第8章-149 英雄万歳
――お嬢様の屋敷――
セキとサクを乗せた馬車はお嬢様の屋敷の門の前で止まった。
サクは屋敷を見上げた。
「これが、個人宅?立派すぎるだろ……。」
セキは無言で鍵束を出した。
ジャラリと音が鳴る。
そのうちの一つを門の鍵穴に差し込んだ。
門が静かに開いた。
「セキ様……何故、鍵を?」
「私は元々、この家の者だ。」
「えっ?」
屋敷に入ると、美しく生え揃った芝生と、手入れされた木々が出迎えた。
隅の方には、馬車と馬小屋もある。
屋敷の扉の前まで来ると、セキは別の鍵を差し込んだ。
カチャリと軽い音が鳴った。
「サク、先に言っておく。
お嬢様の質問には答えてもいいが、お前からは何も質問するな。いいな?」
「……承知いたしました。」
サクはセキと一緒に室内に入った。
部屋の中は明るく、柔らかそうなソファーや木のテーブルがたくさん置いてあった。
セキは声を張り上げた。
「誰かいるか!?」
「あ、はい!!」
声に反応して、2階からフィナが降りてきた。
フィナは階段の途中で止まり、セキたちを見て、体を強張らせた。
「えっ?男の人……だけ?」
フィナは逃げるように、2階に戻っていってしまった。
セキは近くのソファーに腰掛けた。
「サク、私の隣に座れ。ここで待つ。」
「……かしこまりました。」
しばらくの沈黙のあと、2階から足音と話し声が聞こえてきた。
「大丈夫ですって。
別に取って食われたりしないから。」
「いや、男の人……怖い……。」
「私も、ガーディも、コウさんだって男でしょ?」
「それは、恋人だし、リュウだし、コウさんはお嬢様の主治医だし……。」
「まったく、そろそろ慣れたらいいのに。
一生、外に出られませんよ?」
「べ……別に、困ってないもん……。」
リュウはため息をつきながら、セキの前に立った。
フィナはリュウに隠れるように、くっついている。
リュウはセキを見て、目を輝かせた。
「あれ、裁判長と……知らない誰かさんじゃないですか!
フィナ、裁判長と、誰かさんだ。
私たちの英雄さん。」
誰かと呼ばれたサクは苦笑いをして、会釈をした。
フィナも会釈をし、恐る恐るセキの顔を見た。
「あ……本当だ。
あの、逃げちゃってごめんなさい。
前にも来てくれたことあるのに……。
私、お嬢様かリュウがいないと、男性と話せなくて……助けてくれたのに、ごめんなさい!」
フィナの言葉に、セキは顔を歪ませた。
「助けただと?何の話だ?」
リュウはわざとらしく両手を広げた。
「いやいや、本当に助かったんですってば。
前裁判長処刑からの、治安改善、食料供給、制度見直し……そして奴隷の完全解放!
マジ最高でした!!
セキ様バンザイってね!!」
リュウはそのままバンザイをしてみせた。
フィナに軽く視線を飛ばした。
「英雄のおもてなしだ。
一番良いお茶と、フィナ力作のお菓子を用意しよう!!」
「う……うん。リュウも手伝ってよね。」
「へい、ただいま!」
バタバタとキッチンへ向かう2人から視線を離し、サクは頭を抱えるセキを見た。
「セキ様、大丈夫ですか?」
「……問題はない。煩かっただけだ。
しかし、英雄か……あの者たちは、いったいいつの話をしてるんだ。」
セキは頭から手を離し、ソファーに寄りかかった。
サクは一呼吸おいた。
「お嬢様の話はいつ切り出します?」
「あの者達が戻ってきたらでいい。」
しばらくして、リュウとフィナが戻ってきた。
美しく盛り付けられた色とりどりのお菓子と、柔らかな香りが漂うお茶がテーブルに並べられた。




