泳いだ後のお楽しみ
「全隊遊泳開始!」
「了解!」
「いくぞー!」
大騒ぎの後、ようやく泳ぎ始めた。波はおだやかで、海面は光を受けてキラキラと輝いている。絶好の海水浴日和だ。
全員浮き輪やビート板などの、浮き具を身につけてるので、溺れる心配はないだろう。
俺もバイタルサインをチェックしてるしな。
基本的に自由行動。
水をかけ合って遊ぶ者もいれば、ホセリアとクララ先生から真面目に指導を受けてる者達もいる。
すでに何人かは見事に泳いでいた。コツを掴んだのだろう。
女達の運動神経は良いし、基礎体力はあるので覚えるのも早いようだ。
まあ豪快に泳いでる奴もいるが……。
「どりゃあ! どりゃあ! どりゃあ!」
「ぶはっ! こらあー紅美! 近くでバタフライをするんじゃない!」
水泳というより、力任せに暴れているだけ。
腕や足を思い切り水面に叩きつけるので、大量の水しぶきが周囲に飛び散ってしまう。
近くにいる者達に水が引っかかるので、エラい迷惑だった。
「わりい、わりい」
と謝りつつ紅美は離れて行った。それでも飛沫は飛んでくるが……。
「ンニャ、ニャニャニャ!」
「海は楽しいニャ!」
年少組と遊んでいたのは獣人達。夏美は水に脅えることもなく泳いでいた。
密林では川に入ることもあったようだから、慣れているのだろう。
とはいえ普通の泳ぎ方ではなく、手足をバシャバシャと動かして進む、いわゆる犬かきだ。
俺に言わせれば猫かきだが。
「ン――――ニヤッ!」
その夏美の姿が突然消えた。
溺れたかと思って焦ったが、バイタルに異常はなく、どうやら自分から海に潜ったらしい。
やがて、夏美の頭が浮かんでくる。
「獲ったニャアアア!」
「すごい、すごい!」
夏美が掲げた手には魚があった。長い爪に突き刺さっている。
どうやら素潜り漁をしたらしい。これも昔の名残りかな。
道具を使わず仕留めるのだから大したもので、獣人の身体能力は計り知れない。
バケツは魚で一杯になり、年少組も喜んでいた。
「さて、俺も海に入るとするか」
昔は泳げたような気もするが、少年の身体になってからはどうだろう?
超能力ばかりに頼ってはいられないので、運動して体を鍛えねばならない。
俺は打ち寄せる波に向かって歩き、腰まで海水に浸かったところで、ゆっくりと身体を浮かせた。
「よし」
手足の動きを確かめるように、クロールでゆっくりと泳いでみる。
体が覚えてるのかもしれんが、問題はなさそうだった。
それより、女達の視線が気になって仕方ない。全員俺の体をジッとみていた。
「じー…………」
「思ったより逞しいわ」
「これは将来が楽しみね……アッチも」
ヒソヒソ話になっておらず、なぜか俺は値踏みされてるようだった。
……何を期待してるんだ、お前ら?
そして、次々と声を掛けられる。
「アラシお兄ちゃん、泳ぎ方教えて!」
「私達と競争しましょう、司令!」
「わかった、わかった」
さっきとは違うし、子供らのお願いを断るわけにはいかなかった。
しょんぼりした顔を見るのは辛い。俺も甘いな。
順番に相手をしていたのだが、他の女達も列を作って並んでしまう。
流石に疲れた……。
そして夕方になり、初日の訓練が終わった。
点呼をとった後、俺達は浜辺から臨時キャンプ場へと向かう。
軽くシャワーを浴びたあと、着替えずに全員で炊事場へと移動した。
「食いもんを持って来たぞ」
「待ってたぜ!」
「食べるの楽しみ!」
やってきたのはアーロンと漁師達で、たくさんのクーラーボックスを肩にかけ、食材を持ってきてくれたのだ。
「下処理はしてあるから、あとは焼くだけで十分だ。海の幸を味わってくれ」
「助かる。ありがとな」
俺が礼を言うと、アーロン達は手を振りながら港へ戻っていった。
「それでは各隊、予定通り焼き方を開始する!」
「了解!」
すでに石で組まれた竈があり、炭火の上に網が乗せられていた。
炊事班は訓練を早めに切り上げて、準備していたのである。飯ごうで米も炊かれていた。
今回は魚介類を焼くだけなので、調理は全員でする。小隊ごとにワイワイ騒いでいた。
「よーし、魚が焼けたぞ!」「おいしぃぃぃ!」
「あっ! 弥生。そのイカよこせー!」「……紅美にはあげない」
「タコも美味いであります」「焼いたハマグリ最高です! 静香様」
「うんうん、本当に美味しいわね」
女達の嬉しい悲鳴が止まらない。初めて食ったせいもあるだろう。
訓練の後で腹が空いており、フォークや箸が止まらず、焼き上がった物からどんどん消えていく。
どれを食べても美味いからな。
俺も適当につまみながら、あちこちを見て回る。
夏美達は自ら獲った魚も焼いて、一心不乱に食べていた。
素手での丸かじりで、まさに猫。エルフとノーム達が笑いながら面倒を見ていた。
志乃も見回りをしていたが、部下達が次々と料理を持ってくるので、食べるしかなかったようだ。
俺は一緒のテーブルに座って話しかける。
「ははは、やはり志乃には人望があるな」
「部下には厳しく接してるつもりですが、なぜか慕われてしまうんですよね」
「静香もそうだが、真剣に部下の事を思いやってるからだろう」
「はい、司令。それにしてもこんな日が来るとは、夢にも思いませんでした。泥と砂塵に塗れて戦い、餓えに苦しんでいたのが嘘のようです。全てアラシ司令のおかげです」
「気にするな。俺は少し手を貸しただけで、これはみんなの力だ」
「それでも感謝します。この恩に報いるためにも、この星の平和を守って、もっと発展させたいと思います。ここだけが私達の楽園ですから、ふふふ…………あと子供をたくさん生んで、人口を増やさないと」
「そ、そうだな。うんうん」
なぜか俺は背筋が凍ってしまう。一瞬、肉食獣に狙われたように感じたのだ。
確かに志乃の言うとおりで、多少男は増えたものの、女達が圧倒的に多い。
いずれはパートナーが必要になるが、今のとこは良い男を見つけてくるのが、難しいので保留だな。俺はガキだし。
生活基盤を安定させるのが先だ。
「食った、食った、美味かった」
大量にあった魚介類はすっかりなくなり、女達は満足そうに、腹をさすりながら寛いでいた。
あとは順番にシャワーを浴びに行く。
バーベキューの煙で体は汚れるし、食べこぼしが引っかかるから、水着のままでいたのだ。
夜になって寒くなってきたし、シャワーを浴びた後はスリーピングシャツに着替えた。
マイ・パジャマを持ってきた者もいる。
「おやすみなさーい」
やがて全員がテントに入り、消灯となる。訓練で疲れてるので、すぐに寝息が聞こえ始めた。
「いやあああ! タコの触手が体の中にー!」
「あーん、静香様。もっともっと♡」
……やばい寝言を言ってる奴もいた。
こうして一日が終わる。
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