第8章-144 裁判所の馬車
コウと一緒に裁判所を出た。
外には馬車が2台止まっていた。
1台は僕たちが乗ってきた病院用の馬車。
もう1台は裁判長室の扉と同じ、2羽の鳥が向き合った紋様が入っている。
「コウさん、もう1台あるよ。」
僕はコウを見上げた。
コウは紋様が入った馬車を指さして答えた。
「裁判所用の馬車ですよ。
もしかしたら、誰かがお出かけするのかもしれないですね。」
「そうなんだ。すごく立派だね。」
「馬車だけでなく馬も素晴らしいですよ。
ほら、馬の体を見てください。
僕たちが乗ってきた馬車に比べて、筋肉が発達しているでしょう?」
僕はコウと一緒に裁判所の馬車の前に回り、馬を見た。
とても体が大きく、足も力強かった。
「病院の馬車の馬は速さに特化していますが、裁判所の馬たちは速さも、力も強いんです。」
「うん。すごいね……リュウさんの馬たちみたい。」
コウの眉が少し動いた。
「リュウさんの馬?見たことがあるのですか?」
「あ、いや……その……リュウさんも御者だから、そのくらい立派な馬がいるのかなって……。」
僕はしどろもどろに答えた。
コウは軽く笑った。
「そうかもしれませんね。
さあ、そろそろ行きましょう。
ガイさんが待っています。」
僕たちは病院の馬車に乗り込み、コウの病院へと向かった。
馬車の中で、コウは僕に片手を差し伸べてきた。
「ゼロユイさん、僕の手首に手を置いてくれますか?」
「えっ……手首?」
いきなりのお願いに戸惑いつつ、僕はコウの手首に自分の手を置いた。
「今、脈が動いてるのが分かりますか?
これが正常な動きです。」
僕は目を閉じてみた。
静かに脈が波打つのを感じた。
「うん、分かるよ。」
「それでは、少し待っててください。」
コウは医療バッグから聴診器を取り出し、僕の耳につけた。
先端を自身の心臓に押し当てた。
ドクンドクンと音が聞こえる。
「聞こえますか?」
「……うん。聞こえる。」
「この音を覚えてください。
もし、この音が速い場合は、緊張しているかもしれないので、深呼吸をさせてください。
それでも速い場合や、音が乱れたり、途切れたりしたら、異常がある可能性があります。」
僕はコウの説明に集中した。
データが頭の中に記憶されていく。
「今話したこと、覚えられそうですか?」
「うん。覚えられそう。」
「さすがですね。」
コウは満足したように聴診器をしまった。
僕はずっと不安だったことを質問してみた。
「あの、コウさん……知りたいことがあるんだ。」
「なんでしょう?」
「皆、僕がコウさんの助手をやっていることに驚いてたよね。
僕は、違う仕事をした方が……。」
コウは僕の口元に指を当て、言葉を止めた。
「ゼロユイさん。
確かに貴方は幼く、驚かれるのは仕方ありません。
ですが、貴方は僕の治療の手伝いを立派にしてくれています。
何も恥じることも、不安になることもありません。」
コウは指を離した。
そして、少し寂しそうな顔をした。
「何より、僕は貴方がいてくれてとても助かっています。
もちろん、ゼロユイさんが負担なら、他の役をやっていただくことも出来ますが……。
僕の手伝いは嫌ですか?」
僕は慌てて首を横に振った。
「ううん。不安はあるけど、嫌じゃないよ。」
コウは微笑み、僕の頭を優しく撫でた。
「ありがとうございます。
これからも、頼りにしていますよ。」
コウの言葉が心地よく耳に響いた。




