第8章-152 帰宅拒否
セキは少し息を吐いた。
「お嬢様、それではもう一つ。
ゼロユイとフクロウは、前裁判長のアサハと同じような存在だと思いますか?」
お嬢様は、カップの縁を指でなぞった。
「その質問はつまらないね。
でも、セキだから答えてあげる。
多分、同じだけど違う。」
セキの目が鋭くなる。
お嬢様は今度はカップの縁をトントンと叩いた。
お茶の波紋が何重にも重なっていく。
「前裁判長は、私が作った人間の失敗作に違うエネルギーが混ざった。
だけど、ゼロユイは完全に違うエネルギー……つまり純正。」
お嬢様はカップの飲み物を一気に飲み干した。
「ふう、美味しい。
しかも、ゼロユイにエネルギーを流し続けてる誰かがいるみたい。
私が、光る木にエネルギーを流し続けているみたいにね。」
「……相手の正体は?」
お嬢様はカップを置き、静かにセキを見た。
「正体までは分からない。
無理やりアクセスしようとしたら弾かれた。
でも、いつか引きずり出せたら楽しそうだよね。
それより、セキ。
こんな話を持ち出したのは、何か理由があるんでしょ?」
セキは少し前のめりになった。
「最近コウの様子がおかしいです。」
「コウがおかしい?」
セキは話し続けた。
「ゼロユイに会ってからのコウは、不自然な囲い込みをはじめています。
高額な報酬や医学書の贈与、私やレイの診断への同行、眠り薬の使用……。
法に違反しないギリギリを攻めてはいるが、いつか法を破る。」
「……確かに、意外だね。
でも、それとゼロユイになんの関係があるの?
ただ可愛くて、可愛がりすぎてるだけでしょ?」
「私にはゼロユイがコウを魅了し、狂わせているように見える。」
お嬢様は少し考えると、空のカップをセキに投げた。
セキが片手で受け止めテーブルに置くと、お嬢様は笑った。
「あれ、キャッチした。
なんだ。まだ衰えてなかったんだ。
ゼロユイに前裁判長くらい魅了する力があるなら、コウ以外の人も魅了されてるはず。
それに、セキ……コウは昔から貴方を見る目と、ゼロユイを見る目は、たぶん同じだよ。」
セキの目が僅かに開く。
お嬢様はお菓子をもう一つ手に取った。
「気付いてなかったの?
セキも、まだまだ未熟だね。
本当に私の……まあ、良いや。
サク、貴方はどう?
コウがセキを見る視線について。」
いきなり話を振られ、サクの体が震えた。
だが、膝の上で手を強く握り、震えを押さえ込んだ。
「俺が補佐官になったのは最近です。
コウ様と、セキ様の関係については、あまり知りません。」
「優等生だね。つまらない。」
お嬢様はそう言うと、ソファーから立ち上がった。
「ゼロユイとコウのことは、一応覚えといてあげる。」
「ありがとうございます。」
セキが頭を下げると、お嬢様はセキの後ろに回り込んだ。
ソファー越しにセキの首に腕をまわした。
「ねえ、今日は泊まっていきなよ。
疲れてるでしょ?
セキの部屋はそのままにしてあるから。」
隣に座っていたサクがビクリとするのに対し、セキはまったく動じていない。
「宿泊はお気持ちだけで結構です。
馬車も待たせていますので。
サク、行くぞ。」
セキはお嬢様を振り解こうと、お嬢様の腕を掴んだ。
だが、お嬢様はニコリと笑った。
「馬車はもういないよ。
裏道から、リュウが帰宅させてるはずだから。
だから、泊まっていきなよ。」
「なっ……!?」
セキはしばらく黙ったあと、呆れたように息を漏らした。
「まったく貴方は……油断も隙もない。」
「当たり前だよ。セキは真面目すぎ。
空き部屋はたくさんあるから、サクも好きな部屋を使っていいよ。
それに……ほら、お茶もお菓子もほとんど減ってない。
食べ終わったら、お風呂に入ってきなよ。」
声を出して笑うお嬢様に、セキとサクはその場から立ち上がれなかった。




