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【ノベル8巻10/7発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第六部/裏 濯ぐ手向けの花束を。

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ウーヲンの憂鬱。【中編】

 

 オルミラージュ本邸に入ってシドゥと別れ、イングレイ爺さんのところに案内されると、そこには奥方様もいた。


「おお、ウーヲンか」

「話をしに来たんだけど、取り込み中か?」


 イングレイ爺さんにそう答えながら奥方様に頭を下げると、彼女は軽く首を傾げる。


「あら、ごめんなさい。ちょうどお茶の時間が終わったところだったのよ。邪魔なら席を外すけど」

「いえ……」


 奥方様は、ミザリが『ミィ』と呼んで親しくしている相手である。


 が、王妃殿下もそうだが、奥方様が侍女に化けて働いていた時にはあまり関わりがなく、しかも命令されたとはいえ彼女を襲うという『やらかし』をした。

 窮地を救っていただいた恩もある上に、今では立場が違い過ぎる為、こうして未だに気さくに声を掛けられるのが落ち着かなかった。


 それでいうとイングレイ爺さんも、本当は気軽に会いに来て話していい相手でもないのだが、その辺りは負い目も含めて気持ちの問題である。


 が、今からする話は奥方様もご存じの部分なので、聞かれて困ることもない。


「【賢者の石】に関して、話をしに来たのです」


 そう答えると、奥方様は少し考えるように眉根を寄せた後、ちょっと呆れた目をイングレイ爺さんに向ける。


「お義父様、もしかしてまた何か、悪戯でもしたのかしら?」

「別に、ウェルミィが話してくれたことに関わりがあると知って、やっておったことではないのう。悪い遊びといえば、そうかもしれんがの」

「ウーヲンを巻き込んで、こっそり【賢者の石】作りをしていたってことよね。何で彼がその成果を出せたのか、納得がいったわ」

「こやつは優秀な弟子じゃからの。それに真理の探究を求めるは、オルミラージュの血のどうしようもない性(さが)じゃ」

「まぁ、エイデスもそういう系の話で悔しがっていたし、そうなんでしょうね」


 奥方様は特に怒っている訳ではなさそうで、座っているイングレイ爺さんの肩に手を添えながら、こちらに目を向ける。


「どうぞ。聞かれて困る話でないのなら、私も聞いておきたいわ」

「はい」


 ウーヲンは、【賢者の石】に関する話をイングレイ爺さんに伝え、最後にこう付け加えた。


「完全な【賢者の石】を作るには、今得られるものの他に、十二の血統の純血と、アトランテ王国に群生すると言われている幻想花(アーシャ)、この二つが必要らしい。で、この二つはそれぞれ別の理由で、俺に手に入れるのは無理そうだ」

「なるほどのぅ……」


 話を聞いたイングレイ爺さんは、すっかり痩せた手で顎髭を撫でて、片頬を上げる。


「残念じゃな」

「……せっかく作り方が分かったのにな」

「そうではない」


 イングレイ爺さんは小さく首を横に振る。



「その『答え』を我ら二人で見つけられなかったのが惜しい、という話よ」



「……?」

「分からんか? 謎解きの問いと答えをただ教えられても、そこに何の喜びもなかろう。悩んだ末に自分で思いつくから楽しく、棄権して答えを聞くから悔しいものよ。まだ悩んでいる途中に教えられても、『今、考えておったのに!』という気持ちになろう?」

「……確かに」


 ウーヲン自身は作れないことそのものを残念に思っていたし、申し訳なく思っていた。

 しかし、爺さんの言うこともよく分かるし、シドゥの話した通り、考えることそのものが楽しかったのだろう。


「……ウェルミィ、エイデスは気にしておったか?」


 純血の話を聞いてそう尋ねるイングレイ爺さんの声色が、どこか人を気遣うものに変わっている。


 オルミラージュの御当主様を心配しているのだろう。

 すると奥方様は、添えていた手を上げて、ぽん、と軽くその肩を叩く。


「心配しなくても、私が凹まないように発破をかけておいたわよ。別に誰のせいでもないって。勿論、お義父様のせいでもないし、気にしないで」

「ならよい。……ちょうど良い機会じゃ。二人に昔話でもしようかの」


 足の間に置いた杖の頭を持つ手に力を込めて、イングレイ爺さんが椅子の背もたれから軽く体を起こす。

 奥方様が、当たり前のように手を背中に移動して、その体を支えた。


「儂がオルミラージュの当主を継いでから、様々なことがあった。帝国との戦乱から、弟夫妻や妻や子の死去など、本当に様々なことがの」


 深く年輪のようなシワが刻まれたその顔は、ウーヲンには多くが笑い皺のように見えている。

 しかし真剣な目をしている時の眉根の寄せ方、引き結ばれた口元を含むイングレイ爺さんの雰囲気は、常にはない威厳を纏っていた。


「激動の日々を過ごす中で、儂にはどうしても名残惜しかったことがあった」


 自然と背筋が伸びたウーヲンに、遠い目をした爺さんは淡々と言葉を重ねる。


「それが、【賢者の石】の生成に関する研究をする時間がなかったことじゃ。学者としての儂の専門分野は、真理の探究の中でも、元々かの石を生み出すことに関するもの。……こうしてあまり動けぬ状況になるまで、没頭する時間すらないとは思わなんだがの」


 少し自嘲するように笑うイングレイ爺さんに、奥方様が悲しそうな目を向ける。

 何でそんな顔をしているのかは、次の爺さんの言葉で、なんとなく悟った。



「早くに作り出せていれば、あるいは……妻子を蘇らせることも、叶ったかもしれぬ」


 

ノベル版8巻発売中ですー♪


宜しければお手に取っていただけると嬉しいです♪


今回もがっつり加筆しておりますー♪


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