第167話「石板一枚分の間合い」
声のない相手は、何も伝えていないように見えます。
剣を置く位置、足を向ける先、書いて消した一文字にも、その人が選んだ答えは残ります。
翌日の演習場に、歓声はほとんどなかった。
招待選抜演武の第二試合は、観客を学院関係者、各校の剣術教官、冒険者組合の査定官へ限定している。毒殺未遂の警戒もあったが、カイン自身が大勢の見物を望まなかった。
石床の中央へ、直径十歩ほどの円が描かれている。
一撃制。
有効部位へ先に刃を止めた者が勝つ。円外へ出ても敗北となる。試合時間は三分。魔法と固有律の使用は禁止され、身体強化も基礎戦技の範囲に限られた。
リィナは円の外で長剣を振り、左脚の感触を確かめた。昨日の張りは残っているが、ミレアの診断では試合可能。噴歩は使えない。勇者候補の光もない。剣と身体だけの勝負になる。
対面するカインは、旅装の上へ簡素な軽鎧を着ていた。暗褐色から黒に近い短髪。喉の古傷。腰の長剣と、胸元へ下げた携帯石板。
開始前、彼は石板を外して白墨を走らせた。
【一撃/三分】
「どっちを選ぶの?」
カインは石板を向けたまま待つ。
「一撃で終わらなかったら三分、って意味?」
首を横へ振る。
「一撃勝負か、三分間の判定勝負か。私が選ぶ?」
頷いた。
「一撃」
リィナが答えると、カインは【三分】の文字だけを消した。
【了解】
石板をユノへ預ける。
「はいはい。石板も外套も剣以外の荷物も、全部私。カインの同行者っていうより、もう歩く荷物置きなんだけど。まじうざ」
文句を言いながらも、ユノは石板を両手で受け取り、白墨が落ちないよう胸元へ固定した。
「落としたら怒る?」
カインが頷く。
「即答すんな。ちょっとは『ユノなら落とさない』とか信頼を見せて。朝から地味に病む」
カインが石板へ手を伸ばしかけた。
「今さら何か書こうとしないで。取ったら始められないでしょ」
両手が空いた瞬間、カインの立ち方が変わった。
肩は落ち、剣の柄へ触れていない。どちらの足からでも動ける。試合前の礼を待つ姿に見えるのに、踏み込めばいつでも抜ける。
ユノが審判役として中央へ立つ。
「両者、致命部位には必ず止める。カイン、試合中に石板を書こうとしない。リィナ、カインが無言だからって勝手に意味を足さない。こいつ、無言のくせに相手が勝手に深読みするの待ってる時あるから」
「分かった」
カインはユノを見た。
「何、その顔。前に戦闘中に書こうとして剣を落としたでしょ」
カインは視線を逸らした。
「本当にあったんだ」
「一回だけね。石板に【右】って書いてる間に、右から殴られた」
カインがユノの持つ石板を取り返そうと手を伸ばす。
「駄目。黒歴史を消そうとしない。もう始めるよ」
カインは手を戻した。
「その顔やめて。私が悪いみたいになるじゃん。あとでちょっとだけ謝るから」
開始鐘が鳴る。カインが消えたように見えた。
脚部噴射の音はせず、魔力の膨らみも見えない。最初の一歩が小さすぎて、動き出した瞬間だけを目が拾えなかった。
長剣が鞘から抜ける。リィナは反射で受けた。
金属音が一つ。
重くない。押し返そうとした時には、カインの剣が離れている。
次の位置が読めない。
声がない。息を吐く音も小さい。視線すら、狙う部位へ先に向かない。
カインはリィナの右側へ回り、剣先を肩へ置く軌道を作る。リィナが刃を合わせると、今度も触れる寸前で軌道を変えた。
空振りさせるための攻撃。
リィナの剣が外へ流れる。カインはその隙へ入らない。入ると思わせ、左へ出る。
(分からない)
リィナの背中へ冷たい汗が流れた。
ユノの光は眩しかった。見えすぎるほど見えた。
カインの剣には余計なものがない。どこが始まりで、どこが囮なのか、剣だけを追うほど遅れる。
カインが踏み込む。リィナは【無終剣・返環】で受け、返す。
相手は受けない。半歩だけ下がり、返された剣の外側へ立つ。リィナの次の攻撃が届かない位置。
終わった斬撃の向こうで、カインはもう次を始めている。
「リィナ、残り二分」
ユノの声が飛ぶ。先ほどまでの気だるさは消えていた。剣先の位置、二人の足、円の境界を同時に追う瞳には、審判としての鋭さだけが残っている。
「焦って雑に入ったら、カインの思うつぼ。こいつ、人が自分から失敗するの待つの、まじで性格悪いから」
カインの視線が一瞬だけユノへ向く。
「こっち見ない。否定したいなら試合後に石板でどうぞ」
リィナは舌打ちしたくなった。
一撃を選んだのに、二分も決まらない。焦れば、カインが待つ場所へ入る。
昨日はユノの光を足場にできた。今日は借りられる流れがどこにもない。
なら、相手が空けた場所を探すしかない。
カインの肩を見る。剣先を追うのをやめる。腰、膝、足先へ視線を落とす。
どれも狙いを教えない。
それでも、必ず守っている場所が一つある。
リィナが円の中央へ近づくたび、カインは左足を置き直す。
中央へ入らせたくない。
理由は分からない。円の外へ追い出すためか、抜刀角度を保つためか。
意味を考える前に、そこへ行く。
リィナは長剣を下げた。構えを崩したように見せ、円の中央へ歩く。
カインの右肩が僅かに下がった。
初めて見えた予備動作。
剣が来る。
リィナは止まらない。抜刀線へ自分から入る。
「リィナ!」
レイルの声が観客席から落ちた。
「うわ、そこ入るの!? やばっ……!」
ユノの声も重なった。
カインの刃が首へ向かう。
リィナは一歩目を完成させる前に、二歩目へ重心を移した。
【無終剣・継歩】。
抜刀線の内側へ潜る。
カインが柄を引き、剣先を戻す。反撃が速い。
リィナは最初の斬撃を出さないまま、柄頭でカインの手首を押した。相手の剣が外へ一寸ずれる。
その空白へ踏み込む。
【無終剣・零間】。
カインの次撃を待てば遅れる。まだ抜かれていない軌道の先へ、自分の足を置く。
カインは左肩を引いた。リィナの剣先が追う。
同時に、カインの長剣が下から返ってきた。
冷たい刃がリィナの喉元へ止まる。
リィナの刃も、カインの右肩へ触れていた。
鐘が鳴る。
ユノは二人の剣を見比べ、眉を寄せた。
「動かないで。今、どっちか少しでも剣引いたら分かんなくなるから」
リィナもカインも止まったまま、ユノの判定を待つ。
ユノは横から剣先の位置を確認し、次に石床へ残った二人の足跡を見る。先ほどまでの軽口は消え、到達経路だけを頭の中でなぞっていた。
「同時……じゃない」
一度言葉を切る。
「リィナが先。ほんの少しだけ。たぶんどころか、指一本分もない。でも先は先」
静かな観客席から、遅れて拍手が起こった。
ユノは緊張を吐き出すように肩を落とす。
「はぁ……見てるだけで胃が死ぬ。二人とも喉とか肩とか狙うのやめない? 審判の精神への配慮ゼロなんだけど」
リィナは息を吐く。脚が震えていた。
カインの剣があと少し速ければ、喉元へ先に届いていた。実戦なら、止める約束がなければ、どちらも無傷では済まない。
カインは剣を収め、ユノから石板を受け取る。
「はい。落としてません。もっと褒めてもいいよ」
カインは石板を受け取ると、最初に傷がないかを確認した。
「確認から入るの、まじうざ。私への信頼より石板の状態が先なんだ」
カインは白墨を走らせた。
【無傷】
「石板が? 私の心は?」
カインはその下へ書き足す。
【不明】
「げろげろ。最悪」
口ではそう言いながら、ユノは少しだけ笑った。
カインは石板を消し、改めて書く。
【勝ち】
「どっちが?」
カインは石板の端でリィナを指した。
「……ありがとう」
一度消す。
【次は違う】
「次は勝つってこと?」
頷く。
「私も次はもっと速くなってる!」
カインの口元が僅かに動いた。笑ったのかもしれない。
ユノが石板を横から読む。
「カインが自分から負けって書くの、珍しいよ。普段は『目的達成』とか『生存』とか書いて、勝敗から逃げるのに」
カインは大きな字で書いた。
【うるさい】
「ほら、怒った。分かりやす。普段からそのくらい感情出せばいいのに」
カインがさらに書き足す。
【返せ】
「もう返したでしょ」
【白墨】
ユノは自分が白墨を握ったままだと気づいた。
「……これくらい持っててもよくない?」
カインは手を差し出す。
「何。その無言の圧。別に盗らないし。カインの物なんか、私が持ってても仕方ないし」
そう言いながら返した後、ユノは小さく付け加えた。
「……でも預けられるのは嫌いじゃないから、次も持つ」
カインが石板へ書こうとする。
「反応しないで。今のは気分で言っただけ。明日には撤回してるかもしれないから」
観客席の空気が少し緩む。
リィナは円の外へ戻った。レイルとセレネが並んで待っている。
セレネは肩甲骨までの淡金髪を片側へ寄せ、青紫色の瞳でリィナの歩幅を確かめた。
「左脚は?」
「大丈夫。最後に少し使った」
「大丈夫で終わらせないでください。ミレアに見せます」
「レイルと同じこと言うようになったね」
「必要だから言っています」
レイルはリィナの剣を受け取った。
「最後、カインが守っていた中央へ入った理由は?」
「入ってほしくなさそうだったから」
「罠だとは思わなかったのか」
「思った。でも、罠でも、そこへ入らないと何も変わらなかった」
「首へ剣が来ていた」
「届く前に止めた」
「止める約束があったからだ」
「うん」
リィナは逃げずに頷いた。
「実戦なら同じ入り方はしない。今日の勝ちは、止める試合だったから取れた。分かってる」
レイルの眉間から少し力が抜けた。
「ならいい。……いや、よくはない。怖かった」
「昨日も言ったね」
「今日は昨日より近かった」
「見ていてくれた?」
「全部」
リィナは小さく笑った。
セレネが二人の間へ診察札を差し込む。
「感想の続きは治療席でお願いします。リィナ、歩幅が右へ寄っています」
「分かった。セレネも見てた?」
「ええ。中央へ入る直前、カインの左足だけが二度動きました。私なら罠を疑って止めていたと思います」
「止まったら負けてた」
「だから、私にはできない勝ち方です」
セレネの言葉には、悔しさも軽視もなかった。自分にはできないからこそ、リィナが選んだ一歩を正面から認めている。
「昨日、私の設計をレイルが褒めた時、リィナは自分の優勝祝いだと言いました」
「言った」
「今日は私から言います。今の一歩は、とてもきれいでした」
リィナは一瞬、言葉を失った。
「……急に言わないで」
「レイルへは普通に言うよう求めたでしょう」
「セレネから言われる準備はしてない」
「次から予告しますか?」
「それも変」
レイルは二人を見て、少し遅れて口を挟む。
「俺もきれいだと思った」
「レイルはあとで」
「なぜだ」
「今はセレネに言われた方を処理してる」
遠くから見ていたユノが吹き出した。
「何それ。褒め言葉の処理待ちとかあるんだ。リィナ、昨日は私に『面倒』って言ったくせに、自分もだいぶ面倒じゃん」
「ユノに言われたくない」
「それな。私も今、自分で言ってて思った」
ユノは笑った直後、レイルとセレネの距離を見て、急に真顔になる。
「でも三人でそういう空気出すの、ちょっとまじうざ。こっちはカインと石板しかないんだけど」
カインが石板へ書く。
【いる】
「石板じゃなくて、カインが?」
【両方】
ユノは一度黙り、顔をそらした。
「……そういうの、急に書くのやめて。感情の準備してないから」
カインは石板へ何かを書きかけ、リィナたちを見た後で消した。
空白の石板を胸元へ戻す。言葉を足さなくてもいい場面だと判断したらしい。
「何を書こうとしたの?」
ユノが尋ねる。
カインは首を横へ振る。
「言わないんだ。まじうざ。気になる。今夜ずっと考えることになるじゃん」
カインは歩き出す。
「待って。置いてかないで。今ちょっと情緒がそっちに引っ張られてるから」
ユノは石板を覗こうとしながら、その後を追った。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
その日の夕方、大会運営本部は剣術査定を更新した。
リィナ・アルセイル。
【剣豪】仮認定を維持。
【無終剣・零間】再現一回。
【無終剣・道開き】は未成立。勇者光の中へ作った横の一歩を、基礎原理として記録。
対勇者候補戦では敗北。対外部剣士一撃制では勝利。
評価書の最後には、剣術教官の手で次の一文が加えられた。
【相手の力と合図を待たず、自分で踏み込む場所を選び始めた】
リィナはその文を読み、金章の裏へ小さく写した。
勝ったことより、次にどこへ踏むかを忘れないために。
同じころ、治療棟の準備室では、明日の救助競技に使う採血器と治療瓶の点検が行われていた。
ノアは毒入りインクの分析結果を三枚の術式板へ写し終えたところで、机へ片手をついた。肩甲骨までの淡い金髪が頬へ落ち、細い赤縁眼鏡の奥では深紅の瞳が普段より濃い。
「ノア先生、血素値が基準を下回っています」
フィアが測定札を見た。
ノアは札を奪おうとしたが、指先が僅かに遅れる。
「分析を一つ終えただけです」
「毒の分解、治療媒体の試験、明日の治療格子の再計算も行っています。三件です」
「件数を増やして聞こえを悪くしないでください」
「分けて記録しただけです」
準備室の扉が開き、アルドが滅菌済みの採血器具箱を運び込んだ。
「頼まれた物だ。次はどこへ置く」
「そこです。アルド――」
ノアの声が一段低くなった。赤い瞳が、器具箱ではなくアルドの右腕へ止まる。
「アルド。腕を出しなさい」
アルドは何も聞かず、すぐに右袖をまくった。
フィアが目録帳を閉じる。
「提供意思の確認が先です」
「分かっています」
「今は命令でした」
「……分かっています」
ノアは一度目を閉じた。開いた時も瞳の赤は薄くならない。
「血液提供を申請します。本日の必要量は八十ミリリットル。滅菌採血器を使い、ミレアが提供者の状態を監督します。拒否できます」
「提供する」
「説明が短すぎたでしょう」
「必要量と方法と監督者は聞いた」
「危険性が残っています。めまい、倦怠感、採血部の疼痛。明日の競技前検査で異常が出れば出場を止めます」
「それでも提供する」
「……同意を確認しました」
銀灰色の長髪を揺らし、ミレアが隣の診察室から欠伸をしながら入ってくる。
「ふわぁぁ……アルドは椅子へ。ノアは採血瓶だけを見てください。提供者の脈と顔色は私が見ます」
「私も確認できます」
「今のノアは、腕ばかり見ています」
「血管を見ているのです」
フィアがアルドの反対側へ椅子を置いた。
「私は同意時刻、採血量、脈拍を記録します」
「なぜ両側へ座るのですか」
「片側は治療、片側は記録です」
「二人が見ているなら安心だ」
アルドが真面目に言った。
ノアとフィアは同時に黙った。
「今の発言は、どちらへ向けたものですか」
フィアが尋ねる。
「二人へだ」
「そうですか」
「そうですか」
返事まで重なった。
ノアは眼鏡を外し、採血器を手に取る。軽い飢餓の時だけ現れる鋭さが、目元と声へ集まった。
「座って。右袖を肩まで上げて。掌を上へ。呼吸を乱さないでください」
「分かった」
「返事は一度で十分です。動かない」
「命令形、五件」
フィアが数えた。
「採血中の管理権は私にあります」
「身体状態の中止判断はミレアです。提供意思の撤回はアルド本人です」
「分かっています。査読は採血後にしてください」
「採血後も行います」
針が入る。
ミレアはアルドの脈を取り、フィアは瓶の目盛りを追う。ノアは余計な魔力を一切流さず、八十ミリリットルで止めた。
針を抜き、圧迫布を当てる。
「五分押さえてください。立つのはその後です」
「競技用の担架を運ぶ予定がある」
「五分で逃げません。担架も貴方を待たせなさい」
ノアは採血瓶の封を確認し、目盛りをもう一度見た。それから決められた量だけを摂取する。
喉が動く。
髪の内側へ薄い夜紫色が混じり、首筋へ赤黒い血紋が一瞬だけ浮いた。震えていた指が止まり、背筋が伸びる。
「良い血です。褒めています。勝手に嬉しそうにしないでください」
「嬉しそうに見えるか」
「口元が上がっています」
「ノア先生の方も、少し上がっています」
フィアが記録した。
ノアは器具箱を片手で持ち上げ、棚の上段へ置く。先ほどまでアルドが両手で運んでいた重さだった。
「次に集合場所を間違えたら、採血前の問診を十項目増やします」
「採血量を増やすのではないのか」
「血液量を罰へ使いません。問診なら安全です」
「安全な罰という言葉は、少し変です」
「フィア。今は反論を求めていません」
「求めていなくても記録します」
数分後、血紋が消え、ノアの声へいつもの速さが戻った。自分が何を言ったかも、全て覚えている。
赤縁眼鏡を掛け直し、耳まで赤くした。
「先ほどの命令口調は、血素不足による一時的な人格偏位です。記録を削除してください」
「削除しません」
「では、読み上げないでください」
「命令形八件。視線固定一件。提供者への評価一件。問診追加による威嚇一件」
「問診を増やすと先に教えただけです」
「訂正理由を記録します」
「……もっと厳密に否定してください。その程度では修正箇所が曖昧です」
フィアがノアを見る。
ノアの口元は、先ほどより僅かに緩んでいた。
「続けますか」
「続けてください」
「ノアは叱られると元気になるのか」
アルドが尋ねた。
「研究上の欠陥が明確になると集中力が上がるだけです」
「表情と説明が一致していません」
フィアが即座に書く。
ノアは嬉しそうになりかけた顔を引き締め、器具箱をもう一度持ち上げた。
「明日の競技準備を続けます。アルドは五分間、座ったまま。フィアは記録を継続。異論は――採血後なので受理します」
「結局、指示は続くのだな」
「通常運転へ戻っただけです」
【今回の登場人物】
・リィナ・アルセイル
声も光も少ないカインの剣から、守られていた円の中央を見つけ、【零間】を再現して一撃制の勝利を得た剣士。
・カイン・ヴェルド
石板で試合条件をリィナへ選ばせ、刃を喉元へ止めながら僅差の敗北を【勝ち】と認めた無言の青年。
・ユノ・アステル
悪態をつきながらカインの石板を大切に預かり、二人の刃の僅かな到達差を見抜いた後は、預けられることへの執着まで口走った勇者候補。
・レイル・アルヴァート
首へ迫る剣に声を上げ、試合後は理屈より先に「怖かった」と認めてからリィナの判断を確かめた学院生。
・セレネ・グランツ
自分なら止まった場面だと認めたうえで、リィナにしか選べない一歩を「きれい」と正面から伝えた設計術師。
・ミレア・ノクス
試合前後の左脚を診た後、ノアの採血ではアルドの脈と顔色を監督し、八十ミリリットルで安全に止めた治療師。
・アルド・クロイツ
ノアの血液提供申請へ説明を聞いたうえで同意し、両側からノアとフィアに見守られる状況を素直に安心だと答えた護衛科生。
・フィア
血液提供の同意、採血量、命令口調まで記録し、採血後に厳密な査読を求めるノアの表情まで見逃さなかった記録担当。
・ノア・エルグラム
血素不足で管理口調へ反転しながら同意と八十ミリリットルの上限を守り、通常へ戻ると自分への叱責を項目別に要求した研究者。
【今回の能力・設定メモ】
・【無終剣・零間】再現
相手の攻撃終了を待たず、まだ出していない自分の攻撃へ次の一歩を接続する。今回は試合停止規則を前提に成立しており、実戦で同じ侵入を行うのは危険となる。
・カインの石板会話
石板本文は【】で示し、主語と長い説明を省く。戦闘中は石板を預け、視線、剣、身体の位置だけで意思を伝える。
・ユノの感情変化
普段は倦怠感と悪態で感情を隠すが、カインから物を預けられることや、言葉にされない意図へ強く執着する。審判や戦闘では気分の揺れを一時的に切り離し、剣路と到達差を正確に判定できる。
・ノアの通常血補給
学院期の通常補給量は八十ミリリットル。未成年者から受ける場合は事前説明、本人同意、滅菌採血器、ミレアまたはニアの監督を必須とし、直接吸血は行わない。
【次回】
剣術演武を終えた学院勢は、勝敗よりも全員帰還を問われる救助競技へ入ります。
空白の石板から半拍先の一歩を見つけ、八十ミリリットルの採血瓶では同意と上限を守りました。レビュー、ブックマーク、フォローで、剣路と治療記録を次の救助競技へ渡す仲間たちを応援していただければ幸いです。




