表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

あとがき

                      


 この文章を書き終えた後に気づいた事が少しある。最後に付け足す事にする。


 概ね、文学というものはここ二百年くらいの間、バルザックやフローベールを基本とするリアリズム文学というものを解体したり、改変したりしてやってきたのではないかと思う。それがマジック・リアリズムのようなものであっても、リアリズムの解体・変化的な流れとして出てきているので、過去に比べて「進歩」したとは考えない。


 例えば、言葉は「記号」であるというのは最近の考え方であって、言葉はかつては「呪文」であり、「歌」であり、「言霊」だった。そうした事は、過去の人が真実を見ていなかったというよりは、過去に籠められていた言葉への生命力が喪失して「記号」が生まれたという見方もできる。


 文学においてはリアリズムが普通になっているし、自分の身の回りの生活を描く事からスタートして、想像力を飛翔させれば、幻想小説になったり異世界小説になったりする気がする。しかし、その根底にある認識は大して変わっていないように感じる。


 文学はかつては神話だったという事を考えると、リアリズムを基礎として、世界を言語によって指示できる、描く事ができるという考え方もそろそろ変えなくてはならないのではないかと思う。ある方法論、構造というものが歴史を通じて唯一普遍のもの、絶対に正しいものであるという考えは、19世紀に浸透して、世界に広がったように見受けられる。そこには当然、物理科学の成功があって、それをその他の領域に広げるという事情があった。


 しかし、科学における正当性は、我々の感覚機能における同一性に依拠しているのではないかと思う。言い換えると、科学が取り扱う物事は「単純」だ。僕という人間を質量・体積で計る時、内面性については一切考えない。そうしたものを抜きにする事によって整然たる秩序や将来予測が成り立つのではないかと思う。これに対して、人間の内面とか、歴史とかいった複雑なものに単純に理論を当てはめていく事は、危険であり、有害な事でもある。それらは科学における取扱物とは違う。精神の科学化を計ったフロイトは失敗した、と自分は考えている。それらは科学的に取扱うには未だに、あまりに複雑なものに思われる。(人工知能によってこの手の事は解決するという発想もあるようだが、あまり信用していない)


 文学というものを考えていくと、今も普通の生活を描く事に主眼が置かれている。そうではない場合は又吉直樹のように『こういうのが文学だよね』という暗黙の了解に頼っていく事になる。しかし、『こういうのが文学だよね』という本質ー定理そのものを改変しなくてはいけない、というのが現代に起こっている状況ではないか。


 マルクスやヘーゲル、あるいはニーチェの哲学は最終的には彼らの辿り着いた真理に到達する事を要請されている。彼らは自分自身か、自分が考えた真理が山の頂上にある事を確信している。この確信は近代の確信であり、近代の奢りだったかもしれない。今、イブン=ハルドゥーンという社会学者の本を読んでいるが、イブン=ハルドゥーンは歴史を栄枯盛衰と見ている。歴史を、最終的な解答を出すための道具とみなしているのではなく、人は、成功すればその事に奢り、廃滅していく「しかたない」生き物なのだ。昔の人間は、人間というものの中に、絶対的な真理に向上していく姿ではなく、むしろ、失敗したり、挫折したり、時には良い事もする人間をある諦念で見つめていた。そんな風にも見える。


 ドラッカーなども、絶えず、真理を更新する事を考えている。ある正しさに向かって、一つずつ階段を昇っていく方法論を絶対化してしまうと、周りの環境が変わっても、一度頂点に到達するとそこから変化していく術が残っていない。何が文学なのか、と考えると、今の社会状況を考慮に入れずにいられない。文学という本質があってそこに閉じこもる事に意味があるのではなく、むしろ、時代を通じて本質は常に更新され、発見され続けなければならない。「本質とは変えてはならないもののことであります」とソニー創業者の盛田昭夫が語っていたが、本質とは変えてはならないだけではなく、維持・更新する必要もあるのだろう。


 …長くなったが、この文章を書き終えて、そういう事も考えた。自分のしている事は極めて孤立していて、よほどのバカなのではないかとつくづく思っているが、その代わり、自分の考えている事は出来る限り、自分以外の人にもわかるように論理的に文章にしていきたいと思っている。それでは長いあとがきを終える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ