きっと元の土地が思ったほど悪くなかったか、殿下のような方に助けていただいたからでしょう。姉一人で、どうにかできるような人では――」


「セドリック殿」


 穏やかな声だった。


 けれど、アレクの顔からは、笑みが消えていた。


「私は、君の姉上を敬愛している」


「……え?」


「だから、今のは不愉快だな」


 セドリックが、目を丸くする。


「殿下が……姉上を? まさか」


「一度、自分の眼で見てくるといい」


 アレクは、馬車の扉に手をかけた。


「君の姉上が、どういう人なのか」


 扉が閉まる。


 動き出した馬車の窓から、アルが片目をつぶってみせた。


 朝靄の中に、セドリックだけが立ち尽くしていた。


     *


 数日後。


 工場の見回りを終えたリディアは、城門の前に止まった馬車に気づいた。


「アレク!」


 降りてきた姿に、思わず声が弾む。


「おかえりなさい」


「……ああ。ただいま」


 答えてから、アレクは少しだけ言葉に詰まった。


 ただいま、か。


 口の中で転がした響きが、思いのほか悪くない。


「殿下、顔がゆるんでますよ」


「黙れ」


 後ろから降りてきたアルが、笑いをこらえながら包みを差し出した。


「リディア様、王都のお土産です。今、王都で一番人気の菓子だそうで」


「まあ、ありがとう」


 包みを開いたリディアの手が、止まった。


 見覚えのある焼き色。見覚えのある焼き印。


 ――リヴェル産。


「……これ、うちのよ」


「えっ」


「王都で一番人気って、本当?」


 リディアが吹き出し、アルが頭を抱える。アレクは肩を震わせて笑っていた。


「それと、これは俺からだ」


 笑いをおさめたアレクが、革表紙の本を差し出した。


「王都の古書店で見つけた。鉱石と土の本だ。お前なら、喜ぶかと思ってな」


「……!」


 受け取ったリディアの目が、ぱっと輝いた。


 その場で頁をめくり始め、もうこちらを見ない。


「……おい」


「待って。この図、見たことがないわ」


 アルが、とうとう声を上げて笑った。


 アレクは、小さく息を吐いた。


 まあいい。この顔が見られただけで、十分だ。


     *


 その夜、カイルの執務室。


「夜会の直後、王太子が陛下に呼び出された」


 椅子に腰を下ろすなり、アレクは言った。


「夜更けにだ。褒められに行ったわけでもあるまい」


「……先日、王太子の名で召喚状が届きました。お断りしましたが」


「なるほど。それでか」


 アレクは、短く笑った。


「王の名も借りずに呼びつけて、袖にされたわけだ。さぞ絞られただろう」


 カイルの眉が、わずかに動く。


「追い詰められた男は、何をするか分からん。護衛は?」


「ロイドとミレイユをつけています」


「そうか」


 アレクは、窓の外の灯りに目をやった。


「それと、近いうちに客が来るかもしれん」


「客、ですか」


「彼女の弟だ」


 カイルが、静かにアレクを見た。


「……少々、躾がなっていなくてな」


 アレクの口元に、意地の悪い笑みが浮かぶ。


「見せてやれ。あの姉が、ここで何を築いたのかを」





ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次回、リディアの弟セドリックがリヴェルへやってきます。


『ツイトシ』は毎日20:10に更新しています。

続きが気になったら、ブックマークで追いかけていただけると嬉しいです。


   *


【お知らせ】

今夜21:30に、短編を投稿します。


『私が討った敵将は、死に際に「何度でも戻って、君に殺される」と笑った』


仇の敵将を討った女騎士に遺されたのは、一冊の手帳。

そこには、三百十二回分の「私の死」が綴られていました。


戦場が舞台の、切ない恋のお話です(ハッピーエンドです)。

作者ページから読めますので、よろしければこちらも覗いてみてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じ作者の短編です(1話完結)
――遺された手帳には、三百十二回分の、私の死が綴られていた。
【短編】私が討った敵将は、死に際に「何度でも戻って、君に殺される」と笑った

――その不気味な笑顔は、大好きな誰かの、下手くそな真似だった。
【短編】塾帰り、ニタァと笑う祠の妖に取り憑かれた。不気味で仕方なかったその笑顔が、いつの間にか世界でいちばん可愛く見えている
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。