いつものウェルミィ。
予約しようとしたら誤って投稿してしまったので、本日2話目です。
「『宿命』を与える……?」
唐突に告げられた違和感しかない言葉に、ウェルミィは面食らった。
「かつて、大公国の地に十二氏族が至った真相について、オルミラージュ侯爵夫人はご存知でしょうか?」
「話くらいは聞いたわね」
昔話のようなものである。
〝精霊の愛し子〟は、現在バルザム帝都がある場所に住んでいた。
その恩恵を自分だけが独占しようと、当時の〝水〟の氏族長が目論んだことで【魔王】が顕現、十二氏族は崩壊し、〝精霊の愛し子〟とその伴侶が死去した。
新たな愛し子である赤子を現在の大公国四公家が逃したが、〝水〟の企みに気づいたオルミラージュやアバッカムが彼らを追ったという。
そして〝水〟の氏族長を『裏切り者』と断じて処刑し、そのまま新たな愛し子と共に『魔性の平原』を超えて、現在の南部辺境伯領を経由し、この地に移り住んだ……というものである。
「そのお話が、仰られたことにどう関わって来ますの?」
「〝水〟の氏族長を断罪する際、新たな『宿命』の長として選ばれたのは、潔白であった彼の息子でした。『宿命』は、ある氏族に他の氏族が手を貸せば、魂から剥ぎ取って血統を継ぐ別の者に移し変えることが出来るのです」
「……そんなことが出来るなら、やりたい放題になるんじゃ?」
ウェルミィは眉を顰めた。
魂に刻まれているから恩恵も受けるし、同時にいらないと思っても逃れ得ないのが『宿命』だと思っていたのだけれど。
だから昔、テレサロやソフォイルは苦しんでいたのである。
「お義姉様もそう出来る、ってこと?」
「いえ、あくまでも他の『宿命』に関してのみ、でしょう。それに、好き勝手に出来るわけではありません。少なくとも、半数以上の氏族長の力が必要となる手段かと思われます」
「いいでしょう」
そこを深く突っ込んでも、益はなさそうである。
「どなたが、それを成し得ますの?」
「『サバト』の長、ですわ」
リオノーラ夫人の言葉は、明瞭だった。
ーーーオレイアが?
お義姉様の側に控える彼女も、それは知らなかったのだろう。
表情こそ変えないけれど、リオノーラ夫人に訝しげな目を向けている。
「外敵から主を守るのが〝光〟の氏族なら、内敵から主を守るのが〝闇〟の氏族です。かつては刑罰の氏族であり、氏族が主を害す、という罪に対する、最も重い罰を与える存在なのです」
〝闇〟の氏族は、〝精霊の愛し子〟の護衛であると同時に、司法における処刑人のような立場だった、という話なのだろう。
言われてみれば、最も有名だろう〝魅惑の魔術〟に類する精神操作の力というのは、更生や服従といったものを強要する能力、ではある。
「ルトリアノから『宿命』を剥ぎ取れる、としましょう。それをマイラーに与えることは不可能なのではなくて?」
彼は編者の血統ではなく、朱瞳……〝精霊の愛し子〟の血統なのである。
「マイラーは編者の血も継いでいるのかしら。それとも、〝闇〟の氏族は別の血統にすら『宿命』を与えられるの?」
「どちらも、答えとしては否、ですわ。けれど、彼に関して言えば、全ての血統を統べる者の血族であることから、それが可能であると考えています。王妃殿下でも、リロウドの血統でも不可能……」
リオノーラ夫人は、筒を握っていない方の手を軽く開いてから、握り込んだ。
「……ですが、マクスウェルの血統であれば可能なのです。既にルトリアノ氏が亡くなっており、後継者がいない今であれば」
「その心は?」
「精霊に愛されし者の恩恵の内、リロウドが『解き放つ力』の恩恵を。マクスウェルが『湛える力』の恩恵を受けているからですわ。〝闇〟の氏族が『宿命』を剥がすことで、浮いたその『宿命』を一時的に預かることが可能なのです。詳しい話は、聞き及んだ状況から、マイラー本人がよくご存じでしょう」
そこで、エイデスが小さく頷いた。
「それが、謎の答えか。あの男が〝影渡り〟の血統固有魔術を使えたのは、マクスウェルの血統の『力』だと」
「ええ」
「お義姉様に不可能な理由は?」
最も精霊に愛された者であり、リロウドの力もマクスウェルの力も〝精霊の愛し子〟の力のおこぼれなのだから、お義姉様自身が預かることも可能に思える。
けれど、その答えは至極簡単だった。
「王妃殿下は、既に唯一無二の『宿命』を備えている方です。二つの『宿命』を持つことは叶いません」
ーーーなるほどね。
二つの『宿命』を持つ人はいない。
言われてみれば、当たり前のことではあった。
「最後に一つ。マイラーはそこまで信用出来るとお考えなのかしら?」
「お互いが信用に値するか否かは、今後の彼との話し合いの内容次第かと思いますわ」
「つまり、信用出来るだけの話を引き出して、信用されるだけのものを示せ、ってことね。ヘーゼルを誘拐したあの男に対して」
最後にちょっと皮肉混じりの言葉を告げると、それには特に答えを返さず、リオノーラ夫人は笑みを深めて深く淑女の礼の姿勢を取る。
「それ以上は、わたくしが口出しをする領分にはございません。皆様のご多幸をお祈り申し上げております」
彼女の言葉と所作に、最近体調を崩しがちな元・エルネスト家令……ゴルドレイの姿が、ちょっと重なった。
ウェルミィは深く息を吐く。
リオノーラ夫人はあくまでも、求められた情報と推測を与えるだけ。
ゴルドレイ同様、『従』の姿勢を崩さないという意思表示なのだろう。
すると、お義姉様も、レオも、エイデスも、そしてヘーゼルやズミアーノらもこちらに視線を向けていることに気づいた。
「……何? またなの?」
この人達は、自分たちの方が権力があるというのに、何故かこういう時はウェルミィに『どう動くか』を決めさせる節がある。
「だって、ミィがどうするか決めるのが、一番面白いしさー」
「そもそもの発端は、お前の義姉と側付き侍女らに起こった件だからな」
ズミアーノとエイデスがそれぞれに答え、それにレオが肩を竦める。
「俺が何か決めたって、君は納得しないだろ」
「別にそんなことないわよね!?」
プライベートな場ではともかく、流石に王太子や国王として振る舞っているレオの意思に逆らってまで行動したことは……基本的にはない、筈である。
「お義姉様は?」
「わたくしは『今』のウェルミィに決めて欲しいと思っているけれど」
「ヘーゼルは!?」
「奥方様の意のままに、どうぞ」
お義姉様は、何だか全幅の信頼を置いている顔をしているし。
ヘーゼルは意趣返しのつもりなのか、どこか面白がっていそうな目の色をして、口の端が軽く笑いをこらえるように微かに動いている。
「〜〜〜〜っ、エイデスも、自分の友人の話でしょ!?」
「復讐を完遂したことを処罰し、ヘーゼルを預かったことで、私たちの間で起こったことについては終わっている。お前の方は、今も続いている話だ」
「屁理屈って言葉知ってる!?」
「では、私が決めるか?」
「ええ、構わないわよ。私は『貴方の言うことを何でも聞く』んだもの!」
ふふん、とウェルミィが顎を上げると、エイデスが逆にニヤリと笑った。
「では、命じよう。『お前が決めろ』」
「……卑怯だわ!」
してやったりと思ったのに、結局こうなるらしい。
別に構わないけれど、こういう空気になるのはいっつもいっつも、全員でわざとやってるとしか思えない。
ウェルミィに決めさせたらどうなるか、なんて、絶対分かっている筈なのに、言わせようとしているのだ。
「いいでしょう、この後、ヘーゼルやミザリと話をして、それからマイラーに話をしに行くわ。それでいいわね!?」
やけっぱち気味に言い放つと、皆が何故か、満足そうに頷いた。
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