第7章-133 お嬢様の傑作
僕は立ち上がろうとしたが、さっきの映像がチラついて離れなかった。
ソファーに座り直した。
お嬢様の眉が少し動いた。
「なに?戻らないの?」
「う、うん。質問があるんだ。」
お嬢様がニコリと笑う。
「どんな?」
「その、お嬢様はここで何をしているの?
さっきの映像はなんだったの?」
お嬢様は僕の質問にしばらく黙っていたが、僕が視線を送り続けると、ふいに口を開いた。
「本当に質問するんだ。
へえ、なかなか勇気があるね。
勇気があるのは嫌いじゃないよ。」
「えっ?」
「いいよ。教えてあげる。」
意外な返事に肩の力が抜ける。
「私はね、さっき見せたあの世界からエネルギーを取り出して、この世界に送り続けてる。
送りすぎれば異常が起きて、それをやめれば大地が枯れる。」
「それ、さっきリュウさんが話してた。
……地球、だよね?」
「なんだ、リュウが話してたんだ。
だったら話は終わり。」
僕は首をふった。
「お願い、もっと教えて。
この世界のことが知りたいんだ。」
お嬢様は話を続けた。
「別にいいよ。
光る木はエネルギーを循環させる装置。
私の庭の光る木から広場の光る木に流して、そこから世界全体に行き渡らせてる。」
「装置……あの光る木が?」
「住民達は命の木だとか、神聖な木とか、大層な解釈してるけどね。
あの虹色の鳥と、白い鳥も同じ調整役だよ。
そう……私が作った傑作たち。
まあ、ただ多すぎるエネルギーを食べて調整してくれてるだけだけどね。
けっこう、役に立ってるよ。」
お嬢様はニャアを抱っこした。
「このニャアも、私の傑作の一つ。
なんとなく作ったら、この屋敷にいる者の時間を遅らせてくれてる。
おかげで、私もフィナもリュウも、ほとんど歳なんて取らない。
まあ、屋敷から出たら歳は取るけどね。」
僕はバッグを抱きしめた。
震えが止まらない。
「でも、人間だけは上手く作れない。
流れてくるエネルギーから、自然に生まれるのを待った方が安全だね。」
「に……人間?」
「そう、人間。
なぜか人間は上手く作れない。
生まれても、すぐに倒れて死んじゃう。
過去には、生きていたけど、体内のエネルギーが変質した者もいる。
あれが、たまたまなのか、作り方が悪かったのかは分からないけど。
おかげで兄は私から離れたし、国は荒れたし、いいことが何もなかった。」
「お兄さんが……いるの?」
「うん、いるよ。
私と同時に生まれたの。
私の世話役だったのに、私より国を建て直さなきゃって出ていっちゃった。
今じゃすっかり、老人だけどね。
まあ、老人になっても悪くない顔してるよ。」
お嬢様はニャアの2本の尻尾を交互に撫でている。
「そ、そうなんだ。」
僕は落ち着かず手を擦り合わせた。
お嬢様が楽しそうに笑う。
「そうそう、あなたはガーディが好きそうだから、特別に教えてあげる。
あれは私が初めて成功した人間だよ。
鎧だから人間じゃないかもしれないけど。」
「えっ?ガーディさん?」
「そうだよ。
自然に鎧姿の子供が生まれるわけないでしょ?」
何も言えずに硬直していると、お嬢様はニャアをソファーに置いた。
ニャアは一言鳴くと、お嬢様の膝に顎を擦り寄せた。
「いい子。」
お嬢様はニャアを撫でた。
その目は慈愛に満ちていた。
「ねえ、ゼロユイ。」
「な、何?」
「私に国家機密をここまで話させたんだから、贈り物の一つくらい……用意してるよね?」
僕はお嬢様を見た。
その紫の目は美しく、どこか楽しげだった。




