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無能な婚約者に不要と言われたので辞めて王子の婚約者に転職しますね  作者: 蒼良美月


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9.幸せのかたち

 感動的な結婚式のあとも続く、各方面からのお祝いに礼状を書いたり、挨拶をする忙しい毎日もやっと落ち着き、私は王宮での新しい生活に少しずつ慣れ始めていた。


 ユリウス様の補佐として公務にも積極的に参加していた。


 幸いにも、私が今までの環境で必死に培ってきた「人の縁を紡ぎ、個々の魅力を引き出す」という能力は、この国でも大いに重宝されていた。


 貴族たちの人間関係や適材適所の配置に『エトワール』での経験がこれまた奇跡的なほど合致したのだ。


 とはいえ、国の中心での公務と、王族としての務めに追われる毎日は、以前の町暮らしとは比べ物にならないほど忙しい。






 ◇




 ──そんなある日のことだった。


 執務室で二人並んで書類に目を通していると、ノックもそこそこに、ユリウス様のお兄様である第一王子・アルバート殿下がふらりと姿を現した。


 その手には、泥のついた小さな鉢植えが握られている。


「ユリウス、アメリア。……見てくれ。また、新しい珍しい品種のシダを見つけたんだ。この葉脈の美しさ! 君たちなら分かってくれるだろう?」


 アルバート殿下の言動に、ユリウス様は困ったように綺麗な眉を下げ、私と視線を交わした。


「兄上、今は公務の時間です。……それに、兄上の伴侶探しも、そろそろ本気で考えないといけませんよ。国王陛下も心配なさっています」


「そんなことより、このシダの胞子のつき方がですね、通常の個体とは異なっていて……」


 まったく聞く耳を持たない植物オタクの不器用な兄を前に、ユリウス様は深くため息をつき、私に助けを求める視線を向けた。


 ユリウス様の美しい瞳は私を真っ直ぐ見つめ「そろそろ君のあの素晴らしい力が必要だ」という全幅の信頼と期待が込められていた。


 私は、その信頼が嬉しくて、思わずくすりと苦笑いしてしまった。


「……ふふ。わかりました。アルバート殿下。その珍しいシダのお話、公務のあとに私へじっくり聞かせていただけますか?」


「おや! アメリア殿は分かってくれるのか!」


 私の言葉にアルバート殿下は、きょとんとした後、子供のように目を輝かせた。


 私の頭の中では、すでに彼のための『完璧なマッチング計画』の歯車が回り始めていた。


「その代わり、条件がございます。私が今度企画する『王宮観賞用庭園の選別会』に、一度だけで構いませんので、顔を出してくださいますか?」


 アルバート殿下は少し不思議そうな顔をしたが、興味深々で答えてきた。


「庭園の選別会? うむ、植物が見られるなら(やぶさ)かではないが……」



 ──アルバートは嬉しそうに頷き、鉢植えを大事そうに抱えて去って行った。その後ろ姿を見ながら、アメリアは不敵に、しかし美しく微笑む。


(ふふふっ第一段階は成功だわ)


 世間はアルバート殿下を「変人の植物オタク」と呼び、令嬢たちは敬遠していたが、私の見立ては違う。

 彼は一つのことに寝食を忘れて没頭できる誠実さがあり、その知識は一級品だ。ならばアプローチの仕方を変えればいい。


 着飾った夜会ではなく「植物」という共通言語を持つ、あるいは彼の深い知識を心から尊敬できる知的な令嬢たちだけを、その『選別会』に極秘裏に集めるのだ。


 共通の趣味から入れば、不器用な彼でも自然と会話が弾むはず。

 これこそが私が培ってきた経験を最大限にいかせる「最高のマッチング」だわ!





 ◇




 ──ある晴れた日の午後、王宮の一角にあるサンルームは爽やかな緑の香りと、華やかな令嬢たちの談笑に包まれていた。


『王宮観賞用庭園の選別会』名目こそ堅苦しい公務だが、その実態は私が仕掛けた、アルバート殿下のための特別な舞台だった。


 私が集めたのは、流行りのドレスや夜会の噂話よりも、古い文献や異国の草花に目を輝かせる知的な令嬢たち。世間が「変人」と呼ぶ彼の本質を正しく評価できる人々だった。


「……あ、あのこの新種のシダなのですが。胞子の配列が実に特殊で……」


 最初は緊張で俯きがちだったアルバート殿下が、一人の令嬢が「まぁ、本当ですわ! 従来の書物にあるものとは全く異なりますのね」と深く感銘をうけたように微笑むと、彼の表情は一気に輝いた。


 嬉々として植物の魅力を語りだす彼を、令嬢たちは尊敬の眼差しで見つめている。





 ──その様子を、私は少し離れた場所からユリウス様と並んで見守っていた。


「見事だね。アメリア。兄上があんなに生き生きと女性たちと話している姿は初めて見たよ」


「ふふ、アルバート殿下の誠実さと深い知識は素晴らしい魅力ですから。ただ、今までは輝ける場所が少し違っていただけなのです」


 私の言葉に、ユリウス様が愛おしそうに目を細め、私の肩を引き寄せた。


「人の価値を正しく見抜き、幸せな縁を結ぶ。……君は本当にこの国に光りをもたらす女神のようだ」


 かつて「無能だ」「お前など不要だ」と冷酷に切り捨てられた私が、今はこうして(誰か)の魅力を開花させ、感謝されている。

 その奇跡のような現実が胸に込み上げ、視界が少しだけ潤んだ。


 私が私であること。誰に否定されても努力をやめなかったこと。そんな私のすべてをユリウス様は見つけ出し、愛し、この場所へと導いてくれた。


 そして、この目まぐるしくも充実した忙しい毎日こそが、私がようやく辿り着いた「私の居場所」なのだ。



「……ねえ、ユリウス様」


「ん? どうしたんだい、アメリア」


 愛する夫に私は、少しだけ悪戯っぽく、しかしこの上なく幸せそうに微笑む。


「これからもきっと、私はお節介を焼いて、大忙しの日々を送ることになると思いますわ。……私の臨時の『助手』いえ、生涯の伴侶として、ずっと隣で手伝ってくださるかしら?」


 ユリウス様は、驚いたように目を見張った後、たまらずといった風に深く微笑んだ。

 そして、人目を忍ぶようにして私の手をとり、指先にそっと、熱い口づけを落とした。


「もちろん。君が望むなら世界の果てまでだって付き合うよ。……俺の世界一優秀で、愛おしいアメリア。君のいない未来など、俺には存在しないのだから」


 誰かに認められるために身を削って頑張るんじゃない。

 私たち二人で、新しい未来を、幸福な国を作っていくために、共に手を取り合って歩んでいくのだ。


 見上げれば、澄み渡る青空から暖かな木漏れ日が私たちを祝福するように降り注いでいた。

 凍えるような冷たい風も、涙にくれた孤独な夜も、もうそこには存在しない。

 あるのは、互いの肌から伝わる確かな体温と、明日への揺ぎない希望だけ。


 私は心からの笑顔で、愛する夫の手を強く握り返した。


 これが、私たちが選んだ「幸せ」の形。


「不要」と言われた元令嬢は、自らの手で運命を切り拓き、最高の仲間と、最高の富、そして世界一極上の王子の愛を掴み取った。

 彼女はこれからも、一番の理解者である夫と共に、どこまでも貪欲でそして輝かしい幸福な道を歩んでいく──










 完結

※今話で完結となります。今作は短編で考えていたこともあり、多少足早に完結しております。いつかリメイク完全版が描ければと思います。

出来れば広告下にある✩✩✩✩✩から作品へ評価を頂けると泣いて喜びます。

また、完全版、続きが気になると少しでも思われたらブックマークも是非お願いします。




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