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第7話 激闘ポメ太郎!雅のセンスは超ビミョー! ④

芋ジャージ魔法少女の雅は、相棒のポメ太郎と共に、巣鴨駅前で覚醒した魔法少女の敵、ダークマターの退治に向かう。

戦闘中、謎の激痛に苦しみだすポメ太郎。ポメ太郎を抱き抱えて逃げようとする雅に、敵の突進が迫る。

轟音と共に敵の突進を止めたのは、雅の姉のガチニート、明美だった。

 明美は自分の身体よりも倍以上の大きさがある巨大な獣の突進を、左手だけで止めていた。雅の目線を感じたのか、なんだか恥ずかしそうにして明美が言う。

「やだぁ、んもぅ雅ったら♡お姉ちゃんのこと、そんなジロジロ見ないで……♡」

「……いや、その歳でその格好はキツいなと思って」反射的に雅は答えた。

「べ、別にいいでしょ!変身した時だけなんだから!!」

 

 明美は雅がポメ太郎を抱き抱えている事に気付いた。

 「チトセに言われて来てみれば…。ポメ太郎。あんたがついてるから、雅は大丈夫と思ったんだけど……」そう言って明美は、がっかりした様な目線を震えるポメ太郎に向けた。

「すま……ない……ウッ!」ポメ太郎が明美にそう言う。

 自分の腕の中で儚く命が散っていく。そう思えるほど、雅にはポメ太郎が弱りきっているように感じた。「ポ、ポメ太郎?」雅は思わず声をかける。

 ガツガツと噛みつこうとしてくるダークマターに目もくれず、ガンとその頭を地面に叩きつけ、その巨体を左手のみで押さえつける。明美は話続けた。「どうせまた腰やったんでしょ?もうオッサンなんだから、無茶しないでよ」

「腰???」雅がそう言うと、ポメ太郎は恥ずかしそうに蹲(うずくま)った。

「雅。ポメ太郎は任せたから、どっか隠れてなさい」

 そう言って明美が右手で拳を握ると、ギュゥウンという奇妙な音と共に、何かが強引に押し潰されるような気配を感じる。明美の右腕、前腕のあたりが、骨の芯からオパールの様な様々な光を放っている様に見える。ギンッ!ギンッ!と金属がぶつかり合う様な音が幾つも鳴り、明美の右の拳の辺りの空間が、ぐにゃりと歪む。色とりどりの光の破片が散らばり、きらきらと輝いた。

 これが明美の魔法!?

 桃華やポメ太郎も、強力な打撃を放つ時に身体から強い光を放っていた。明美の魔法は、それと根本的に同じでも、練度なのかエネルギー量なのか、理由は分からないが全く別次元のものになっている。目の前で起きている事象に、雅は恐怖を覚える。自分な身体に、ぞわぞわと鳥肌が立っているのが分かった。

 ヴォオオ!!と叫び声をあげて、大きな獣が逃げ出そうとする。その紅い瞳が、恐怖に怯えている。

 明美は突進を防いだ左手で獣の毛皮を握りしめ「大人しくして」と言った。ピタリとダークマターの動きが止まる。「そう。良い子ね」

 

 明美は右拳をダークマターに放つ、その瞬間、ジワリと左手の薬指に鈍い痛みを感じた。強制的に自身の魔力回路に干渉されている様な感覚。ぶわっと圧縮した魔力が右手から漏れ出した。

 ババババっという爆竹が弾けた様な音がする。拳は勢いそのままに、ダークマターを殴りつけた。ドゴン!!と大きな音がして、ダークマターが後ろに飛んでいった。駅前のビルに飛んでいき、1階の書店に突っ込んで、ガラス窓や棚はめちゃくちゃに壊れた。

 ――は???

 明美は何が起きたのか理解出来なかった。いつものように、虚影体くらいなら簡単に消し去れる一撃を放ったはず。これまで何百回も、何千回も、何万回も放ってきた“乙女パンチ“が、失敗した。

「ウソォ!?なんでっ!?」

 

 ヴォオオォオオオォオオッ!!!

 ダークマターはその巨体を感じさせぬ俊敏さでビルに空いた大穴から飛び出し、別のビルを駆け上がった。明美は自分の右手を見つめている。

 呆気に取られていた雅は、はっと意識を取り戻して、ポメ太郎を抱えたまま、後ろに走り出した。ダークマターから逃げなければ。

 「明美!!」雅は振り向いて叫んだ。

 ダークマターが空中から明美に飛び掛かる所だった。

 轟音と共に、辺りにコンクリートの破片と砂煙が舞う。

 

 明美は飛びつかれた事なんて気にかけていなかった。変身が出来ているという時点でダークマターからの攻撃の防御は出来ている。身体は地面にめり込んでしまっているが、何のダメージもない。もう一度魔力を右手に込めた。魔力を込める所までは出来るみたいだ。しかし――

 ダークマターに向けてアッパーカットを放つ。やはり、攻撃を向ける意識をした瞬間に、攻撃魔法に割いていた魔力が消える。自身を対象にした身体強化の魔法のみが残っている。

 強烈な打撃を食らったダークマターは吹き飛んで、今度は明美の向かいにある駅ビルの3階まで飛んでいった。大きな黒い毛むくじゃらの球体は窓ガラスを突き破り、半身をビルの中に突っ込んだあと、ぼてりと鈍いおとを立てて地面に落ちた。

 よろよろと立ち上がるダークマターは、下顎から鼻先にかけて顔を醜く歪ませていたが、ざわっと毛を逆立てたかと思うと、また元の顔に戻った。

 「制約、これか!!うわ、めんどくさっ!!」

 

 ◇


 巣鴨のとあるビルの屋上、1人の魔法少女が降り立った。駅前でダークマターの覚醒を示す、破裂音を聞いたからだ。屋上から身を乗り出して、駅前の様子を伺おうと目を凝らす。

 やはり、ダークマターが覚醒している様だ。既に誰かが戦闘を始めている。

 池袋の少女達は、おそらく池袋の西口で覚醒前だというダークマターの退治に向かっているはず。もしや、さっき出会った、あのツインテールの子が戦っているのか?今の駅前の様子を見ると、地形の崩壊が進んでいる事から、どうやら苦戦しているという事が分かる。

 魔法少女は左手を前に掲げ、聖杖を具現化させた。

 ふと、魔法少女は手を止める。虚影体の1匹も倒せないとなると、浄化部隊としては失格だ。だからといって、ここで私が手を出してしまうと、彼女の成長の機会を奪う事になる。

 もう一度、駅前の様子を伺うと、確かにさっき見たツインテールの子が見えた。しかし、戦っているのはどうやら他の魔法少女の様だ。駅前ロータリーの中央、大きく陥没したコンクリートの穴から誰かが立ち上がって出てきた。

「明美……?」

 

 ◇

 

 とりあえず、あのダークマターをこの場に留まらせたい。瓦礫の中から明美は立ち上がって、ダークマターを睨みつけた。この状況をどう打開するかを考える。

 私が致命傷を加えられない事は、今の二発でダークマターも本能的に分かったはずだ。知能の低い虚影体であれば、『勝てそうな敵』の私に向かって来るはず。

 物理攻撃だけでダークマターを倒すことは出来ないだろうか。昔、一度は試した事がある。確かあの時は5〜6時間外傷を与え続けて、再生させ続けた。だけど結局、再生が衰える事はなく、私の魔力が無駄に消費されただけだった。同じ事をしても無駄だろう。前回は外傷を与えただけだった。それなら……。


 ダークマターは明美に襲いかかる。明美は、突っ込んできたダークマターの喉元を掴んで地面に叩きつけた。右拳で殴りつけ、ダークマターの頭部を破壊する。これで動きを止める。

 続いて、ダークマターの背中に手を突っ込んで背骨らしきものを握り潰した。その間にも頭は再生し続けるので、足で蹴り潰し、再生させ続ける。明美は息を思いきり吸って、ダークマターの背中に開けた大穴に、上半身を突っ込む。傷口は紫色の血の様な液体に満ちていて、巨大を動かす熱量から湯気を出している。

 肉の壁を引き裂きながら手を弄ると、指先に石の様な感触があるものに触れた。おっ、あった!

 

「明美……何して……」雅は目の前で繰り広げられているグロテスクな光景に、血の気が引くのを感じた。

 明美がダークマターの内側をぐちゃぐちゃにしながら動いているのが、黒い毛皮の上からでも分かる。再生したダークマターの頭部が悲鳴をあげた。

「核を探しているんだ……。何故か分からないが、明美は今攻撃魔法を使えな……イッ!だから、物理的にダークマターの核を破壊して、浄化しようとしているんだろォ!う……」抱えているポメ太郎がギックリ腰の痛みにヒクつきながら言う。

 ブチブチと肉を引きちぎる音がしたあと、ダークマターの体から明美が顔を出し、ぶはぁ!と息をする。

「あぁ!もう!再生早すぎる!」ペッペッと、口に入ったダークマターの血を唾と一緒に吐き捨てた。右手には紫色の宝石が握られている。

 雅は昨日、桃華がダークマターを倒した時に同じ宝石を見ていた。あの宝石が、ダークマターの核と呼ばれるものなのだろう。

 ギィい!!と痛みに悶えるダークマターの悲鳴を無視して、明美がダークマターの体から完全に抜け出すと、その巨大な獣の体はみるみる色あせていき、やがて白い灰になった。しかし、明美が右手に握る紫色の宝石からは、ボコボコ肉片が生まれてきている。

「ふんっぬぅううう!!!」

 明美はそれを思いきり右手で握り潰そうとした。しかし、宝石が壊れる気配はない。宝石が押し付けられた圧力を全て跳ね除けていることを、静寂が示していた。

「イライラするなぁっ!!」

 明美は自分が冷静さを失っている事を理解していた。これとよく似た状況を明美は昔、経験している。カッと頭の内側が熱くなるのを感じた。

 明美は宝石を地面に叩きつけた。そして、思いきり宝石を殴りつける。

「ぉおおらぁあああ!!!」

 どぉんと大きな音が鳴り響く。その衝撃波が辺りのビルの窓ガラスを破り、宝石にへばりついた肉片を吹き飛ばした。

 しかし、美しく光る紫色の宝石には、傷ひとつ付いていない。また宝石からボコボコと肉の塊が現れはじめる。

「クソがぁああ!!」

 明美の内側から怒りが溢れだす。何度もダークマターの核を殴りつけるが、辺りの地形が崩れていくばかりだ。ゴォン!ゴォン!!と街中に轟音が響き渡った。

 くそッ!くそッ!!

 明美を嘲笑う様な、シンの口元を思い出す。

 自分が魔法少女として培ってきたものを、全て否定する様なあの笑み。苛立ちが頭の中を焼き尽くした。

 くそ!くそ!!くそ!!!くそ、くそ、くそ、くそッ!!!

 壊してやる。お前の思惑なんて、この私が全部ぶち壊してやる!!


 ぎゅっと、誰かが背中に抱きついているのを感じた。

 その体温に、明美は自分を取り戻す。

 雅だ。

 

「もう……やめて……、見てらんないよ……」

 弱々しい声が聞こえてくる。急に周りの世界がクリアになった。

 駅前ロータリーの半分以上は、明美を中心とした大きなクレーターになっていた。めちゃくちゃになってしまった景色は、そのほとんどが明美がダークマターの核を壊そうとしてことで破壊されたものだった。

 明美は、興奮を吐きだすように、自分の息が震えているのが分かった。


 ごぽごぽと、粘液が泡立つ様な音がしたかと思うと、目の前でダークマターの核はみるみるうちに肉の塊になって、膨らんできた。

「雅!下がるよ!」そう言った時には明美は振り向き、雅を抱えて跳躍していた。

 ボゴぉッ!!と大きな音がすると、生皮を剥がされた巨大なネズミの様な形になり、血に飢えた瞳がぎょろりと明美達を睨んだ。


 閃光。

 閃光が、音もなく漆黒の獣を貫いた。

 一瞬でダークマターの身体は消し炭になり、紫色の宝石が砕け散る。

 

 明美はまだ、息が荒かった。抱えていた雅を下ろし、地面に立たせる。自分を見上げる妹の顔を見ると、やっと怒りが収まるのを感じた。随分大きくなったと思っていたが、まだまだ身体は軽いし、身長も明美よりひとまわり小さい。

「格好悪い所見せちゃったね、雅」

「…………ううん。私こそ、何にも出来なくてゴメン」

 少し泣きそうな声色が、小さい頃の雅を思い出させる。

 明美は笑いを堪えられず、思わず吹き出してしまった。

「ブ、ぶふっ!!何言ってんの!変身もロクに出来ないひよっこなんだから、そんなの気にしないの!あんたはこれからなんだから」

 そう言って明美は、ぽんぽんと雅の頭を撫でた。

 ダークマターだった灰の山から、ネズミが1匹飛び出して、ビルの隙間に逃げていった。あんな虚影体一体も倒せなくなるなんてと、明美は改めて自分が窮地に立たされている事を思い知る。

 明美はちらりと、閃光が飛んできた方を見る。ビルの屋上で、ふわりと白いスカートをはためかせて、魔法少女が飛んで行く所だった。

「さっきのアレ、魔法少女なの?」雅が明美に話しかける。

「あの攻撃、多分蓮よ。居たんならさっさと倒してくれれば良いのに」

「蓮……?」

「あんたのボディガード。挨拶させときたかったけど、帰っちゃったね。トイレ我慢してたのかな」

 雅は何故かさっき出会った女の子の事を思い出していた。あの人が蓮なんだろうか。

 もしかしたら出会った時、蓮さんはトイレ探してたのかも知れないなと、勝手に想像してしまう。何だか申し訳ない気がしてきて、どうか蓮さんがトイレに間に合いますようにと雅は願った。


「ウッ!!」力むような男の声がしたので、そちらを見ると、明美達の元へポメ太郎が這いつくばってきている所だった。

 完全にこの腰痛ポメラニアンの存在を忘れていた。雅は可哀想なギックリ腰の老犬を抱き抱える。

「ハァ……ハァ……。明美……お前……攻撃魔法が使えないのか……??」

「うん。完全にシンにしてやられたね」明美が気まずそうに、ヘラヘラと笑う。

「やはりそうだったか……。お前の状況は、皆に俺から連絡をしておく、お前は今は戦えないと思った方が良い。まずはお前が抜けた穴をどうにかして埋めなければ」

 明美は深く息を吸って、肺の中の悪い空気を吐きだすように、ため息をついた。想定内ではあったが、いざ現実になるとキツいものはキツい。

「…………まぁ、仕方ないか!!たまには私も休んだ方が良いわよね。今は浄化部隊の魔法少女も沢山いるし、何とかなるでしょ!」

 そう言った明美と雅は目が合った。

「という訳で、雅は明日から特訓ね!」そう言って明美は、にっこりと雅に笑いかける。

「…………特訓?魔法少女の特訓って事??それって何をどれくらいするものなの?」

 何故かやる前提で答えてしまった。発言してから、しまったと雅は思う。明美は笑顔の裏で、何かとんでもないことを考えている予感がする。

「そりゃあ、明日になってからのお楽しみよっ♡ワクワクするでしょ?じゃあ明日の放課後から、決まりね!!」

 雅の意見を聞かれる事なく、何か重大な事がノリで決まった気がする。

「あの……明美……私近いうちに練習試合があるからあんまり時間は……」

 

「練習試合?フッ、覚えておきなさい!雅!!魔法少女の戦いには、いつだって本番しか無いのよ!!」

 

今年から嗜む程度に小説を読んでいる。

まずはメディアで紹介されてたり、大きな賞を受賞してるような、人気の作家の小説を一通り読むところからかなと思うけれど、本当に自分に刺さる作家や作品に巡り合うには、果てしなく長い道のりな気がする。

気長にやろうと思う。

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