オルブラン兄弟の暗躍。
「セフィラ氏」
「はい、王妃殿下」
最初にお義姉様が問いかけた相手は、セフィラ様だった。
微笑みを浮かべた彼が、美しい淑女の礼の姿勢を取りながら応じる。
「おそらく、今回の一連の発端になった件について……貴方がペソティカ男爵家を調べ始めた理由から、教えていただけまして?」
「承りました。わたくしがその件について調べたのは、兄からの依頼があったからですわ」
チラリと兄のズミアーノに流し目をくれたセフィラ様は、そのまま言葉を重ねる。
「理由はご存じの通り、我が妻のアルミニカがペソティカ男爵家の出身だったからですわね。ペソティカ男爵に会いに行くのなら、妻が王都でちょっとした息抜きができますでしょう? だから、請け負いましたの」
「オルブラン侯爵。弟君の言葉に相違はございませんか?」
「ないね〜」
相変わらずヘラヘラとしたズミアーノは、今は魔人の瞳を隠して元の姿……多分エイデス同様、レオの許可は得ているのだろう……に化けている。
「オレもあの時期、あんまり動けなくてさ〜。ほら、例の件でニニーナから目が離せなくて。オレや魔導卿の体のことで、すぐに無理しようとするからね〜」
そんな彼に、ウェルミィは自分が原因なのでちょっと後ろめたさを感じつつも、口を開く。
「相変わらず、仲睦まじくて何よりだけど、わざわざ弟に頼む程のことだったの?」
「あはは、役に立ったでしょ〜?」
「それはね。ずっとこんな感じで穏便に動いてくれてもいいわよ?」
「オレが動いたら穏便に済まないみたいじゃない〜?」
「済んでないでしょ」
昔の話にしても、魔人化の件にしても、理由はともかく全然穏便には済んでいない。
ただ、ズミアーノがニニーナ様を大切に思っていることに間違いはないし、本来、面白いことなら率先して動き回りたいタイプでもある。
そこを考え合わせると、少なくとも今回の件について嘘は吐いていないだろう。
「貴方が、弟とはいえ他人を使ってまで急ぐ理由が何かあったの?」
「ん〜? だって、この件についてさっさと調べた方が、ニニーナにとって一番良い結果に繋がりそうじゃない〜? まだイオーラの直観は多少活きてるだろうしね〜」
彼は、お義姉様が〝精霊の愛し子〟について調べようと考えたことに意味がある、と思っているのだろう。
ウェルミィも、実際に色々な事実が発覚していっているので、そこを疑っているわけではない。
けれど、彼がニニーナ様の心労の原因であるエイデスとズミアーノの魔人化を解く手がかりになる可能性が高いと考えていること自体に意味はある。
お義姉様とズミアーノが同じ方向を向いているのなら、多分動きとしては間違いではないのだろうから。
「でも、何でペソティカ男爵家に目をつけたの?」
この男には、かつて誰にもバレずに国際魔導研究機構の中に、大公国ではよりにもよってアトランテ王国上王陛下夫妻の寝室にまで忍び込んだ前科がある。
興味があるのなら、時間を置いてニニーナ様が落ち着かれてから、もっと深い関わりがありそうなところを調べようとしてもおかしくない。
そんな中、リロウド公爵家でもアバッカム公爵家でも、お義姉様のお母様であるローラ様の実家でもなく、ペソティカ男爵家を調べようと思った理由は何なのか。
何気なく尋ねると、彼は今回もまた、とんでもない情報を不意に落としてきた。
「朱色の瞳の男に、『ペソティカ男爵家の家系図を調べると面白いことが分かる』って言われたからだね〜」
「……は?」
「どういうことだ?」
ウェルミィとエイデスが声を上げるのと同時に、レオとお義姉様も顔を見合わせる。
ヘーゼルも、自分を誘拐した男を知っていると言われて、目を丸くしていた。
が、ズミアーノはごく当たり前のように、話の続きを口にする。
「なんか領地にいる時に接触してきてさ〜。例の件について知ってて、情報交換を持ちかけられたんだよね〜」
「はぁ!?」
ウェルミィは、思わず口元に閉じた扇を持ってきて語気を強めた。
そろそろ度重なる力の掛け過ぎで、扇が折れてしまうかもしれない。
「まさか、また貴方のせいなの!? どう考えても怪しい相手を捕まえもせずに、何の情報を流したのよ!?」
「大した情報じゃないよ〜? 『ルトリアノ・グリンデルの功績に関して知ってること』を教えて欲しいって言われたから、教えただけ〜」
「内容は!?」
「主に契約魔術に関する話だね〜。ほら、あの人の研究ってアルガ・オルミラージュの論文からの発展でしょ? 特に聞きたそうだったのは『魂を縛る契約魔術を、合意を得ない場合でも解除出来る方法』みたいなのはないか、って話だったよ〜?」
なかったけどね〜、と笑うズミアーノに、ウェルミィは思わず眉根をギュッと寄せた。
ーーー魂を縛る契約魔術の、解除……?
ウェルミィはエイデスとの間に一つ、国際協定の血統固有魔術所持者の報告義務について一つ、その契約を結んでいるけれど。
もし意に染まない形で契約した者や、大公国の四公家一族の誰かなら、そんな方法を探してもおかしくない。
「エイデス。そんなことが可能だと思う?」
「分からんな。方法はありそうな気がするが、少なくとも発覚すれば禁呪に指定されるくらいの発見ではあると思う」
元々魔導具の解呪が専門分野であるエイデスでも、すぐには思いつかないくらい難解なようだ。
なら考えても仕方がないので、もう一つ重要な提案を、多分ウェルミィと同じ理由で渋面を浮かべているレオに向かって口にした。
「ねぇ。そろそろ危険な侯爵から、本気で爵位取り上げること考えた方がいいわよ。セフィラ様の方が当主に相応しいんじゃないかしら?」
「真剣に検討しておく」
「おかしくないかな〜? オレが接触したのって、誘拐事件を起こす前だよ〜?」
「あの件を知ってて、朱色の瞳を持つ、どう考えても怪しい人間でしょ!?」
「そうだね〜。だから、名前調べといたよー?」
あっさりと口にしたズミアーノは、そのまま言葉を重ねる。
「あの男の出自は、魔導卿の言った通りだね〜」
「帝国の朱色の瞳の一族か」
「そ〜。ローラ夫人の甥っ子……名前は、マイラー・マクスウェル。もっとも、今は平民になってるみたいだけどね〜」
「平民?」
「ま、帝国に併呑された国の貴族だからね〜。苗字があるだけで、爵位も実家の貴族家もないみたいだね〜」
それで、とズミアーノは指を立てて、追加の情報を落とした。
「〝希望の朱魔珠〟を掘り出したのは、どうもマイラーの従姉妹らしいよ〜。その件についてもまぁ、マイラー自身が関わってるっぽくはあるんだけど……それより重要そうな話が最後に一個あってね〜」
「何?」
もったいつけてんじゃないわよ、と睨みつけるが、当然ズミアーノにそんな視線の圧が通用するわけもなかった。
ヘラヘラと笑いながら、彼はその『重要そうな話』を口にする。
「その従姉妹、どうやら『ベガス』って国で、行方不明になってるみたいなんだよね〜」
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