表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未完の大魔導士――俺の近くでは何も完成しない――  作者: 勇者ヨシ君
第11章「大陸巡行――帰れない勇者」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
189/305

第182話「刃を付ければ剣ではない」

 機能を一つ足せば、できることは増えます。

 同じ場所へ重さと責任まで足した時、前より危険になることもあります。

 翌朝、レイルは武装査定炉の試験区画へ、刃の付いた七環導杖(セプテム・ロッド)を持ち込んだ。

 刃といっても、長剣のようなものではない。柄から一尺ほど上へ、片側だけ鋭くした薄い鋼板を固定し、反対側には杖骨を残している。刃元は三本の締結具で長軸へ留め、魔力経路を傷つけないよう絶縁布を挟んだ。

 見た目だけなら、短槍と杖の間にある武器に見える。

 ロッテは見た瞬間、両手で顔を覆った。


「仮固定だけ、と聞きました」

「あくまで仮固定だ」

「刃が付いていますよ?」

「刃を付ける試験だからな」

「なぜ、私が寝ている間に研いだのですか」

「研がなければ、接触した時の滑り方を確認できない」

「刃引きしたもので十分でしょう!」


 リィナは横から七環導杖・改を覗き込み、眉を寄せた。


「これ、剣として振るの?」

「振り回すつもりはない。敵剣へ刃側を当て、滑らせて外すだけだ。杖骨だけで受けるより接触位置を限定できるだろ」

「鍔は?」

「ないぞ」

「指を守るところは?」

「接触角度を外へ向ける」

「失敗したら?」

「刃が柄へ滑る前に離す」

「離したら杖が飛ぶよね、いや指が飛ばないこれ?」

「手首帯を付ける」

「それ、飛ばない代わりに手首を持っていかれるやつじゃない?」


 レイルは一度黙った。


「その可能性を確認する試験だ」

「確認する前に分かるってばあ!」


 リィナの声が試験区画へ響く。

 老査定師は石台へ腰を下ろし、止めもしなかった。


「やらせろ。分かっていても、身体で失敗しないと捨てん案もあるじゃろ」

「捨てる前提ですか......」


 レイルが問う。


「残るなら、残る理由が見えてくるはずじゃ」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 最初のテスト相手は木剣を持ったリィナだった。

 彼女は試作の軽量剣ではなく、使い慣れた愛剣と同じ重さの訓練剣を選んでいる。赤栗色の髪を高く結び、袖を肘まで折った。右肩には昨日の査定で付けられた細い印があり、切り返しの際にどれだけ下がるかを観測する。


「最初はゆっくり、ゆっくりだぞ、リィナ」


 レイルが言う。


「どのくらい?」

「朝練の三割くらいだ。刃元へ当て、手前へ滑らせる動きを見る」

「三割でも指へ入ったら痛いよ?」

「分かっている。危険なら止める」

「止めるの、私だからね?わかってる?」


 リィナは中段から斜めに木剣を振った。

 レイルは七環導杖を短く持ち、鋼刃の中央へ木剣を当てる。接触は狙いどおりだった。木剣が刃に沿って柄側へ滑る。

 次の瞬間、刃元の締結具がわずかに浮き、鋼板全体が長軸を捻った。

 杖頭が外へ振られ、レイルの右手首まで回る。


「離して!」


 リィナが剣を引く。

 レイルは左手を添え、回転を止めた。痛みは浅いが、掌で形成していた微風は消えている。


「接触力が刃面へ乗り、締結部を軸に杖全体を回した」

「見れば分かる。手、見せて」

「まだ一回だ」

「一回で赤くなってる」

「許容範囲――」

「その言葉、今は聞かない」


 リィナは七環導杖をロッテへ渡し、レイルの手首を取った。親指で骨の周囲を押し、痛む場所を探る。

 朝の光が試験区画の高窓から差し、彼女の睫毛へ細い影を落としている。真剣な顔が近い。

(診断だ。昨日の橋と同じ。余計なことを考える場面ではない)


「痛い?」

「押した場所は少し」

「少しって、どのくらい」

「剣を三十回振った後の疲労より軽い」

「比較が分かりにくい」

「リィナなら分かると思った」

「分かるけど、私の基準で誤魔化さないで」


 彼女はミレアを呼び、手首を渡した。

 ミレアが指を添え、眠そうな紫の瞳を細める。


「腱の(ねじ)れはありません。軽い炎症です。続けるなら固定角度を変えて、あと二回までですね」

「続けていいの?」


 リィナが不満そうに聞く。


「痛みが増えたら終わりですけどね。失敗箇所を確認せず、宿で別の刃を付けられる方が危険です」

「ミレアまで分かってきたね」

「だいぶ診てきましたから」


 二回目は、刃の角度を長軸へ近づけ、接触点を柄から遠ざけた。

 回転は減ったが、木剣が刃を滑った先に鍔がない。リィナは寸前で止めたものの、切っ先はレイルの人差し指から指一本分の位置まで入った。


「敵は止めない」


 老査定師が言う。


「はい」

「止めてもらわなければ指が落ちとるところじゃ」

「はい」

「次!」


 三回目、レイルは手首帯を付け、木剣を外側へ流そうとした。

 リィナの攻撃は二割まで落としている。それでも接触した力は帯を通じて前腕へ入り、杖を離した瞬間、手首だけが外へ引かれた。身体が半歩崩れ、右肩が開く。

 リィナの木剣が胸元で止まる。


「終わりじゃな」


 彼女は即座に言った。


「まだ発射姿勢を確認していない」

「今の姿勢で撃ったら、自分の肩を撃つぞ」

「切っ先は敵へ向いていた!」

「レイルの身体は横を向いてた。反動が腕から背中へ抜けない」


 老査定師が石台から降りる。


「刃を付ければ剣になると思ったか」

「思っていない。接触面を作るために――」

「言葉を長くしても、指を守らない刃は剣にならん。力を流す先がない棒は盾にもならん。掌を塞ぐ柄は杖の導出端を殺す。今のお前が作ったのは、三つの欠点を一本へ留めた道具だ」


 レイルは反論の言葉を探し、七環導杖を見た。

 刃の締結具はわずかに歪み、絶縁布へ鋼板の角が食い込んでいる。魔力経路まで届いてはいないが、あと数回受ければ表層導線を傷つける。


「刃の位置を下げる。柄に近づけ、接触した剣を外側へ逃がす環を置く。鍔を広げれば指を守れる」

「環を盾にするのか」

「完全な盾ではない。三日月状にして、剣を止めずに滑らせる。掌中央は開ける必要があるから、柄は指と手首で保持する」


 老査定師は床へ炭筆で線を引いた。

 短い刃。その根元へ半円形の護拳。杖骨は刃の反対側を厚くし、接触力を環へ逃がす。柄の中央には空洞を作り、掌の【生体導出端(マナ・ポート)】を塞がない。


「刃は切るためより、相手の刃を環へ導く案内だ。環は受け止めるな。滑らせる。杖の長軸は縮めるが、七環導杖との接続は切るな」

「追加武装として柄部へ固定する」

「そうだ。別の短剣に持ち替えれば、オムニアと杖の経路が一度切れる。お前が欲しいのは新しい武器じゃない。今の杖が近づかれた時だけ別の形で働く部品だ」


 ロッテが図へしゃがみ込み、炭筆を受け取った。


「通常時は刃と環を長軸へ折り畳むわ。近接時、柄側の伸縮部を短縮し、追加武装を固定。杖頭と内部導線は接続したままでね。発射反動は長軸へ戻し、腰か足裏へ逃がす」

「安全性はどうだ?」


 レイルが尋ねる。


「先に腕を守る話をしてくれないかなあ」

「腕を守るために必要だ」


 ロッテは少しだけ表情を緩めた。


「三日月環の根元へ交換式の破断ピンを入れるよ。正面から受けすぎた場合、環が外へ開いて刃を逃がす。武器は壊れるけど、手首へ全荷重を残さない設計だ」

「発射中に壊れたら?」

「排圧を杖頭側へ戻す副回路が必要かな。今の七環導杖には、ないねえ」

「作れそうか?」

「ああ、作れるとも。ただし、試作一号は四層までだね。六層の構想を理由に、最初から六層の負荷を掛けないでよね」

「だとすると、四件保持を安定させる方が先になりそうだな、俺の目標としてもそっちが先だ」

「同時に進めようか。武器が待っているからと、能力の完成を急がなくてもいいし、能力が伸びたからと試作段階を飛ばさず、両方段階的にやっていかないと」


 ロッテは炭筆をレイルへ突きつけた。


「じゃ、これに署名(サイン)して」

「何にだ?」

「試作条件だよ。【四層上限】【正面受け禁止】【手首痛で中止】【独断改造禁止】」

「最後の範囲が広くないか?」

「広くしてあるんだよ、あんた専用に!」

「調整まで禁止されるのか......」

「私か炉人族(ドワーフ)技師の前で調整」

「旅先ではどうすりゃいいんだよ」

「旅先で刃を勝手に足す人へ、今から無制限なものを渡せないだろ?」


 リィナが横から炭筆を取った。


「私も署名する」

「なぜリィナが――!?」

「朝練の相手だから。レイルが条件を破ったら、私が止めるし」

「止める方法は」

「剣を取り上げる」

「七環導杖だ」

「杖も取り上げる」

「魔法が使えなくなる」

「条件を守ればいいだけでしょ!」


 レイルは紙を見た。

 独断改造禁止の文字だけ、ロッテが二重線で囲んでいる。

(武器を作る前から、使い方を他人へ預ける条件が増えている。以前なら、自由に調整できないことを不便だと思った。今は、止める者が先に決まっている、か)


「分かった。署名する」

「今の返事、少し成長を感じますね」


 セレネが後ろから言った。


「監視者が増えた結果だ、仕方ない」

「それを受け入れた結果です」

「褒められているのか、これ」

「炉都では褒め言葉は命を延ばさないそうです」

「便利な言葉を覚えたもんだ」


 ニアが図面の三日月環へ指で猫耳を描き足した。


「ここ、ニアちゃんマーク入れたら可愛くない?」

「すぐに消せ」

「即否定、げろげろじゃん」

「戦闘装備だぞこれは」

「士気向上も性能のウチっていいますですけど?」

「猫耳の突起が剣を引っかけるだろうが」

「実用的反論された。じゃあ内側に刻印でおなしゃーっす!」


 ロッテは少し考え、炭筆で小さな環状猫印を排圧副路の横へ残した。


「故障診断用の方向印なら使えるね」

「わーい!採用きた!」

「飾りではないよ」

「意味があれば勝ちだもーん!」


 試験区画へ、久しぶりに笑い声が広がった。

 床には失敗した刃の傷と、新しい三日月の図が残っている。レイルは仮刃を外した七環導杖を持ち直し、軽くなった柄へ手を添えた。

 刃は付けただけでは剣にならなかった。

 それでも、失敗した三回分の角度が、次に必要な形をはっきりさせていた。


【今回の登場人物】


・レイル・アルヴァート

 七環導杖へ仮刃を取り付けて手首、指、掌の三つの欠点を実演し、独断改造禁止を含む試作条件へ自分で署名した魔導士。


・リィナ・アルセイル

 三度の試験攻撃を寸前で止め、赤くなった手首を最初に確認し、条件違反時には杖ごと取り上げる監督役へ署名した剣豪。


・ロッテ・ベルクマン

 刃、盾、杖、砲を別々に足さず、七環導杖との接続を残した追加武装として三日月環、安全破断、副排圧路を設計し始めた魔導技師。


・炉人族の老査定師

 仮刃を三つの欠点を一本へ留めた道具と切り捨て、失敗角度から受け流す環と開掌把持の基本形を描いた職人。


・ミレア・ノクス

 試験を無条件で止めず、手首の炎症と残り回数を明示し、隠れて別案を試すより監督下で失敗箇所を確かめさせた治療担当。


・セレネ・グランツ/ニア

 他者の監督を受け入れた点を成長として拾い、故障診断用の小さな猫印まで次の設計へ残した二人の補助者。


【今回の能力・設定メモ】


・【生体導出端(マナ・ポート)

 掌や足裏から術式を外へ導く器官。通常の柄で掌を塞ぐと、武器を握ったまま魔法形成する際の経路が狭くなる。


・七環導杖の追加武装案

 独立した短剣ではなく、杖の柄部へ接続し、通常時は折り畳む。近接時も杖頭と内部導線の接続を保ち、防御から発射へ移る。


【次回】


 今度はリィナの愛剣が炉へ入り、使えるから隠していた遅れと、手放したくない理由が言葉になります。


 三回の失敗で赤くなった手首と床の傷が、次の三日月形を描きました。レビュー、ブックマーク、フォローで、次に愛剣へ残される遅れと持ち主の本音を見届けていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ