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【ノベル8巻10/7発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第六部/裏 濯ぐ手向けの花束を。

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ウーヲンの憂鬱。【後編】

 

 ーーー人を、生き返らせる。


「……爺さん」

「分かっておる。それは、ただの願望じゃ」


 思わずウーヲンは声を上げたが、イングレイ爺さんは小さく首を横に振る。


「如何に【賢者の石】とて、既に死したる者に生命を与えることが叶う、と本気で思っていたわけではない。出来たとして、実際にやったかどうかは分からぬ。……が、そう、人は願わずにはいられぬものじゃ。大切なものを失えば、尚更にのう」

「お義父様……」


 奥方様が唇を噛むのを見て、爺さんは肩に添えられた手に自分の手を重ねた。


「決して、儂の人生が不幸であったというつもりはない。失うものと同じくらい、得たものもある。そうじゃろう?」


 目尻に涙を浮かべる奥方様の顔を見上げて、イングレイ爺さんは片目を閉じた。


「儂の心残りは、一つずつ解けていっておる。先立った家族は儂にエイデスを遺してくれ、愛(う)い嫁と孫を……新たな家族を得た。薬草畑を気ままに耕したことで、愛弟子までもの」


 ―――そうなんだな。


 これまでの話とその幸せそうな顔を見て、ウーヲンは意外に思う。

 イングレイ爺さんは、世間的に見ればとても恵まれた生まれで、名声と尊敬を集めている人だ。


 ウーヲン自身も、その博識と人柄を当然尊敬していた。


 それでも、少し裏を返せば身近な人々が皆自分より早く亡くなり、激動の時代に数多くの苦難と悲劇に見舞われる、壮絶な人生を歩んできたのである。


 そんな人でも、最後に幸せを感じるのは、『自分の側に寄り添ってくれる誰かがいること』なのだ。


「人生は、古びて色褪せていくものじゃが。儂の人生は、非常に豊かなものであったよ。理(ことわり)に反して共に生きるよりも、素晴らしい土産話が出来ることに感謝する程に」

「そんな言い方をしないで」


 奥方様は、結局涙を流さなかった。

 その代わり、ちょっと怒ったような表情で、イングレイ爺さんに言葉を重ねる。


「『古い』って言葉は、元々『良いもの』って意味なのよ? 年季が入っても大切で捨てたくないものしか『古く』はなれないでしょう。お義父様の人生は、古びる中で皆に彩(いろど)りを与えてるの!」


 その言葉に、ウーヲンは内心で息を呑む。

 奥方様は聡明なだけではなく、物の見方が本当に普通とは違うのだと、こういう時に思う。


 ―――そうだよな。


 畑の周りに生える雑草は間引かれるし、必要とされない花は咲いても枯れても見向きもされない。

 イングレイ爺さんは周りに種を蒔き続け、枯れてなお肥料になって土を肥やすような人で、だからこそ色褪せないままいられるのだ。


 そして、不意に気づく。


 きっと奥方様は、そんなイングレイ爺さんと共に過ごせる時間の短さを知っているから、何くれとなく側にいるんだろう、と。


「爺さん。俺も楽しかったよ」


 奥方様みたいな声掛けは出来ないが、ウーヲンもどうにか、同じ気持ちだと伝えたかった。


「爺さんと話して、あれこれどうしたらいいか考えるのが、面白かった」


 失敗することは、気にするなと言われてもウーヲンには結構しんどいことも多い。

 でも、【賢者の石】を育てている時に楽しい気持ちが勝ることが多かったのは、間違いなくイングレイ爺さんがいたからだ。


 だから。


「爺さん、次は何したい?」


 そう問いかけると、イングレイ爺さんはポカンとしたように、軽く目を見開いた。

 この人の、そんな割と間抜けな表情を見るのは初めてで、ウーヲンは思わず口角が緩む。


「次……?」

「土産話は、少しでも多い方がいいだろ。俺はまだ、爺さんと一緒に色んなことしたいよ。どうせ暇なんだろ?」


 するとイングレイ爺さんは、軽くまた顎髭を撫でた後に、ニヤリと笑みを浮かべた。

 次に口にする言葉を、ウーヲンは何となく悟る。


「この悪ガキめ。まだ儂に働けというか」


 思った通りだった。


 これがイングレイ爺さんだ。

 皮肉屋で、実は結構表情に気持ちが出るタイプで、跳ねっ返りが大好きで、面倒見が良い。


 今も、憎まれ口を叩きながらちょっと嬉しそうにしていた。

 だからウーヲンも、憎まれ口を返す。


「嫌ならいいよ」

「誰もそんなことは言っとらん。が、少しはおぬしも何をするか考えよ。人に任せて楽をしようとするな」

「次に会う時までに考えとく」


 少しは元気になったかな、と思いつつ、用は終わったのでチラッと奥方様に目を向けた。


 イングレイ爺さんの体力が衰えてるのは事実で、あまり長居しすぎると差し支えがあるかもしれないからだ。

 安堵したように目を細めていた奥方様は、こちらの意図を汲み取って、一つ頷くと口を開く。


「お義父様、そろそろお昼寝の時間よ。無理して風邪でもひいたら、楽しいことできなくなっちゃうでしょ」

「なら、俺はこれで失礼します。爺さん、また遊びに来るよ」

「うむ」


 そうして別れ、オルミラージュ本邸を出ると、さっきまで薄曇りだった空は晴れていた。


「ミザリにも聞いてみるか……」


 彼女は、ウーヲンほど四六時中植物のことを考えている訳にはいかない立場だけど、イングレイ爺さんと一緒に何か出来るなら、喜んでくれるだろう。


 愛しい人の顔を思い浮かべながら、ウーヲンは王宮に向かう道を歩き出した。

 

ノベル版8巻発売中ですー♪


宜しければお手に取っていただけると嬉しいです♪


今回もがっつり加筆しておりますー♪


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