第7章-108 コウの目的
コウがゼロユイにキスをした時、ガラガラと医務室の扉が開かれた。
コウがゆっくりと振り返る。
セキが立っていた。
服は着替えているが、顔や手には血の跡が残っていた。
「コウ、何をしている?」
「見ればお分かりでしょう。患者を診ているんです。」
コウはゼロユイから離れると、棚から大きめのガーゼを取り出し、消毒液を染み込ませた。
セキが椅子に座る。
「普通の医者ならば、患者にキスなどしない。」
「見られていましたか。
確かに普通の患者ならしないですね。」
コウはガーゼで、セキについた血を拭い始めた。
「私以外が見ていたら、どうする気だった?」
「セキさん以外なら、入ってくる前に気づきますよ。ノックしてくれますからね。」
コウに血を拭われながら、セキはテーブルの上に並んだカップを見た。
「誰と話していた?」
「サクさんとガーディさんです。
面白い兄弟ですよ。正反対なのに、とても意思疎通ができています。
フフッ、僕のゼロユイさんへの対応が悪いと叱られてしまいました。」
セキは腕を組み、椅子にもたれかかった。
「お前もか。
私も先日サクに言われたばかりだ。
あいつは勇気がある。なかなかに愉快だ。」
「セキさんも気に入りましたか。
僕はガーディさんに感心しました。
ゼロユイさんが、リュウさんの肩から落ちそうになったのですが、ガーディさんがそれを受け止めたんです。
鎧の体で受け止めれば、怪我をしそうなものですが、ゼロユイさんに外傷はありませんでした。」
コウは血を拭いきると、ガーディとサクの使ったカップを片付け、新しくお茶を入れ始めた。
セキがその様子を見ながら話しかけた。
「コウ、その子供はお嬢様に関係があると思うか?」
セキは眠っているゼロユイを見た。
コウはカップを二つ置き、セキの正面に座った。
「僕は、直接関係があるとは思えません。
もしそうなら、リュウさんやフィナさんが反応しそうですから。
あの二人も被害者ですし、そこは敏感な筈です。
ただ、フィナさんの事を知っている理由が分かりませんから、そこは確認した方が良いかもしれません。
まあ、僕なら保留にしますよ。
今のところ何も問題は無さそうですから。」
「そうか。
お前がそう言うのなら、もう少し様子をみよう。
それで、コウはあの子供をどうするつもりだ?
薬も使っていただろう。」
「おや、バレていましたか?」
「当たり前だ。
昔、私が眠れない時に、お前が焚いていたものと同じ香りだ。」
コウは少し微笑み、お茶をゆっくりと飲んだ。
「覚えていてくれましたか。
あなたはすぐに吹き消しましたよね。
懐かしいです。」
「あまり話を逸らすな。」
コウはカップを置くと、穏やかに笑った。
「ゼロユイさんを僕のような医師にする予定です。
セキさんにとっても良い話ですよ。
医療に優れたものは国にとっての財産でしょう?
それに僕も歳ですから、後継者が欲しいんです。」
「お前はかなりの数の医師を育てている。
なぜ、こいつなんだ?」
「この子は貴方のように特別だからです。
利口で、優しく、知識欲も強い。
何より、僕のようになりたい……そう言ってくれました。
“医者になりたい”という言葉は、まだ貰えてはいませんが、素質は充分にあります。
まだ若いですし、きっと考えを改めてくれるでしょう。」
セキは黙って聞いていたが、軽く笑った。
「そうか。私からその子供に乗り換えたか。
お前は私の味方だと思っていたんだがな?」
「それは、嫉妬ですか?」
「バカを言うな。冗談だ。」
セキはカップを持ち、お茶を飲み始めた。
「その子供の事は勝手にすれば良い。
だが、異常を見つけたらすぐに手放し、私に報告しろ。」
コウは立ち上がり、セキの後ろへまわり抱きしめた。
「ありがとうございます。
ですが、セキさん。勘違いしないでください。」
「何をだ?」
「貴方が僕の1番大切な人ですよ。
昔も、今も、これからも、それだけは変わりませんからね。」
セキはため息をついた。
「さっきの話を間に受けているのか?
それとも、お前も冗談を言いたくなったのか?」
「違いますよ。僕の変わらない本心です。
そうだ、セキさん、あとで僕の病院に来てください。
頭の傷の検査と、包帯を変えましょう。
宜しいですか?」
「……任せる。」
セキはカップに残ったお茶を全て飲み干した。




