第8章-158 フクのホ?
ーーその頃、学校ーー
僕は家庭科室で、1人刺繍の補習を受けていた。
必死に針を動かし、糸をハサミで切った。
仕上がった刺繍を、担当教員に渡した。
「先生……ごめん。ダメだったよ。」
受け取った教員は苦笑いを浮かべた。
「料理はよくなったが……やっぱり、ゼロユイは家庭科や図工は苦手だな。」
刺繍は一部糸が引きつれ、一部緩くボコボコになっていた。
教員は滑らかな部分を指でなぞった。
「でも、この辺りは上手じゃないか。」
「それ、先生の見本だよ。」
「……そう……だったな。」
教員は照れ笑いを浮かべた。
「まあ、あまり気を落とすな。
刺繍はできない生徒もたくさんいるし、卒業の必須試験じゃない。
ゼロユイは筆記は毎回満点なんだから。それに……。」
教員は僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ちゃんと最後までやり遂げる集中力と、責任感があるんだ。
それは間違いなく君の良さだ。誇っていい。」
「……ありがとう先生。」
僕が頷くと、教員は僕に刺繍を返した。
「それじゃあ、今日はここまでにしよう。」
「うん。それじゃあ……。」
僕はバッグを背負うと、教員は思い出したように僕を引き留めた。
「あ、待ってくれ。
言い忘れたが、明日はゼロユイは町医者の所へボランティアに行くよな?」
「そうだけど、どうしたの?」
教員は少し間を置いて話した。
「町医者の先生、昨日、誕生日だったらしいんだ。
ゼロユイが専属でお世話になってるから、学校側から花を贈ったんだ。
ゼロユイからも、おめでとうと伝えておきなさい。」
「分かった。伝えておくよ。」
僕は先生に挨拶をし、教室を出た。
「誕生日……僕も何かプレゼントしたいな。」
僕は頭を抱えながら、寮へ向かう。
「そういえば、僕やフクにも誕生日ってあるのかな?
電子世界で生まれた時と、この世界に来た時……どっちが誕生日なんだろ?」
僕は寮に戻り、自分の部屋に入った。
「フク、ただいま。」
「ホウッ!」
フクは翼を広げ、僕の足元に着地した。
「これから出かけるよ。」
僕はバッグを開けて、テーブルに筆箱や裁縫セットなどを全て出した。
代わりに財布を入れる。
フクはテーブルに飛び乗り、でこぼこの刺繍をじっと見た。
「……ホ?」
「フク、言いたいことは分かるけど……。」
僕は気を取り直して、フクに財布を見せた。
「フク、今から町医者の先生の誕生日プレゼントを探しに行ってくるよ。
昨日、誕生日だったんだって。」
僕は、フィナからもらった黄色いマフラーをぐるぐると首に巻きつけた。
とても柔らかく、温かかった。
「それじゃあ、行ってくるね。
あれ?どうしたの?」
フクは寝室に行くと、同じくフィナからもらったポンチョを咥えて戻ってきた。
「フクも一緒に行きたいの?」
「ピィッ」
フクは甘えるように鳴いた。
鳴いた時に咥えていたポンチョが落ちた。
フクは急いで拾い直した。
「分かった。じゃあ、一緒に行こう。
寒いから、フクのTシャツをバッグに入れておくね。」
僕は財布をポケットに入れ直し、代わりにTシャツをバッグに入れた。
フクにポンチョを付けると、フクは気持ちよさそうに目を細めた。
「これでよし。フク、入って。」
バッグを大きく両手で開くと、フクが飛び込んできた。
「寒くない?」
「ホウッ!」
「よかった。
何かあったら、僕の背中を蹴ってね。」
僕はバッグを背負って、扉を開けた。
冷たい風が顔にかかる。
「やっぱり寒いや……。
今日は、フク用の毛布も買って帰ろうね。
軽くて暖かいのが良いな。」
バッグの中にいるフクがモゾモゾと動き、背中ごしに頬擦りを始めた。
「フク、くすぐったいよ。」
僕は寮から出て鍵を閉めた。




