と金の軍師 〜記憶なき将棋名人、土佐の隅から天下を詰ます〜
最新エピソード掲載日:2026/06/21
土佐の谷あいに、名も無い流れ者として生きる男がいた。記憶は無い。自分が何者だったのかも知らない。ある日、村で見かけた粗末な将棋盤が、男の中の何かを呼び覚ます。――自分は、この盤の頂に立つ者だった。名人だった、と。
取り戻したのは、過去でも、名でもない。盤を読む目だけ。だが男はその目で土佐を見て、悟る。この国は、ひどい負け将棋だ。北からも東からも大駒に囲まれ、王は弱く、手駒は薄い。誰が見ても、降りる局面。
――結構。負けている側につくのは、得意だ。
姫若子と侮られる若き当主・長宗我部元親に拾われ、宗佐と名を与えられた男は、乱世を一面の盤として読み切っていく。敵を殺さず、取って打つ。城を守らず、手番を取る。天下を力で奪わず、巨人同士を刺し違えさせる。盤の隅に置かれた一枚の歩は、やがてと金となり、中央の玉――京へ。
未来を知る者の物語ではない。ただ一人、誰よりも深く読む男の物語だ。
そして男は、まだ気づいていない。盤を指しているはずの自分もまた、誰かが取って打った、一枚の駒であることに。
取り戻したのは、過去でも、名でもない。盤を読む目だけ。だが男はその目で土佐を見て、悟る。この国は、ひどい負け将棋だ。北からも東からも大駒に囲まれ、王は弱く、手駒は薄い。誰が見ても、降りる局面。
――結構。負けている側につくのは、得意だ。
姫若子と侮られる若き当主・長宗我部元親に拾われ、宗佐と名を与えられた男は、乱世を一面の盤として読み切っていく。敵を殺さず、取って打つ。城を守らず、手番を取る。天下を力で奪わず、巨人同士を刺し違えさせる。盤の隅に置かれた一枚の歩は、やがてと金となり、中央の玉――京へ。
未来を知る者の物語ではない。ただ一人、誰よりも深く読む男の物語だ。
そして男は、まだ気づいていない。盤を指しているはずの自分もまた、誰かが取って打った、一枚の駒であることに。