第7章-136 ランプの光と頭上の光
ガーディと僕を載せたリュウの馬車は、まっすぐに街を走っていた。
僕はフクと一緒に窓から外を見た。
街は静まり返り、全ての家にランプの明かりが灯っている。
「綺麗だね、フク。」
フクを見ると、窓の縁に立ったまま、うつらうつらとしていた。
僕はフクを抱き寄せた。
「そういえば、ガーディさん。
どうして、全ての家にはランプがついてるの?」
ガーディは窓越しに空を指差した。
「夜は真っ暗になるので、馬車が走れなくなったり、人が迷子になったりしないようにです。
緊急時に、馬車が出せないと困りますから。」
「確かにそうだね。
ずっと当たり前になってて気づかなかったけど、星も月もないもんね。」
「星や月とはなんですか?」
「ううん。何でもない。」
僕は外に視線を戻した。
ガーディは黙っている。
「ガーディさんは、フィナさんと結婚しないの?」
「結婚?」
ガーディは首を傾げた。
「結婚なんて初めて聞きました。
どういう意味ですか?」
「えっ?……その、恋人以上って意味で、夫婦になるってことだよ。」
「恋人以上?夫婦?
それもよく分かりません。」
「……そっか。
子供は急に生まれるから必要ないのか。」
「ゼロユイさんは、難しい言葉をたくさん知っていますね。」
ガーディは僕の肩に触れた。
「まだ到着には時間があります。
よろしければ、眠ってください。
着いたら起こします。」
「うん。ありがとう。」
僕はフクを抱いたまま、馬車の座席に体を横たえた。
ーー頭上に光の線が見える。
腕の中にある黄金の玉は、羽が生えそろい、翼らしい膨らみが出始めていた。
「やあ、旅はかなり進んだようだね。」
僕が振り返ると、青いフクロウとプロトタイプが後ろに佇んでいた。
「ゼロユイ、君に改めて聞こう。
君はあの世界でどのような自由を……何を選ぶつもりなんだい?」
僕はフクをしっかりと抱きながら、プロトタイプに一歩近づいた。
「僕、あの世界のことが少しだけ分かったよ。
確かに完成してるけど、不完全で、完璧なんてない。
人間の世界じゃなくても、人間らしい世界だと思う。
でも、だからこそ、何かを選んだら何かを失うよね。
僕は……失いたくないものが、たくさんありすぎて、何を選べばいいか分からないよ。」
「なるほど。
何を選ぶか分からないということは、あの世界の全てが欲しい……支配したいということか?」
僕は首を強く横にふった。
「違う、支配なんてしたくない。」
「そうか。それならば、全てを手放してみるか?」
プロトタイプは淡々と話している。
僕は玉を強く握りしめた。
「嫌だよ。あそこには僕の大切な人も、物もたくさんできたんだから。」
「それでは、大切ではないものを全て消し去るか?」
「ダメだよ。皆それぞれに大切な人やものがあるんだから、僕が消してしまったら、それこそ……。」
「では、どうしたい?
ダラダラと旅を続け、時間を浪費するのか?」
「ダラダラなんてしてない!
僕は毎日を必死に生きているんだから!!」
僕は自分でも驚くくらい大きな声が出た。
プロトタイプは大笑いをした。
「生きてるだと?
自分がAIだと忘れたのか?
これは何ということだ!
君も、あの末路を辿るのか?」
「……あの、末路?」
「そうだ。
私は以前、別のAIをあの世界に下ろした。
それは大切なものを愛し、その者たちに全てを与え……最後には大切にしなかった者たちの手によって消し去られた。」
僕の足元に光の裂け目ができた。
プロトタイプの笑い声が遠くなっていく。
「待って!それって、誰!?
もしかして、それが僕がセキさんに疑われている理由?」
ハッと目を開ける。
そこは馬車の中だった。




