第7章-126 立派な御者
僕は薬の数を確認し、在庫表に全て記載した。
「先生、終わったよ。」
医者に資料を渡す。
医者は笑顔で受け取った。
「ありがとう、ゼロユイ。
今日はここまでで大丈夫だ。
また次も頼むよ。
それと、これは私からのプレゼントだ。」
医者が紙袋を出してきた。
中にはお金と、お菓子。そして小さな白いランプが入っていた。
僕はランプを手に取った。
ランプには色とりどりの葉の模様が入っている。
「このランプ、綺麗だね。」
「そうだろう?
これは、知り合いの職人の手作りなんだ。
今年は落石事故や処刑で、祭りが延期になったからね。
気分だけでも味わってもらおうと思って、スタッフ達にも配っているんだ。」
「お祭り?」
首を傾げる僕を見て、医者は軽く笑った。
「そうか、君は若いから知らないのか。
この国はね、1年に4回、大規模な祭りが光る木の下で開かれるんだ。
しばらく開催は難しいと思うが、君もいつか行ってごらん。
とても見応えがあるからね。
さあ、そろそろ帰りなさい。
せっかくの自由時間なんだから。
気をつけて帰るんだよ。」
そう言うと医者は僕に手を振った。
僕も手を振って病院を出た。
「早く寮に戻らなきゃ。フクと森で遊ぶんだ。」
足を早く動かすが、ランプの入った紙袋は少し重く、なかなかスピードが上がらない。
「フクとたくさん遊びたいのに……。」
その時、大きな影が僕を覆った。
見上げると、茶色い馬が僕を見下ろしている。
さらにその上からリュウが僕を見ていた。
「あれ?こんなところにゼロユイが。」
リュウは馬から降り、僕の前に立った。
「……なんの用?」
数歩下がる。
リュウはガシガシと頭をかいた。
「なんで警戒してるんです?
今日はお使いに来てるだけですよ。
捕まえたりしないから、ビクつかないでくれません?」
「お使いなら、なんで僕の前で止まったの?」
「そりゃ、知り合いがいたら挨拶するに決まってるでしょ。
それより、小さい体になんて荷物だ。
良かったら送りますけど、どうします?」
「大丈夫だよ。
学校、もうすぐだし……じゃあね。」
立ち去ろうとする僕の前をリュウが通せんぼした。
「いやいや、大変でしょ。
大丈夫ですって、この馬は小ぶりだけど、私と子供くらい余裕で乗せて走れますって。
んじゃ、そういう事なんで!」
リュウの腕が僕に伸びる。
「うわっ!やめ……。」
リュウは僕を問答無用で抱えると、馬に乗せた。
ガッチリとリュウの両腕に肩を挟まれ、抵抗しても抜け出せない。
リュウはイキイキとした声で言った。
「袋はしっかり掴んでてくださいね。
よし、学校までひとっ走りだ!」
リュウが馬の脇腹を軽く促すと、勢いよく走り出した。
風が僕の目を一気に乾かしていく。
「うわ!目が……目が痛い!!」
「ダメですって。
この程度で音を上げてたら、立派な御者になれませんよ。」
「別に目指してないよ!!」
あっという間に、学校の敷地の前に着いた。
「到着!!」
リュウは寮の近くの木に馬を繋ぎ、僕を下ろした。
僕は目を押さえながら、ヘロヘロと寮に向かって歩いた。
だが、なぜかリュウが後ろからついてくる。
「どうして、ついてくるの?」
「そりゃ、学校に興味があるから一緒に入ろうかと。」
「……不法侵入だよ。」
「それじゃあ、ゼロユイの友人ってことでひとつ。
どうしても、覗いてみたくって。」
リュウが両手を合わせて、お願いポーズをしてきた。
「連れて行かなかったら?」
「そりゃ、もちろん……ねえ?」
リュウがニヤリと笑う。
だんだんと面倒くさくなってきた。
「分かったよ。でも、学校全部は無理だよ。
僕の部屋だけだからね。」
「よ!ゼロユイ、太っ腹!さあ、すぐ行きましょ!!」
喜ぶリュウに、僕は深いため息をついた。




