第7話 激闘ポメ太郎!雅のセンスは超ビミョー! ②
明美のパワーハラスメントにより、後輩魔法少女の桃華は無茶な特訓をして、風邪を引いてしまった。
それに罪悪感を感じた明美は、桃華の友達のチトセとの『約束』を代わりに引き受ける事にする。
その後、明美は敵のイケメンから受けた熱烈キッス攻撃により刻まれた謎の刻印をデカ乳守護天使のハルちゃんに見てもらう事にした。
渋谷の駅前は騒がしく、さっきのシンの追跡劇もまるで何もなかったかの様だった。周りの人間には、駅前の路上で喧嘩をする男女位にしか思われていないのかも知れない。
ハチ公前の案内所の前に、ハルは居た。コートを羽織っていて分からないが、下はエプロンを外しただけのメイド服みたいだ。
メイドの格好は完全に早妃の趣味で、ハルに着ることをお願いしているらしい。いつもは外に出る時は、不自然ではないように、明美や早妃と同じくらいの歳の女性の服装に着替えている。今日はその余裕がなかったのかも知れない。街に溶け込むハルは自然で、彼女が人ではないと、誰も気が付かないだろうと明美は思った。
「ハルさん、久しぶり」廣瀬が先に声をかける。
「あっ!廣瀬さん!申し訳ございません。私、まだこの街に慣れて居なくて、お恥ずかしい限りです」
「ハルちゃん、朝ぶりだね」廣瀬の後ろから、明美もひょいと顔を出す。
「明美様!お身体は大丈夫ですか?早妃様から明美様が呪われたと聞いて、早妃様が近くに居れば、転移魔法も使えたのですが……」
「あぁ、大丈夫、大丈夫!ほら私、ピンピンしてるから!」
ふん!と両腕に力こぶを作るようなポーズをとる。
明美の左手薬指に巻き付いた薔薇のような刻印を見て、ハルが言う。
「それですね……。ここでの解呪は目立ちます。人気のない所へ行きましょう」
明美たちは廣瀬の働くライブハウスにハルを連れて戻った。ハルは畳んだコートをバーカウンターの椅子にかけ、明美の左手に触れる。ハルは淡い光を纏い、じっと薬指の刻印を見つめた後、小さく「なるほど」と言った。
「これは呪いではありませんね。契約です」全身に帯びていた光は消え、ハルは刻印から明美の目に目線を移して言う。
「契約?いや、私、あいつと契約なんてした覚えないけど」明美はハルの触れる左手を動かさないようにしながらも、そう答えた。
「実影体の血がついた手で、傷口に触れられたりはしませんでしたか?契約の言葉を明美様に言わせる事は難しいと思いますので、恐らく明美様自身に、自分の体の一部であったものを取り込ませるような方法を取ったはずです」
「なるほどね。キスされた。あの時、私はシンの体液に触れてる」やはり、アレがこの魔法に必要だったのか。明美の予想が的中した。
「それですね」ハルは冷静に話を続ける。
「明美様、これは契約者の力を強制的に制限する類いのものです。身体へのダメージはなくとも、これが現れてから特定の行動が出来なくなったということはないですか?」
「でも普通に、覚醒前だったけどダークマター浄化出来たけどな……。まだ変身はしてないから、変身出来ないとか……?」
「じゃあ変身してみましょうよ。普通の変身なら、ここでも出来るじゃないですか」カウンターの奥からお茶を入れたグラスをハルと明美の前に置いて、廣瀬が言った。
「確かにね」
明美は座っていた椅子から立ち上がり、ハルと廣瀬から離れて、ステージの前まで行った。バーカウンターは入り口の近くにあり、ステージまでは少し距離がある。
「変身」
明美はパッと虹の光の球に包まれて、次の瞬間にはもう魔法少女の姿になっていた。
大きな胸元のリボン。スカートの下にはフリルいっぱいのパニエ。可愛らしい刺繍が入ったニーソックス。桃華と同じタイプのコスチュームなので、チョーカーや、キャットガーターも付いている。明美の聖霊鏡に嵌め込まれた聖霊石と同じ、淡いピンク色の衣装だ。
「う〜ん。別に普通に変身出来たね」
自分のコスチュームを見回しながら明美が言う。
視線を感じて、明美はハルの方を見た。何だかのぼせた様に、うっとりとした目で明美を見ている。
「素敵ですわ……明美様……」
「…………あ、ありがとう」
明美は変身が出来たことを確認したら、すぐに元の姿に戻った。明美がぼふんと煙を出して着替えた時に、ハルが小さく『あっ……』と言った。
ハルさんはあまり明美さんと戦闘を共にする事が無いので、最強の魔法少女の姿が見ていたかったのかも知れない。もう少し見せてやれば良いのにと、廣瀬は思った。おもちゃを取り上げられた子供の様に、ハルは寂しげな顔をしている。
「という訳で、変身も出来たし、大丈夫なんじゃない?」
「いえ、何か必ず制約をかけられているはずです。何を制限しているかは、正確な内容は契約した実影体に聞かなければ分からないかも知れませんが。恐らく実影体も明美さんと同じ様に、自身に何らかの制約を課しているはずです。それを代償に、明美様にも同じ制限を強制しているはずなので」
「何をやられたのか分かるまで、明美さんは戦わない方が良いんじゃないですか?」自分のグラスに注いだお茶を飲みながら、廣瀬が言う。
「いやいや、大丈夫でしょ!何をやられたかは戦っているうちに分かるだろうし、ヤバかったら逃げるよ。逆に何もしない方が時間を無駄にしちゃう気がするんだよね。ぶっちゃけ虚影体くらいなら目をつぶってても勝てるし。虚影体相手に何戦かやってみるよ」
「明美様。無礼を承知で申し上げますが、廣瀬さんの言う様に、まずはご自身にかけられた制約を調べる方がよろしいかと……」
もう、心配症なんだから。ハルの困った様な顔を見て明美は思う。
「分かったよぉ……。戦う時は桃華と一緒に戦うようにする……」と言っても今日は桃華は風邪で寝込んでいるが。
そこで明美は思い出した。
「うわ!!今何時!?」
廣瀬が腕時計を見る。
「今、12時42分ですけど。どうかしました?」
ひぇ〜っ!!完全に遅刻だ!!渋谷のライブハウスから巣鴨へは30分はかかる。チトセとの待ち合わせに、完全に遅れている!!
「ごめん、急用思い出した!!」明美は慌てて、自分の上着を着る。
「あ、明美様!?」
「ハルちゃん、来てくれてありがとう!廣瀬も、実影体気をつけてね!」そう言い残して、明美はライブハウスから飛び出して行った。
「行っちゃったね……」「はい……」ハルと廣瀬の2人が呆気に取られているうちに、明美は立ち去ってしまった。
「まぁ、明美さんの事だし、何とかなるでしょ!」
廣瀬はこうなる事が予想出来ていたみたいだ。
「そうだと良いのですが……」明美の出て行ったドアの方を見ながら、ハルは言う。
「明美様……どうかご無事で……」
明美の出て行ったライブハウスの扉が、ゆっくりと閉まった。
◇
9時から始まった雅の部活動は、13時には終わった。
練習試合の当日どうするかなどを話しているうちに、後輩達は帰ってしまって、久美子と葉月、雅の3人がバトミントン部では最後だった。
久美子はバトミントンのラケットのストリングを張り替えたいとかで、スポーツ用品店に行かないかと雅をさそった。雅はポメ太郎を拾わなければならなかったので、適当な理由をつけて、雅はその誘いを断るしかなかった。結局、久美子は葉月と一緒に行く事にしたらしい。なんだか寂しい気もしたが、仕方がない。
「そういえば朝さ!巣鴨から来る途中で、すごいもの見ちゃった!なんだと思う!?」更衣室で着替えながら、葉月が話しだす。
「え〜、なんだろ。芸能人とか?」葉月が興味あるのは、大体そんなところだろうと、雅は答える。
「ここら辺、芸能人住んでる?ロケとかしてたかな?」いつも通り、久美子も話に乗ってくる。
「違います〜。正解はね〜、野良ポメラニアン!」
ぶほぉ!!雅は思わず吹き出した。
「やっぱり雅、食いつくと思ったよ!本当、ポメラニアン好きだよね〜!ははは」葉月は満足そうだ。
「なにそれ!そんなの居た?私全然見なかったけど」久美子が無駄に話を掘り下げる。やめてくれと雅は思った。
「え、え〜。なんかの見間違いでしょ〜。ポメラニアン野良でいるわけないよ〜」雅は全く抑揚のない言葉で返した。もう演技をする余裕もなかった。
「いや、あれ、絶対野良だって!飼い主っぽい人は周りに居なかったし。なんか巾着みたいのを首から下げてて、普通に歩道歩いてんの!びっくりしたよ!」
ポメ太郎、ちゃんと隠れたりしてくれ!雅は心の中で叫ぶ。思わず口に出してしまいそうなので、唇をぎゅっと閉じた。
「それはアレかな!おつかいかな!その巾着の中にお財布とか入ってるんじゃない??」
いや、久美子!掘り下げるなって!いくらお利口でも、犬がおつかい出来るわけないだろ!言葉が喉元まで来ている。話したい欲求に耐えようと、雅は瞼も閉じた。Tシャツを脱いでいるところなので、多分顔は見られてないだろう。
なにかこう、話を逸らす事はできないだろうか。制服に着替えながら考える。
「駅まで行く間で、まだいるか探してみようよ!雅もそれならついて来るでしょ?」ほら、葉月が調子にのりはじめた……。
葉月の事なので、久美子と2人が気まずいというよりは、雅を1人にするのを気にしていたのかも知れない。でも、申し訳ないが、ポメ太郎を一緒に探す訳にはいかない。魔法少女がバレてしまう可能性があるからだ。
雅は頭をフル回転させる。葉月は怖い話が苦手なので、無理やりにでもポメラニアンで怖い話を作れば、興味を失くすかも知れないと、雅は思った。
「う〜ん……どうしようかな……。そのポメラニアンの話聞いて思い出したんだけど……。この話、知ってる?」
ネットで見た怖い話を思い出しながら、雅は話し始める。
「小型犬の犬種ってさ、ああいう可愛い身体に産まれるように、身体の小さい親同士を交配したりしてるから、近親交配になってしまって、身体の弱い、奇形みたいな子が産まれちゃうらしいんだ」
さっきまでの更衣室の雰囲気とはすっかり変わってしまって、雲が太陽を隠したのか、室内が薄暗くなる。葉月も久美子も、雅の話に興味がありそうだ。雅は話を続ける。
「お母さんの友だちが働いてる病院で、変な患者さんが救急車で運ばれて来たらしいんだけど、その人は足の骨が奇妙な形で歪んで、足の先の方は黒ずんで腐り始めてたらしいのね。体もかなり弱ってて、呼吸が上手くできなくなって救急車を呼んだらしいの。その人は運ばれて来た時は本当に死ぬ直前で、なんとか生き返ったんだって。で、その人の家に行った救急隊員の人が言うには、家の中が酷い悪臭がして、犬の死体だらけだったんだって」
雅の母、咲苗の友達に看護師は居ない。だがそんな事は2人とも気にして詳しく聞いてくることはないだろう。
葉月と久美子の顔を見ている感じだと、腐るとか死体というワードの所で、若干顔が曇っている気がする。上手くいっているかも知れない。
「ちゃんと団体とかから認可されてないブリーダーには、飼育する環境の管理がずさんで、お金目的でどんどん子どもを産ませるから、奇形の子が沢山産まれちゃうんだって。そういう子はすぐに死んじゃうし、死体もちゃんと処理しないから、家の中が犬の死体だらけ。糞とか、死体の腐った臭いで、住むのも厳しい、みたいな事になることもあるらしいよ。その人の家がまさにその状態で、保険証も持ってなかったり、家の中がバレるとまずいって理由で、病院にもずっと行かなかったらしいの」
雅は淡々と話続ける。最後のオチは、ポメ太郎には近づくな。それにしなければならない。
「それで、なんか霊媒師?みたいな人を、その人の家に呼んだら、死んだ犬の魂が、ぶわぁ〜って、そこら辺の心霊スポットなんかよりも、ずっと沢山住み着いてたんだって。そういう呪いが溜まって、ブリーダーの人を呪い殺そうとしていたらしいの。それで、その怪しい霊媒師が、呪われた時に助かる方法をやったんだってさ」
しんとした室内に、体育館から午後の部活がアップをしている音が響く。「え……なに?どうするの?」葉月がおっかなびっくり、聞いてくる。
「死んじゃった犬の死体を焼いて、骨と灰にするの。そして、塩とそれを混ぜ合わせて、ちっちゃい瓶とかに詰めるんだって。それをね、元気に産まれた子に持たせて、そこら辺に放つの」
葉月が唾を飲んだのが分かった。
「その元気な子を拾ったり、可愛がったりすると、灰にされた犬達が勘違いするらしいのね。『あっ、こいつが私たちのブリーダーだ』って。それで、呪いは可愛がったりする人の元に移るんだって。その呪われてたブリーダーの人……ポメラニアンのブリーダーだったらしいよ……」
葉月が見たポメラニアンは、きっと呪いを移す為に放たれた子だ。雅は、あえてそれは言わなかった。葉月は実物を見てしまったので、血の気が失せたような顔をしている。
「どうする?探しにいく??」久美子は幽霊を信じないタイプなので、にやにやしながら葉月をからかう。
「い、行くわけないじゃん!!やば!危なかった〜!!」鳥肌が立ったのか、自分の二の腕を撫でながら葉月が言った。やった!成功だ!!顔から笑みが溢れ出すのを、雅は必死に堪える。
「そうだよ!今度から気をつけて!野良ポメラニアンとか、1番危険なんだから!!」
そう言うと、雅はなんとなく、申し訳ない気持ちになってしまった。昨日も明美が入院したとか言ってしまったし、嘘ばっかりついている。
魔法少女を続けるって事は、周りの人に嘘をつき続けないといけないのではないだろうかと、雅は思った。
◇
教室に忘れ物があるのだと言って、雅は久美子と葉月の2人とは分かれて、朝に待ち合わせした草むらを探した。しかし、ポメ太郎は見つからず、スマホの履歴から、ポメ太郎に電話をする。
「雅か、ごめんな。ちょっと移動したんだ。裏の公園に居る」「分かった。今から向かうね」そう会話して、雅は学校の正門に向かった。
雅の学校は、割と都市部にあるからか、出入りできる場所がある程度決まっていて、不審者が侵入しずらいような作りになっている。
校門を出て、裏の公園にどうやってまわっていこうかと考えながら歩いている時、雅は後ろから声をかけられた。
「あの、君、この学校の生徒さんですよね。ちょっと教えて欲しいんだけど」
男の人の声だ。明美と同じくらいだろうか。知らない男性に話しかけられる事がないので、雅は少し怖いと思った。優しそうな声が、逆に何かを企んでいるのではないかと思えてしまう。
振り向くと、そこには男性が立っていた。キャップを被っていて、その影の奥で目がギラリと光っている。肌は白く、作り物の様に綺麗だった。やはり、知らない人だと雅は思った。
「この学校の2年生に、ニシナさんって居る?」
心臓をぎゅっと握られた気がした。全身に鳥肌が立つ。恐怖に足がすくみ、雅のバッグを持つ手にぎゅっと力が入った。
「いえ……、分からないです」
咄嗟に雅は男から目線を外した。とにかくこの男を刺激したくない。すぐにこの場を離れたい。
「あっ、それだけだと分からないよね。バトミントン部らしいんだよ、その子。君もなんかそれっぽい道具持ってるから、もしかして同じ部活かなぁと思ってさ」
気がつくと息を止めていた。この人が探しているのは、確実に私だ。同じ学年で仁科は居ないし、バトミントン部まで知られている。
明美や、両親の知り合いとも考えられるが、明美の男友だちなんて聞いた事が無いし、両親の知り合いにしては若すぎる気がする。
「し……知りません!!」
つい声を荒げてしまった。そして、雅は気がつくと走り出していた。
怖い。顔も知らない大人の男に近づかれるのが、怖くて仕方ない。
「っ!!」男が声を出したのが分かった。
ひたすらに駅までの道を走る。おかしい。今日は、やけに人が少ない。助けを求めようにも、周りに人が居ないんじゃ、意味がない。
がっと、バトミントンの道具の入るバッグを掴まれた。男に追いつかれたらしい。全力で走ったはずなのに……と雅は思った。
「お、俺は!君のお姉さんの知り合いだ!!」
男は何を言えば良いのか、戸惑っているようだった。
気持ちが悪いと、雅は思った。
バッグを掴む力が強い。雅が引っ張っても、びくともしなかった。
「へ……変態……」
「えっ」
「誰か!助けてください!!変態!!変態が居ます!!」
思い切り大声を出した。不審者と言うのが正解だったかも知れないが、咄嗟に出てきた言葉を叫んでいた。周りに人影は見えないが、もしかしたら家の中の人や、裏路地に居る人に気が付いてもらえるかも知れない。
一瞬、男の手が緩んだ。雅はバッグを思い切り引っ張って男の手を離し、また走り出す。バッグを抱えて、思い切り走った。
恐怖からなのか、体に上手く力が入らなかった。それでも強引に、地面を蹴った。トレーニングで走り込みをしている時の様な、体が風を割いて進む様な感覚はまるでなく、息はすぐに上った。ただ、男から離れたいという目的を果たす為に、あてもなく走り続けた。
すると、雅の走っている通路の奥に、女子高生くらいの女の子が歩いているのが見えた。ぶらぶらと手に持つ小さなバッグを揺らして、機嫌が良さそうに歩いている。揺れる長い髪は、かなり明るいベージュで、太陽の光に当たった髪は、シルクのように輝いていた。白いレース付いたスカートが、ふわりと風に揺れている。
とにかく誰かに助けを求めなければ。雅はその女の子に向かって走った。だいぶ距離があったが、向こうもこちらに歩いて来ていたので、すぐに近くまで来ることが出来た。
「お姉さん!」
息を乱しながら、雅は話しかける。男に追われている危機感で、初対面の人に話しかける気まずさの様なものは、どこかに消えていた。もしくは、この女の子が話しかけやすそうな見た目をしていたからかも知れない。
女の子は一瞬、驚いたような表情をしたが、すぐにきょとんとした顔で雅を見る。
女の子の前で雅は足を止めた。息がうまく出来なくて、膝に片手をついた。体が熱くなっているのを感じる。
「ど、どうしたの?ツインテールちゃん」
女の子は少しふざけたような話し方をしてくる。普段からこうなのかも知れない。悪気は無さそうだった。
「変態に……追われてて……!」
「へ、変態に追われてるの!?」
大きな声を出して、女の子はバッと雅の走ってきた道の方を向く。
「……あら?本当??変態は居なさそうだけど……?」
えっ、と言って、雅も来た道の方を向いた。道はがらんとしていて、人影は見当たらない。
雅は肩で息をしながら、しばらく来た道の方を見回した。どこか物陰に隠れているのではないかと不安だったからだ。
「まぁ、変態はどっかに行ったみたいね!良かった良かった!」
女の子は雅に微笑んだ。その時にやっとちゃんと彼女の顔を見た。目はぱっちりとしていて、スッと鼻筋が通っている。雅にはよく分からなかったが、薄く化粧もしている気がする。明るいベージュの髪と白い肌のせいか、女性の石膏像の様な美しさがあった。
「……す、すいませんでした。急に……話しかけちゃって……」
とりあえず女の子に謝る。急に気まずさが湧き上がってきて、雅はいつもの人見知りが出てしまっていた。
「いいんだよぉ。変態は怖いからね。交番まで着いて行ってあげようか?」
「い、いや、大丈夫です。1人で行けます」
「あら、そうかい。じゃあ気をつけなよ。変態からは魔法少女も助けちゃくれないからね」
そう言って彼女は、雅に優しく笑いかけた。
朝井リョウ先生の何者を今更読んだのですが、はちゃめちゃに面白かったです。
就活で面白い小説なんて書けるもんなのかしらと思いつつ読んだのですが、直木賞は伊達じゃなかったです。




