第138話「ただいまは一人分じゃない」
一年前は、行き先を選べないまま転移へ呑まれました。
今度は、海の両側から、帰る場所と帰る人を選び直します。
王核大陸へ転移して、三百六十五日目。
一年前、六人と一つの疑似人格は、行き先を選べないまま白環の転移へ呑まれた。
今度は、自分たちで帰る場所を選んだ。
夜明け前。
白環中枢跡の上空へ、灰色の開いた環が七重に浮かぶ。
その向こうでは、断航海域の魔力嵐が黒い雲のように渦巻いている。
王核大陸側の開環帰還契約。
人間圏側の多点帰着式。
二つが同じ時刻へ近づく。
「王核側出発座標、安定率六十一%」
フィアが記録札を読み上げる。
「人間圏側受信周期まで、三分十二秒。訂正。魔力嵐の加速により、三分四秒です」
数字を一度間違えた。重大な動揺がある証拠だった。
それでも、声は崩さない。
セレネの周囲へ、三つの人間圏座標が形成されている。
第一候補、学院中央演習場。
第二候補、地下実験室。
第三候補、学院外の緊急着地点。
「受信波の強度に応じて終点を切り替えます。レイル、三案を同時に持たないでください。完成時刻だけを一件ずつ渡します」
「分かってる」
「返事が短いですね」
「緊張しているんだ」
「私もです」
セレネは眼鏡を押し上げた。
「だからこそ、条件を守りましょう」
ノアは帰還ゲートの支柱へ、九十九%まで形成した固定術式を接続している。
淡い金髪の内側には、まだ夜紫色はない。
ノエラから受け取った小瓶は、胸元の術式筒に収められている。
「九十九式固定、六本完了。七本目は白環中枢の抵抗が強い」
「母の血を使うか」
ノエラが尋ねる。
「まだです。使う時は私が決めます」
「うむ」
ノエラはそれ以上言わない。
ガズルは巨大な大鍋炉へ魔力を注ぐ。
環越祭の夜、飢えた者へ一椀を届けるため空へ上げた火が、今度は帰還ゲートを支える燃料になる。
「火力が落ちたら言え」
「鍋の火力で大陸間転移するとは、学院へ報告しづらい」
レイルが言う。
「鍋ではない。炉だブヒ」
「形が鍋ですけど」
「飯も作れる炉だ!」
『帰還直前の非常食も同時調理。効率は最強かも』
「ニア、今は媒体を見てろ」
『見てます。緊張ほぐすために喋ってるだけでーす』
少女型ニアは半実体の両手で三枚の媒体札を押さえている。
猫耳が魔力嵐の音へ震え、環状の尾が術式周期を刻む。
ミュラは地面へ耳を当て、地脈の音を読む。
「東、細い。下、荒い。人の側、まだ遠い」
ラガンは中枢跡からゲートまでの退路へ立つ。
リィナは剣を抜き、レイルの前へ立った。
「道は私が開く。あんたは、何を終わらせるかだけ決めて」
「勝手に前へ行きすぎるな」
「今度は戻る」
「信じてる」
リィナの目が少しだけ丸くなる。
「……それ、今言うんだ」
「遅かったか」
「四か月くらい」
「謝る」
「帰ってからの朝練、二周追加で許す」
「俺は心停止後の訓練制限が――」
「帰還後の話。もう逃げられないよ」
「二周でお願いします」
リィナが笑う。
白環中枢が起動した。
地面から、幾千本もの白い文字が立ち上がる。
【剣士個体:中心対象から分離】
【設計個体:標準術式へ固定】
【記録個体:命令待機】
【完遂個体:単独遂行】
【九十九個体:血統側へ回収】
【疑似人格:初期化】
【中心対象:孤立】
同時に、白い回収兵が中枢跡から現れる。
人型、獣型、飛行型。
帰還契約を役割ごとに切り分けるための群れ。
「開始します!」
フィアが叫んだ。
戦闘と帰還構築が同時に始まる。
リィナへ白い槍が降る。
剣で斬れば魔力が散り、帰還ゲートの外周を乱す。
リィナは受ける。
剣圧を腰へ。足裏へ。
【無終剣・返環】。
攻撃の方向を、セレネが作った帰還経路へ返す。
「敵の攻撃、一件を外周魔力へ転用!」
フィアが記録する。
「リィナ、次は右上!」
「見えてる!」
第二撃。第三撃。
リィナは斬って終わらせず、全てを帰還ゲートの進路へ流す。
「レイル、道は開ける。今度は私が戻ってくるから、勝手に迎えに来ないで」
「ゲートの中で待つ」
「それならいい!」
アルドは避難民と部品を運ぶ。
フィアの番号札だけを追い、白環回収兵の間を走る。
「第一倉庫、完了。次は?」
「第二支柱へ固定具。右の道です」
「右へ行っている」
「それは左です」
「……訂正する」
「私の台詞です」
アルドは方向を変え、固定具を運ぶ。
途中、白環兵がミュラへ向かう。
「第三経路を中断。ミュラを回収する」
「運搬が遅れます」
「始めた帰還には、残る側の安全も入っている」
「受理します。二十秒以内に戻ってください」
「十五秒で戻る」
アルドは【白銀直路】で一直線に敵を押し退け、ミュラを安全区画へ運ぶ。
十二秒で戻った。
「十五秒より早い」
「フィアの道が正しかった」
「……記録します」
ノアの支柱へ、白環の血統鎖が絡みつく。
【九十九個体:母系へ回収】
【未完成術式:破棄】
「私の魔法を、勝手に失敗へ分類しないでください」
ノアは術式を維持するが、魔力を使いすぎたことで、ノアの血中血素が急激に下がる。
赤紫色の瞳が深紅へ変わり、犬歯が伸びていった。
アルドが戻り、腕をノアに差し出した。
「使え!」
「今は取りません」
「必要ではないのか」
「必要です......」
ノアは胸元の小瓶を取り出す。
「ですが、貴方が倒れる方が困ります」
ノエラを見る。
「ノエラ。血を借りますよ」
「ここにおる」
「私が飲み終わった後も」
「お前が帰るまで、ここにおる」
ノアは母の血を飲む。
髪の内側が夜紫色に変わり、腕と首筋へ赤黒い血紋が現れる。
【原血励起】。
ノアが、白環の鎖を両手でつかみ、力任せに引きちぎった。
「これは私の帰還式です!」
崩れかけた支柱を肩で支える。
「母の血を使っていても、これは私が設計したものです。借りた力を、勝手に母親の所有物へ戻さないでください!」
ノエラの瞳が揺れる。
「よう言うたぞ、わが娘よ」
「褒めるなら、私が帰った後にレポート形式でお願いします!」
ノアの足元が沈む。
アルドがその背中を支えようとする。
「触らないで。今は支柱がずれます」
「倒れたら支える」
「その時は命じます」
「了解した」
フィアは二人のやり取りを記録しながら、自分の胸に生まれた感情も否定しなかった。
今は戦場。後で話すと決めた。
だから、今は条件へ変える。
「ノアの原血励起、残り推定九十秒。アルドは三歩以内で待機。支柱崩壊時のみ接触を許可します」
「受理します」
「分かった」
セレネの三つの帰着候補が、断航海域の揺れで次々とずれる。
「第一候補、学院中央、偏差二十七。第二候補、地下実験室、受信強度低下。第三候補――」
白環の光が術式へ入り、三案を一つへ固定しようとする。
【標準帰着点へ固定】
「固定しません!」
セレネは三つの術式を群単位で分離する。
【分岐術式設計】。
「正解が動くなら、こちらも終点を動かします。レイル、第一案を持たないでください。第二案もまだです。人間圏側の信号を待ちましょう!」
「分かった!」
ニアの半実体が薄くなる。
『周辺魔力、低下。媒体固定、あと六十秒』
「俺から吸え――」
レイルが言う。
『申請します。レイルから魔力吸引三%。フィア、上限監視お願い!』
「受理。二・五%で警告、三%で強制停止します」
「許可する」
『了解。ニアちゃん、今日は最後までこの姿でいきます!』
レイルの魔力がオムニアへ流れる。ニアの指が再び媒体札へ触れる。
ただ、仲間が選んだ位置を最後まで支えるために。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
同じ時刻、人間圏側。
中央演習場の七本の受信杭が、断航海域から逆流した魔力嵐に包まれていた。
「外縁が閉じます!」
ロッテが叫ぶ。
「閉じさせないよっ!」
ユノが剣を抜く。
勇者候補の光が刃へ集まっていく。
「道そのものは斬りません。外から押し潰そうとする流れだけを斬ります!」
剣戟、一閃。
魔力嵐の外周だけが割れ、受信杭への圧力が左右へ逃げた。
カインは石板へ反応を数える。
【一、確認】
【二、確認】
【三、確認】
【四、確認】
【五、確認】
【六、確認】
「七つ目が薄れています!」
ロッテが叫ぶ。
「疑似人格反応が、オムニア本体信号へ吸収される!」
「所有物として探すな!」
エルシアが受信盤を叩く。
「オムニアはレイルの装備じゃない。ニアも一人分の帰還者として探せ!」
「独立波形の基準が弱すぎます」
「三つのテンポだ!」
ユノが叫ぶ。
「ニアが付け足した、あの変な三拍!」
「変とは失礼です!」
ロッテは泣きながら笑い、受信条件を書き換える。
短、短、長。
短、長、短。
最後に跳ねる三拍。
七本目の杭が黒銀色に点灯する。
【七、確認】
カインが大きく石板を掲げる。
【七反応、同時帰着可能】
家族たちは安全区画から、血縁アンカーへ魔力を送り続ける。
その最中、エナは何度も同じ言葉を送っていた。
「”今のあなたで帰ってきて”」
バルドは受信杭へ手を置く。
「全員が揃うまで、こちらは閉じない」
リィナの家族も、セレネの関係者も、学院の仲間も、それぞれの帰る場所を支える。
人間圏側の信号が、王核大陸へ届いた。
『七反応、確認! 人間圏側、全員同時帰着を受理してます!』
ニアが叫ぶ。
フィアが四つの完成条件へ番号を振る。
「第一番、人間圏側到着座標」
セレネの第二候補が、人間圏側の強い信号へ重なる。
「第二番、王核側出発座標」
ミュラの地脈音と五枚の分散座標が固定される。
「第三番、断航海域回避経路」
ユノが切り開いた外縁と、ニアの風圧経路がつながる。
レイルは一件ずつ受け取る。
「未完記録、第一番」
到着座標。
「第二番」
出発座標。
「第三番」
回避経路。
三件で視界が歪む。
心臓が速くなる。
北東旧街道で心臓が止まった時の暗闇が蘇る。
四件目を抱え、鼓動が止まった感覚。
【第四番:全員同時通過】
白い文字が、今すぐ持てと迫る。
「はぁはぁ......第四番は――?」
レイルが息を乱しながら尋ねる。
「まだ登録しません」
フィアが即答する。
「ゲートが崩れる」
「全員が揃っていません」
「間に合わない」
「だからといって、一人分のただいまは、完成させません」
アルドが最後の固定具を抱えて走っている。
白環兵が前を塞ぐ。リィナが道を開く。
「アルド、走って!」
「走っている!」
「そっちじゃない、右だって!」
「フィアの右と同じか?」
「今は同じ!」
アルドがその言葉を聞き方向を変え、フィアが叫ぶ。
「アルド、第五路。そのまま直進。十歩後に左。固定具を第四支柱へ!」
「了解した!」
アルドは【白銀直路】で敵を押し退ける。
第四支柱へ固定具を差し込む。
「完遂した!」
ノアが支柱を固定。
ニアが媒体を押さえる。
セレネが終点を学院中央演習場へ切り替える。
リィナが最後の白環攻撃を【返環】でゲート外周へ流す。
全員が帰還線の内側へ入る。
フィアが確認する。
「レイル、リィナ、セレネ、アルド、ノア、ニア。六名、一人格――訂正。七名相当、全員確認」
ノアが言う。
「ニアは一人格ではなく、一人分です」
「訂正を受理します」
フィアは記録札へ最後の番号を書く。
「全員確認。第四番を登録します」
レイルは第四の完成圧力を受け取る。
以前とは違う。到着座標は人間圏側が支えている。
出発座標はミュラと五枚の座標片が支えている。
回避経路はセレネ、ユノ、ニアが支えている。
レイルが抱えるのは、全員の時刻を揃える最後の一工程だけ。
「未完記録、第四番」
今度は心臓は止まらない。周りの仲間の声が聞こえる。
そして、リィナが隣にいる。
レイルは息を大きく吸った。
「第四番――同時帰還、完成!」
人間圏側で、エルシアが叫ぶ。
「多点帰着式、受理! 全員まとめて引っ張るんじゃあああああああっ!」
七本の受信杭が光り、帰還ゲートが開いた。
ミュラが泣きながら叫ぶ。
「次は――客で来て、ね!」
「地図の続きを頼む!」
「ちゃんと迎えに行くよ!」
ラガンが片手を上げる。
「次は遭難者ではなく、仕事札を持って来い!」
「友達料金は?」
「倍だっていったろ!」
ガズルが大鍋の蓋を鳴らす。
「次までに食える鍋を増やしておくブヒ!」
「リィナの分は多めで頼むぜ!」
「レイル、余計なこと言わなくていいっての!」
ノエラは帰っていくノアを見ている。
まだ、母とは呼ばれない。それでも、次がある。
ノアが最後に振り返った。
「次に会った時、続きを話しましょう」
「――待っておるぞ」
六人とニアが、同時にゲートへ入る。
白い光。
海を越える圧力。
断航海域の嵐。
王核大陸の高濃度魔力が離れていく。
少しずつ、人間圏の空気が近づく。
レイルは誰の手も離れていないことを確認する。
右にリィナ。
左にセレネ。
後ろにフィア、アルド、ノア。
ニアはオムニアの環の中。
全員いる。――次の瞬間、硬い石床へ足がついた。
王立結着学院中央演習場。
七本の受信杭が一斉に割れた。
ロッテが「壊れた!」と叫ぶ。
「一回通った!」
エルシアが叫び返す。
「後で直せ!」
ユノが剣を地面へ突き、最後の魔力嵐を逃がす。
カインの石板へ大きな文字が出る。
【七、帰着】
家族たちが安全線を越えて駆けて寄ってきた。
母エナの顔を見た瞬間、レイルは準備していた説明を全て忘れて放心した。
王核大陸の歴史。
白環。
灰環。
アルケイン。
アポリア。
帰還ゲート。
この三百六十五日の報告。
何一つ、言葉が出てこない。
それでも――
「ただいま」
最初の一言だけを返す。
エナはレイルをゆっくり、しかし確実に強く、抱きしめた。 その力は苦しいほど強い。
「遅いよレイル」
「ごめん」
「本当に遅い......」
「うん」
「帰ってきてくれて、ありがとう」
バルドが二人ごと抱える。
レイルは子供のように泣いた。
リィナも家族へ抱きしめられ、最初に泣き、その後で怒られていた。
「一人で四か月も別行動したってどういうことなの!?」
「説明すると長いんだけど――」
「長くても聞くから!」
「今はご飯が先でもいい?」
「そこは変わってないのね!やっぱり」
セレネは家族と学院関係者に囲まれ、淡々と説明しようとして途中で声を詰まらせる。
フィアは帰還時刻を書こうとしたが、筆先が震え、最初の数字を一度間違えた。
アルドが隣から覗く。
「数字が違うぞ」
「分かっています。訂正します」
「お前にしては珍しいな」
「感情項目の負荷ですから」
「帰ってきたからか」
「……はい。それだけではありませんが」
ノアは原血励起の反動で膝を折った。アルドが手を取った。
ノアは反射的に握り返す。
あの夜と同じ温かさ。
フィアがそれを見る。
ノアは一瞬、手を離そうとした。
フィアは首を横へ振る。
「今は、そのままで結構です。ノアは原血励起直後です」
「診療判断ですか?」
「半分は」
「残り半分は?」
「帰還後に話すと約束しましたから」
ノアはアルドの手を握ったまま、小さく頷く。
「受理します」
アルドが二人を見る。
「何の話だ?」
「貴方は今は黙っていてください」
ノアとフィアの声が重なった。
周囲に小さな笑いが起きる。
その時、少女型ニアの輪郭が揺れた。
『周辺魔力、低すぎです。半実体、維持できないかもー』
レイルが振り返る。
ニアが手を伸ばす。
指先が、レイルの手をすり抜けた。
『帰還は成功したのに、ちょっとだけ負けた気分です』
「帰還は成功したんだ、それでいいじゃないか」
『分かってます。でも、王核大陸では触れたのになぁ』
「次は借りた魔力じゃなく?」
『次は、ニアちゃん自身の力で触ります!約束です』
少女型が黒銀色の光へ崩れる。
ニアは、見慣れた、小さな猫型へ戻った。
床へ座り、環状の尾を足元へ巻く。
レイルは触れられない猫型ニアの頭へ、手を置くふりをした。
『ワタシは猫ではありません。省魔力操作補助形態ですニャ』
「帰って最初の台詞がそれか」
『大事な訂正です』
「分かった。おかえり、ニア」
猫型ニアの耳が動く。
『……ただいまですにゃん』
帰還ゲートが閉じた跡へ、白い文字が残る。
【関係矯正:失敗】
【再試行時期:未定】
その下へ、欠けた文字が重なった。
【まだ終わっていない】
アルケインの目的も、アポリアの正体も、白環の再試行も終わっていない。
それでも、今日は帰った。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
帰還から数日後のこと。
レイルは学院の療養室で、王核大陸の地図を開いていた。
人間圏の古い地図には、海の向こうへ【未踏地域】と書かれている。
レイルはその文字へ一本の線を引いた。
代わりに書く。
【また戻る場所】
隣でリィナが覗き込む。
「次、いつ行けるかな?」
「帰還報告、治療、学業の遅れ、外交許可、転移ゲートの再設計、オムニアの正式修理――」
「で、行くの? 行かないの?」
「絶対に行く」
「最初からそう言えばいいのに」
セレネが反対側から地図を見る。
「次は事前に共同研究契約を作ります。現地語の資料も整理が必要です」
「食料も」
リィナが言う。
「そこは現地調達でいいだろ」
「最初の三日分は必要でしょ」
「リィナの三日分は荷車がいるレベルだ」
「レイルの慎重荷物より少ないよ!」
『次の旅、出発前から重量超過確定ですね』
笑いが療養室へ広がる。
一年前、行き先を選べず始まった旅は終わった。
だが、地図の余白も、母娘の会話も、恋の行方も、神々の目的も、まだ閉じていない。
未完のままだから、次の一歩を選べる。
第8章「帰還路は完成しない」――完。
【今回の登場人物】
・レイル・アルヴァート
四つの完成圧力を仲間の支援下で順番に受け取り、全員の時刻を揃える最後の一工程だけを完成させた少年。
・リィナ・アルセイル
白環の攻撃を斬って消さず帰還経路へ返し、最後まで自分で戻る道を開いた剣士。
・セレネ・グランツ
断航海域の揺れに合わせて三つの帰着候補を切り替え、人間圏側の受信点へ終点を合わせた少女。
・フィア・レコード
全員が揃うまで第四番を登録せず、一人分のただいまを完成させなかった目録官。
・アルド・クロイツ
避難、部品運搬、ミュラ救助、最後の固定具を全て運び、帰還後は倒れたノアの手を取った少年。
・ノア・エルグラム
母の血を自分の理論へ組み込み、帰還支柱を支え、未成立の母娘関係も未整理の恋情も持ち帰った九十九魔導士。
・ニア
一人分の帰還者として人間圏へ受信され、半実体を失っても次は自分の力で触れると約束した疑似人格。
・ミュラ、ラガン、ガズル、ノエラ
王核大陸側に残り、地脈、退路、鍋炉、血統経路を支え、次の再会へ送り出した現地の仲間たち。
・エルシア・ヴァント
人間圏側の全体指揮を執り、一年前の複製ではなく現在の教え子たちを全員まとめて受け止めた師匠。
・ロッテ・ベルクマン
壊れる受信杭を一回の帰還へ使い切り、ニアの独立三拍まで一人分として受信した魔導技師。
・ユノ
帰還ゲートそのものではなく魔力嵐だけを斬り、王核側の進路を人間圏から守った勇者候補。
・カイン・ヴェルド
七つの反応を最後まで数え、石板へ【七、帰着】と帰還完了を記した少年。
・エナ、バルド、帰還者の家族たち
全員が揃うまで受信側を閉じず、昔のままではなく現在の子供たちを迎えた人々。
・アルケイン、アポリア
唯一解と無数の保留をそれぞれ提示したが、独自の帰還を止められず、次章以降へ目的を残した神格たち。
【今回の能力・設定メモ】
・条件付き四件保持
レイルが四件全ての負荷を単独で抱えたのではなく、仲間が各条件を支えたうえで、全員の通過時刻を揃える第四工程だけを短時間保持した成功例。
・全員同時帰還
王核側の開環帰還契約と、人間圏側の多点帰着式を同時に完成させ、六人とニアを一人ずつ分けず帰着させた。
・ニアの人間圏状態
周辺魔力濃度不足により少女型半実体を維持できず、黒銀猫型へ戻る。人格と応急修復機能は保持される。
【章終了・現在ステータス】
【レイル・アルヴァート】
・本物の無詠唱:六基礎現象を安定。複数の初級魔法を移動中に形成可能。
・【裂息歩法】:横移動、後退、短距離接近、着地制動を実戦使用。
・【重層無詠唱】:本物の無詠唱、事前形成、保持魔法、仲間の形成を時間差運用。
・【未完】:二件安定、三件実戦域、四件は仲間の条件管理下で一度のみ成功。
・単独四件保持:未習得。再使用禁止。
・前世名をアルケインが知ると判明。
・王核大陸を【また戻る場所】として地図へ記録。
【リィナ・アルセイル】
・【噴歩・瞬駆】:安定。
・【噴歩・逆制】:安定。
・【噴歩・返脚】:習得。
・【無終剣・返環】:成立。
・ヴァルカには未勝利。
・【無終剣・零間】:未習得。
・レイルへ失敗を預けず、自分で帰還する剣を得た。
【セレネ・グランツ】
・【分岐術式設計】:三案形成、現場条件による終点変更が可能。
・三案同時完成:未到達。
・王核大陸の言語と術式文法を保持して帰還。
・リィナの代替ではなく、自分の立場でレイルを支える。
【フィア・レコード】
・【可変条件目録】:成立。
・危険時にレイルの登録を拒否し、中止命令を出せる。
・記録不能な感情を空欄のまま保持。
・アルド、ノアとの感情について帰還後に話す約束。
【アルド・クロイツ】
・【誤命断ち】:誤った命令を途中中止可能。
・フィアの番号指示下では方向を失わない。
・リィナへの初恋を剣士仲間の尊敬へ変えた。
・ノア、フィア双方との未確定な関係を持ち帰る。
・方向音痴は未改善。
【ノア・エルグラム】
・母の血を第8章で二度、累計三度、自分の意思で使用。
・【原血励起】:実戦使用可能。反動大。
・ノエラとの血縁確認。母娘関係は保留。
・オムニア応急修復を担当。
・アルドへの好意とフィアへの対抗心を自覚し始める。
・帰還後も研究と関係の査読を継続。
【ニア】
・少女型:明るいギャル少女口調。王核大陸では十五分程度の半実体。
・猫型:省魔力、監視。人間圏帰還後の主形態へ戻る。
・犬型:追跡、探索。
・風圧、光、地質三経路を応急使用可能。
・人格初期化と形態固定を拒否。
・人間圏側でも一人分の独立帰還者として受信された。
【王核大陸側の関係】
・ミュラ:地図の続きを託され、再会を約束。
・ラガン:裂息戦技を継承し、次は客として来いと送り出した。
・ノエラ:ノアとの次の会話を約束。母娘関係は未完成。
・ガズル:鍋炉で帰還ゲートを支え、再訪時の食事を約束。
・ディルガ:生存。白環観測片を失い、長期ライバルとして撤退。
【人間圏側】
・エルシア、ロッテ、ユノ、カイン、学院、A級・S級捜索隊、家族が帰還を共同支援。
・多点帰着式は一回の使用で大きく損傷。
・王核大陸座標は消去せず、次回接続候補として保存。
【言語習得状況】
【一行全体】
・王核大陸滞在:約一年。
・【灰環交易語】による挨拶、買い物、宿泊、食事、道案内、依頼受注、簡単な交渉、日常的な冗談は、ニアを介さずほぼ支障なく行える。
・早口、強い方言、古い慣用句、種族固有の比喩、魔法理論、血統契約、外交文書は完全には理解できず、聞き返し、辞書、対訳帳、ニア、現地話者による照合が必要。
・会話能力が読み書きより先に伸びている。全員が【灰環札字】の看板、価格、道札、簡単な依頼票を読めるが、長文契約や古文書を単独で正確に読む段階にはない。
・【王核諸語】は一種類の言語ではない。各人物が生活、戦闘、研究、記録など、自分の役割に必要な語彙から偏って習得している。
・言語習得によって魔力量が直接増えたわけではない。現象の区切り、期限、退出条件、終了条件を別の言語で考えられるようになり、魔法形成と契約判断の精度が向上した。
・未知の言語で構成された魔法や契約へは、意味を確認せず【未完】を使用しない方針を確立。
【レイル・アルヴァート】
・灰環交易語・会話:日常会話はほぼ自立。依頼内容、報酬、危険条件、宿泊規則、食料調達、簡単な謝罪や冗談まで扱える。
・灰環交易語・読み書き:灰環札字の基礎から初中級。短い依頼票、道札、価格表、単純な退出条件を読める。長い契約文はセレネ、フィア、ニアとの照合が必要。
・【小角族語】:水、食事、家族、道、待機、避難、帰還などの生活語を習得。ミュラとは短い日常会話が可能。
・【虎獣人語】:呼吸、加速、制動、敗北、追撃停止などの戦闘語を実用域まで習得。ラガンの戦技指導を通訳なしで受けられる。
・【牙冠オーク語】:食料、客人、保護、分配、鍋炉に関する基礎語彙を習得。
・【魔獣信号語】:警戒、縄張り、退避、追跡に関する非言語信号の基礎を理解。
・王核諸語全般:複数言語の入口へ到達した段階。万能な多言語話者ではなく、専門外の会話や未知方言ではニアと現地話者を頼る。
・成果物:単語帳十三冊以上、発音記録、術式対訳、誤訳記録。帰還後の【未完対訳帳】作成へ接続。
【リィナ・アルセイル】
・灰環交易語・会話:日常会話は実用域。食事、買い物、警告、移動、護衛、剣術、体調確認に関する会話は特に速い。
・発音と聞き取り:相手の動きや表情と一緒に覚えるため、短い口語表現と戦闘中の指示への反応が早い。
・読み書き:料理名、価格、道札、危険表示、簡単な依頼内容を読める。長文、契約、抽象的な魔法理論はレイルたちの補助が必要。
・虎獣人語:踏み込み、停止、返す、追う、帰るなど、裂息戦技と剣術に関する語彙を実用域まで習得。
・小角族語:食料名、家族呼称、怪我、待つ、戻るなど、生活と護衛に必要な語彙を習得。
・弱点:食べ物の名称だけは他の分野より明らかに語彙が多く、地方料理名を覚える速度が異常に速い。
【セレネ・グランツ】
・灰環交易語・会話:日常会話はほぼ自立。口調は現地の砕けた話し方より、帳簿や契約文に近い整った言い回しになりやすい。
・読み書き:同行者の中では最も高い。価格表、帳簿、依頼票、簡易契約、術式注記を読み、短い文書を作成できる。
・専門語:数字、価格、期限、分岐、条件、術式構造に関する語彙を重点習得。
・王核諸語:複数言語の術式文法を比較し、同じ魔法でも終端条件の置き方が異なることを理解。
・弱点:俗語、冗談、食堂の省略表現、感情を遠回しに示す言い回しは、文字どおりに受け取りやすい。
【フィア・レコード】
・灰環交易語・会話:日常会話は可能。ただし、曖昧な返答を避けるため、確認を挟みながら慎重に話す。
・読み書き:数字、時刻、数量、危険条件、中止条件、退出条件、記録札の読解に強い。
・灰環札字:不明語を推測で埋めず、空欄、仮訳、要再確認を区別して記録できる。
・専門語:依頼契約、物資目録、負傷記録、帰還条件の語彙を実務域まで習得。
・弱点:感情を含む比喩、冗談、恋愛表現は、意味を理解しても自分の言葉として返すまで時間がかかる。
【アルド・クロイツ】
・灰環交易語・会話:定型的な日常会話と護衛会話は可能。命令、停止、退避、敵数、完遂報告への反応が特に速い。
・読み書き:数字札、番号指示、危険表示、簡単な道札を読める。
・虎獣人語:戦闘命令、隊列、交代、追撃停止、護衛対象に関する語彙を習得。
・弱点:抽象的な説明、婉曲表現、冗談を文字どおりに受け取りやすい。現地語を理解できても、地図上の左右を間違えることはある。
・補足:言語能力と方向感覚は別の問題であり、灰環交易語を覚えても方向音痴は改善しなかった。
【ノア・エルグラム】
・灰環交易語・会話:日常生活と研究協議に支障なし。ただし、長期間研究施設で暮らしていたため、若者言葉や地域の流行語には疎い。
・【白環制式語】:血統、施設、術式命令、管理記録に関する読解は高度。白環の文章を正しい命令として受け入れず、構造と意図を分けて解析できる。
・王核諸語:血統魔法、吸血種、古い魔導施設に関する専門語は高水準。生活方言や食堂の俗語は年齢の割に弱い。
・弱点:本人は正確な言葉を選んでいるつもりでも、古風または研究者的な表現になり、アルドやミュラへ説明を言い換えられることがある。
【ニア】
・【言語照合】:灰環交易語と同行者が学んだ王核諸語について、日常会話の翻訳、候補表示、誤訳警告、発音比較を行える。
・一年分の会話、単語帳、契約、戦技指導を蓄積し、灰環圏の日常会話は高精度で支援可能。
・未知方言、種族固有の儀礼語、感情を含む比喩、古い白環文、神格由来の文章は完全翻訳できない。
・ニアの翻訳は、知らない文化や概念を自動的に理解させる能力ではない。重要な契約、血統、魔法、外交では本人と現地話者の確認を優先する。
・少女型では自然なギャル少女口調で訳し、危機時は口調を抑えて警告と数値を優先する。
【次章への課題】
・約一年分の学業遅延と帰還者の社会復帰。
・家族への説明と、失踪死亡扱いの訂正。
・王核大陸との外交、再訪条件。
・オムニアと七環導杖の正式修理。
・ニア半実体喪失への対応。
・レイルの四件保持後遺症。
・ノアの学院加入とノエラとの関係。
・アルド、フィア、ノアの未確定な感情。
・アルケインが前世名を知る理由。
・アポリアと白環の再干渉。
・ディルガおよびガルヴァド戦団の動向。
一人分では閉じなかった「ただいま」を、海の両側から七人分そろえました。レビュー、ブックマーク、フォローで、帰還後も続く未完の地図と【また戻る場所】を応援していただければ幸いです。




