第8章-155 レイの涙
ーーお嬢様の屋敷からの帰還ーー
セキとサクは明け方、お嬢様の家をリュウの馬車で出た。
リュウは馬車を裁判所の近くに停めた。
「英雄!誰かさん!!
また、いつでもご利用くださいね!!
特に英雄は、いつでも喜んで乗せますんで!
んじゃ、私はこれで。
いや、めちゃくちゃ最高の朝でした!」
セキとサクが降りると、リュウは上機嫌で馬車を走らせていった。
セキが自身の肩に手を当てる。
「まったく、うるさい御者だ。それより、サク。なぜ、私の布団にいなかった?」
「寝相があまり良くないので。」
「それにしては、手足を揃えてソファーに寝ていたが……まあ、いい。
お前は社宅に戻れ。私も一度、家に戻る。」
「はい、セキ様。また裁判長室で。」
サクは優雅にお辞儀をし、社宅に戻っていった。セキは裁判所の裏手にある自分の家に向かった。
家の鍵を開けて中に入ると、レイがリビングのソファーで、うつらうつらとしていた。
扉が開く音と共にレイの目が開いた。
「ん……?あ、セキ様……お帰りなさいませ。」
セキは扉を閉めた。
レイはソファーでお辞儀をした。
目にはクマがあり、少しぼんやりとしていた。
「レイ、ここで何をしている?まさか、寝ていないのか?」
「いえ……自室で寝てましたが、セキ様が戻られないので……こちらで待っていました。」
「勝手に私の部屋に入ったのか?」
セキはレイの前のソファーに座った。
レイは顔を上げて、首を横に振った。
「そんなこと……少し覗いただけです。
勝手に入ったりしません。」
レイはそう言うと、気まずそうに下を向いた。
「セキ様、その……こんな時間まで、お嬢様の家に、何をしに行ってたのですか?」
レイの体はかすかに震えている。
「お前には、まだ話せない。」
セキが立ち上がろうとした時、レイが机を軽く叩いた。
「セキ様、待ってください。
私は……セキ様にとって不要なのでしょうか?」
「何を言っている?お前は私のーー。」
「私は副裁判長になれて、とても嬉しかったです。
憧れのセキ様と一緒に仕事ができるんだと。
セキ様の家にも、業務の都合とはいえ、一緒に過ごし学べると喜びました。
だけど、こんな……こんなに、誰よりもセキ様と一緒にいるのに、私はいつも何も教えて頂けません。」
レイの目からポタポタと涙がこぼれ落ちた。
「それに、落石事故の調査で……セキ様が怪我をされた時も、今日もセキ様のお帰りが遅いことを……心配していました。
ですが、私は……すみません。」
レイは涙を必死で腕で拭い始めた。
セキはレイの隣にしゃがんだ。
「そこまで追い詰めているとは気づかなかった。
だが、今は話せない。
必ず話すから、今は泣きやめ。
あと数時間で仕事も始まる。」
「本当に申し訳……顔、洗ってきます……。」
レイは、涙を拭いながら、洗面所に向かっていった。
セキは軽く息をはき、ソファーに足を組んで座った。
「まさか、部下の涙に動揺するとは……私も大概だな。」
セキは窓の外を見た。
空は明るくなり始め、雨が少しぱらついていた。




