↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放令嬢、嵐と戦い都市を作ります』 〜知識チートで廃村を国一番の領地にしたら、捨てた王太子が今さら焦りだしました〜ツイトシ(追都市)  作者: カナデ・オン
第一章 生き残り編 〜泥だらけの令嬢〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/59

第17話 砂糖の原料




 数日後。


「持ってきた」


 工事現場で技師と話していたリディアは、聞き慣れた声に振り返った。


「アレク様?」


 アレクはいつものように、気軽な商人の格好をしている。けれど、その手には何やら細長い木箱が抱えられていた。


「それは……?」


「おまえが欲しいと言っていたものだ」


「まあ」


 リディアの目が輝く。


「もう見つかったのですか?」


「探すと言っただろう」


 アレクは木箱を作業台の上に置いた。


「開けてみろ」


 リディアが蓋を開ける。


 中には、切りそろえられたサトウキビが何本も並んでいた。


「……これが?」


「サトウキビだ。南のほうで手に入った」


 リディアは一本を手に取った。


 見覚えのある形だった。


「本当に……」


「どうした?」


「いえ。ちゃんと見つかるものなのだな、と」


「おまえが欲しいと言ったものだ。見つけるくらいはする」


 あまりにも当然のように言うので、リディアは思わず笑った。


「ありがとうございます」


「礼はいい。それより、これで砂糖は作れるのか?」


「……たぶん」


「たぶん?」


 アレクの眉がわずかに上がる。


「知っているのではなかったか?」


「方法は知っています。でも、実際に作ったことはありません」


「……またそれか」


 呆れたような声。けれど、その口元には笑みが浮かんでいる。


「まあいい。やってみればいいだろう」


「はい」


 リディアはサトウキビを見つめた。


「ただ、リヴェルで育てるのは難しいと思います」


「冬があるからか」


「はい。でも、原料として持ち込めるなら話は別です」


「なるほど」


 アレクは頷いた。


「まずは外から持ってくる。それで試してみればいい」


「はい」


 リディアはサトウキビを作業台に置いた。


「まずは、汁を取り出す必要があります」


「絞るのか?」


「そうです」


「なら、水車が使えるな」


 リディアが目を瞬いた。


「水車で?」


「あの機械を作った連中なら、考えられるだろう」


 アレクは工事現場の奥を見た。


 そこでは、エドとバルトが何やら言い合っている。


「……あの二人なら、確かに考えてくれそうです」


「だろう」


 アレクがわずかに笑う。


 そのとき、少し離れた場所からカイルが歩いてきた。


「アレクシス様」


「カイル」


 カイルの視線が木箱に移る。


「もう手に入れたのですか」


「頼まれたものだからな」


「ありがとうございます」


 リディアが頭を下げる。


 カイルは木箱の中を確認した。


「サトウキビ……ですか」


「そうだ」


「どこから?」


「南のほうだ。少し遠かったが、商人仲間に当たった」


 カイルが頷く。


「なるほど」


 そして、リディアの目が木箱に向いているのを確認してから、声を落とした。


「……殿下」


「なんだ?」


「商人として振る舞うのであれば、もう少し商人らしくしてください」


「しているつもりだが」


「どこがです」


「商品を仕入れてきた」


「そういう意味ではありません」


 アレクがわずかに眉を寄せる。


「では?」


「もう少し、相手に対して丁寧に――」


「私は普通に話している」


「王族としては、でしょう」


「……」


 アレクが黙った。


 リディアは二人を交互に見た。


「お二人は仲がいいのですね」


「……そう見えるか?」


 アレクが尋ねる。


「はい」


「そうか」


 アレクは少しだけ笑った。


「長い付き合いだからな」


 カイルは小さく息を吐いた。


「では、私は技師たちを呼んできます」


「頼む」


 カイルが離れていく。


 リディアはもう一度、サトウキビを手に取った。


「これを絞って……」


「そうだ」


「それから煮詰めて」


「ああ」


「結晶を作って……」


「うん」


「分ける」


「……そこが難しいんだろう?」


「はい」


 リディアは頷いた。


「そこを、どうするか考えないといけません」


     *


「つまり、汁の中から砂糖の結晶だけを取り出したい、と」


 エドが腕を組んだ。


「そうです」


 リディアは紙に簡単な図を書いた。


「最初に汁を取ります。それを煮詰めていくと、砂糖の結晶ができる……はずです」


「はず?」


 バルトが笑った。


「お嬢様は本当に、知ってるんだか知らねぇんだか分からんな」


「すみません」


「いや、面白ぇ」


 バルトはサトウキビを手に取った。


「これを潰して汁を取るなら、ローラーを使えばいい」


 エドが頷く。


「水車の動力も使えます」


「ただし、砂糖の結晶を分けるとなると別だ」


 エドが紙に円を描いた。


「前にお嬢様が言っていた、回転を使う方法ですか?」


「はい」


「遠心力を利用する」


「そうです」


 エドはしばらく図を眺めた。


「……仕組みとしては、考えられそうです」


 リディアの顔が明るくなった。


「本当ですか?」


「ただ、作ってみなければ分かりません」


「そうですよね」


 エドは円の中心に線を引いた。


「速く回す必要があるなら、軸の強度が問題になります。容器も、回転の偏りが出ないようにしなければならない」


 バルトも頷いた。


「回してみて、ぶれるようなら作り直しゃいい」


「簡単に言いますね」


「簡単じゃねぇから面白いんだろ」


 バルトが笑う。


 リディアも思わず笑った。


「では……まず、考えてみましょう」


「ええ」


「作ってみなければ分からない」


「そういうことです」


 リディアは紙に、回転や軸、容器、強度について書き込んだ。そして、その横に小さく「試作」と書いた。


 ただ甘いものが欲しかっただけだった。


 ジャムをもっと保存したい。ケーキを作ってみたい。そんな小さな思いつきだった。


 けれど。


 また一つ。


 リヴェルに、今までなかった仕事が生まれようとしている。


     *


 夕方。


 アレクが帰ろうとしているところへ、リディアが駆け寄った。


「アレク様」


「どうした?」


「サトウキビ、本当にありがとうございました」


「礼はいい」


「でも、とても助かりました」


「そうか。それならよかった」


 アレクは振り返った。


「砂糖ができたら、俺にも食べさせてくれ」


「もちろんです」


「約束だ」


「はい」


 アレクは満足そうに頷いた。


「では、また来る」


「はい。またお願いします」


「ああ」


 アレクが歩き出す。


 その背中を見ながら、リディアは小さく呟いた。


「今度は、砂糖を作らなくちゃ」


 遠くで、水車の音が響いている。


 リディアは工房のほうを振り返った。


 あの人たちなら、きっと考えてくれる。


 ――でも。


 ちゃんと砂糖になるかは、まだ分からない。


「……まずは、やってみましょう」


 リヴェルではまた一つ。


 新しい仕事が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じ作者の短編です(1話完結)
――遺された手帳には、三百十二回分の、私の死が綴られていた。
【短編】私が討った敵将は、死に際に「何度でも戻って、君に殺される」と笑った

――その不気味な笑顔は、大好きな誰かの、下手くそな真似だった。
【短編】塾帰り、ニタァと笑う祠の妖に取り憑かれた。不気味で仕方なかったその笑顔が、いつの間にか世界でいちばん可愛く見えている
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。