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『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第三章 王都編 〜今さら呼ばれても〜

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第46話 召喚



「……それで、どうなさるおつもりですか」


 側近の問いに、ヴィクトールはすぐには答えなかった。机の上には、リヴェルについての報告書が積まれている。


「製法を献上させればいい。国の産業だ」


「……貴族が独自に興したものを召し上げれば、王家への反感を招きます」


「対価は出す。爵位でも褒美でも、くれてやればいい」


「砂糖は、これからいくらでも膨らむ産業です。それに見合う対価など、王家とて用意できますまい。かといって、見合わぬものを差し出せば、召し上げたのと同じこと。貴族の権利を王家が侵したと、諸侯が騒ぎ出します」


「そんなことは分かっている!」


 ヴィクトールの拳が、机を打った。


 どの道を選んでも、どこかに角が立つ。


「下がれ。少し考える」


 側近が退出すると、執務室に静けさが戻った。


 あの女は、いつも自分の一歩後ろに立っていた。言いつければ黙って従い、どれほど冷たくあしらっても、文句ひとつ言わなかった。


 ――あれは、私に従順だった。


 呼び戻して、手元に置いておけばいい。側女としてなら、体面も――


 いや、と首を振る。公爵家の娘だ。これほどの功績を上げた女を側女になど置けば、非難は免れない。かといって、一度捨てた女を、今さら妃に迎え直せるはずもない。


 こめかみを押さえる。


 どちらにせよ、まずは会わなければ話にならない。


 そうだ。会えばいい。


 あの女なら、呼べば来る。そういう女だった。


 殿下のお召しとあらば、と、かつてのように頭を垂れる姿が目に浮かぶ。少し褒めてやれば、製法も喜んで差し出すだろう。


 ヴィクトールの口元に、ようやく笑みが戻った。


「誰か」


 扉の外へ声をかける。


「リヴェル領主に、召喚状を出せ。王太子の名でだ」


     *


 同じ頃、リヴェルの城。


「ロイド、ミレイユ。しばらく、リディアの護衛についてくれ」


 執務室に呼んだ二人に、カイルは短く告げた。


「王都の者が街を嗅ぎ回っている。何かあってからでは遅い」


「承知しました」


 ミレイユが即座に頭を下げる。


「……カイル様の護衛は、どうなさるのです?」


 ロイドが尋ねた。


「私は、自分の身くらい守れる」


「……承知しました」


 カイルは、それ以上何も言わなかった。


     *


 数日後、王都からの使者を乗せた馬車が、リヴェルに入った。


 窓の外を眺めていた使者は、思わず身を乗り出した。


 廃村同然の辺境と聞いていた。けれど、石を敷いた道を荷馬車が行き交い、通りには店が軒を連ねている。その奥には、見上げるほどの城がそびえていた。


「……これが、辺境だと?」


 呟いてから、使者は胸を張り直した。こちらは王太子殿下の書状を携えているのだ。辺境の領主ごときが、逆らえるはずもない。


 応接室で使者を迎えたのは、カイルだった。


「領主殿は?」


「あいにく、手が離せません。ご用件は、私が承ります」


 使者は不満げに眉を寄せたが、やがて恭しく書状を広げた。


「王太子ヴィクトール殿下の命により、リヴェル領主リディア殿は、速やかに王都へ参上されたし」


 読み上げる声が、応接室に響く。


 表情ひとつ変えずに聞き終えると、カイルは口を開いた。


「……それは、陛下の御名によるものでしょうか」


 使者の口元が、わずかに引きつった。


「殿下の、ご意向です」


「左様ですか」


 カイルは、静かに頭を下げた。


「でしたら、お受けいたしかねます」


「なっ……王太子殿下のお召しを、断ると申すか!」


「陛下の命とあらば、謹んで従います。ですが、殿下お一人のご意向で、領主に領地を空けさせるわけにはまいりません。リヴェルの砂糖は、今や多くの者の暮らしを支えておりますので」


 穏やかな声だった。けれど、一歩も引く気配はない。


「殿下には、くれぐれもよろしくお伝えください」


 顔を赤くしたまま、使者は言葉を失った。


     *


「王太子殿下の使者が、来ていました」


 執務室に戻ったカイルが告げると、リディアは書類から顔を上げた。


「何の用で?」


「王都へ来い、と」


「そう」


 それだけ言って、リディアは書類に目を戻した。


「お断りしておきました」


「ありがとう」


 ペン先が紙の上を滑る音だけが、静かに続く。


 カイルの口元が、わずかに緩んだ。


     *


「……来ない、だと?」


 戻った使者の報告を、ヴィクトールは信じられない思いで聞いた。


「領主殿には、お目通りすら叶いませんでした。応対した者が……その」


「何だ。申せ」


「陛下の御名による召喚でなければ、応じられぬと」


 執務室の空気が、凍りついた。


 王の名を出せと。あの女の側近が、王太子である自分に、そう言ったのだ。


 顔に、みるみる血が上る。机を叩きかけた手が、宙で止まった。


 言い返せないことは、分かっていた。父王の許しを得ずに、自分の名で呼びつけたのは事実だ。


 けれど、それ以上に胸を打ちのめしたのは、別のことだった。


 呼べば来る。そう思っていた。


 かつてのリディアなら、きっと来た。どれほど理不尽な言いつけでも、黙って頭を下げて。


 だが、もう違うのだ。


「……ならば、別の道から探るまでだ」


 低く呟き、ヴィクトールは報告書の束に手を伸ばした。


 調べさせた報告の中に、たびたび名の挙がる男がいる。


 アルヴェニア王国、第二王子。アレクシス。


「その男を、夜会に招け。リヴェルとの繋がりとやら、この目で確かめてやる」





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