↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第三章 王都編 〜今さら呼ばれても〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/55

第48話 国益



 王の私室は、夜更けだというのに灯りが落とされていなかった。


 暖炉の前に、父王が座っている。ヴィクトールが入っても、こちらを見ようとはしなかった。


「……お呼びと伺いました」


「座れ」


 短い声だった。


 向かいの椅子に腰を下ろす。暖炉の薪が、ぱちりと爆ぜた。


「リヴェルへ、召喚状を出したそうだな」


 息が詰まる。


「王の名も借りず、お前の名で。……そして、断られた」


「それは……」


「言い訳はいい」


 父王が、ようやく顔を上げた。怒鳴りつけるでもない、静かな目だった。それが、何よりも恐ろしい。


「調べさせた。南方のほかで砂糖が採れる地は、この大陸のどこにもない。リヴェルを除いてな」


 低い声が、淡々と続く。


「アルヴェニアの商人どもは、すでにあの砂糖を奪い合っている。いずれ、国の財の流れそのものが変わる。それほどの地だ」


 手元の杯が、卓に置かれた。


「その領主との間に、お前は自ら溝を作った」


「……私は、リヴェルを王家のもとへ取り戻そうと」


「呼びつけて、か」


 喉が鳴った。


「……ですが、あの女は王太子の召しを拒みました。不敬ではありませんか」


「王の名も借りぬ召しを断って、何の罪になる」


 ぴしゃりとした声だった。


「罪を問えば、笑いものになるのは王家のほうだ」


 今度こそ、返す言葉がなかった。


「ヴィクトール」


 名を呼ばれ、背筋が伸びる。


「婚約を解いたとき、お前は私に何と言った」


 ――聖女を妃に迎えるほうが、国益になります。


 あの日の自分の声が、耳の奥によみがえる。


「『国益』と、お前は言ったな」


「……はい」


「だから、私は判を押した。婚約を解くことも、リディア嬢をリヴェルへやることも、お前に任せた。王太子が国のためと言うなら、それを信じるのが王の務めだと思ったからだ」


 父王は、暖炉の火に目を移した。


「あの娘は、王妃教育を誰よりも真面目に受けていた。国境の兵站を学び、隣国との交渉を学んだ。……それを『それだけ』と切って捨てたのも、お前だったな」


 揺れる炎が、父王の横顔に深い影を落としている。


「その結果が、これか」


 膝の上で、拳を握る。爪が、掌に食い込んだ。


「お前が始めたことだ。お前が片をつけろ」


「……はい」


「手が要るなら、言え。王の名が要るなら、まず私に話せ。協力は惜しまん」


 父王の目が、まっすぐにヴィクトールを射抜いた。


「ただし、これほどの話だ。次はないと思え」


     *


 私室を出ると、廊下の冷気が頬を打った。


 次はない。


 その言葉が、足音のたびに重く響く。


 ――国益。


 あの日、自分が口にした言葉が、今になって首を絞めていた。


     *


 同じ頃、王宮の客間。


 礼装の襟元をゆるめ、アレクは長椅子に身を投げ出した。


「楽しそうでしたね、殿下」


 壁際で、従者のアルが肩をすくめる。短い赤毛の、陽気な男だ。


「惚れ込んで目が離せない、でしたっけ。王太子殿下のお顔、見ものでしたよ」


「本当のことを言っただけだ」


「へえ。外交辞令じゃなかったんですか」


「……」


「顔に書いてありますよ」


 飛んできたクッションを、アルは笑いながら片手で受け止めた。


 軽口を返そうとしたアレクの顔から、ふと笑みが消える。


「……あの男が、彼女を手放したのか」


 天井を見上げたまま、低く呟く。


「あの聖女殿を選んで、か。……いや」


 夜会の光景がよみがえる。腕に添えられた手。客に笑いかける娘。その笑顔に、一度も目を向けなかった男。


「選んですらいないな。隣にいる娘の顔も、ろくに見ていなかった」


 アルは、クッションを長椅子に戻した。


「ところで、殿下。夜会のあと、王太子殿下は侍従に呼ばれていきましたよ。行き先は、陛下の私室のようです」


「見ていたのか」


「それが仕事ですから」


 笑ったままの顔で、目だけが笑っていなかった。


「親に叱られた坊っちゃんは、だいたい焦って下手を打ちます」


「ああいう男は、手に入らないと分かったものほど欲しがる。……焦れば、なおさらだ」


 アレクは、身を起こした。


「アル。夜が明けたら、リヴェルへ戻るぞ」


「はいはい。土産くらいは買わせてくださいよ」


「嫌な予感がする」


 窓の外で、王都の灯りが静かに瞬いていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じ作者の短編です(1話完結)
――遺された手帳には、三百十二回分の、私の死が綴られていた。
【短編】私が討った敵将は、死に際に「何度でも戻って、君に殺される」と笑った

――その不気味な笑顔は、大好きな誰かの、下手くそな真似だった。
【短編】塾帰り、ニタァと笑う祠の妖に取り憑かれた。不気味で仕方なかったその笑顔が、いつの間にか世界でいちばん可愛く見えている
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。