第7章-107 屋敷の謎
ー裁判所/医務室ー
意識を失ったゼロユイは医務室のベッドに寝かされていた。
コウがゼロユイの胸に当てていた聴診器を外した。
「呼吸音も心音も正常ですね。
このまま休めば問題ないでしょうが、念のため、あとで病院で再検査もしましょう。
ガーディさん、サクさん。
あとは僕が見ているので、戻って大丈夫ですよ。」
ガーディとサクは頭を下げた。
だが、二人とも医務室を出ようとしない。
「どうされたのですか?」
コウが質問すると、ガーディが話し始めた。
「コウ様、ゼロユイさんにフィナを知らないと言ったと聞きました。
ゼロユイさんは、嘘をつかれたと、とても悲しがっていました。」
ガーディは少し俯き、ゼロユイを見ている。
サクも話し始めた。
「コウ様、誠に僭越ながら、俺もゼロユイがセキ様から尋問されたと、風の噂で聞きました。
なぜ、こんな犯罪も犯していない子供が、裁判長に尋問を受けるのですか?
理解ができません。」
コウは二人の話を穏やかな顔で聞いていた。
「なるほど、あなた方は僕の行動がゼロユイさんにとって、理想的では無かったと言いたいのですね。」
コウは二人を近くの椅子に座るように促した。
備え付けの給湯室から、お茶を用意し、カップを3つテーブルに並べた。
「大丈夫ですよ、ガーディさん。
嘘の件はお互いのすれ違い……最近、和解もしています。
サクさんの話ももっともですが、あれは必要な事でした。
お嬢様をご覧になったでしょう。
あの方は特別ですから、関係者かどうか知る必要があったんです。」
サクはカップを手に取り一口飲んだ。
ガーディはカップを揺らし、お茶の色や反射を楽しんでいる。
サクが切り出した。
「もしも関係者なら、何が問題なんですか?」
「お二人に理解できますかね。
この世には世界が他にもあるんですよ。
まずはこれを信じられますか?」
「……世界?」
サクの動きが止まる。
ガーディがお茶をテーブルに置いた。
「フィナから、前に聞いたことがあります。
違う世界から流れるエネルギーが、この世界を作っていると。
確か、木が育つための栄養になるとか、人がいきなり生まれるのもそのおかげとか……。
あれは何かの物語ではないのですか?」
「フフッ、それを話すと言うことは、フィナさんは貴方をとても信頼しているのですね。
そうですよ。
強く流れてくるエネルギーは、この世界に実りや、不思議な現象を呼び起こします。
鎧姿で生まれた貴方も、その影響を受けた一人かもしれませんね。」
コウはカップを手に取った。
「お嬢様は流れてくるエネルギーの量を調整しているんです。
多すぎも、少なすぎも、薬と同じで良くはありませんからね。
ただ、完璧に出来る訳ではありません。
ガーディさんのように問題がなければ良いのですが……以前、とんでもない人物がお嬢様の屋敷で生まれてしまいましてね。
その人物が、国を変えてしまったんです。
僕が子供の頃――“腐敗した時代”と呼ばれていた頃の話です。」
コウはお茶を少し飲んだ。
サクは顔を顰め腕を組んだ。
「コウ様。それが仮に本当だとしたら、お嬢様はそんな危険な人物を、なぜ屋敷の外に出したのですか?
それに、もしガーディが、そのエネルギーの影響を受けて鎧になってるとしたら、お嬢様の家で生まれてるはずだ。
でも、実際は俺と一緒に関係ない場所で生まれて、こうして狂わず大人になってる。
説明がつきません。」
コウはカップをテーブルに置いた。
「僕もあまり詳しくは分かりません。
屋敷から逃げ出したのかもしれないし、生まれたては異常が見えにくいのかもしれません。
ですが、お嬢様もセキさんも後悔したと思いますよ。
だから、今もセキさんは国を支え続けるために頑張っているんです。」
コウは一呼吸おき、淡々と話し出した。
「それよりも、ガーディさんはお嬢様の家で生まれていないなんて、それこそ不思議ですね。
あそこで生まれていなければ、ガーディさんは、一体いつフィナさん達と知り合ったのでしょうか?
フィナさんは幼い頃から屋敷にいます。
屋敷からは出たがらない方なんですよ。」
コウの言葉に、サクはガーディに視線を飛ばした。
ガーディは硬直している。
「ガーディ?」
サクの問いにガーディは首を横にふった。
「覚えて……ません。」
静かな沈黙が流れる。
サクが沈黙を破った。
「なぜ、この話を俺たちに?
かなり、重要そうな内容でしたが、俺たちが誰かに話すかもしれませんよ?」
コウは飄々と答えた。
「貴方達は口が固そうですから。
それに、サクさんはセキさんに認められていますからね。
話しても良いと判断しました。
それに、誰かに話したとしても、簡単には信じられないでしょう。
実際、サクさんも信じてないみたいですし。」
「それは……。」
サクが言い返そうとした時、コウが軽く手を叩いた。
「さあ、話はここまでにしましょう。
ゼロユイさんを病院に連れて行きますから、お二人は業務や社宅に戻ってください。」
「……かしこまりました。」
サクは苛立ちながら席を立った。
ガーディも立ち上がり、コウの前で敬礼をした。
「コウ様。お願いがございます。
ぜひ、私にゼロユイさんを病院まで運ばせていただけませんか。」
コウは軽く笑う。
「お気持ちはありがたいですが、ゼロユイさんは今は体温が下がっています。
ガーディさんの体では、より下がる可能性があります。
今回は別の方にお願いさせていただきます。」
「……かしこまりました。」
ガーディは少し俯いて頭を下げた。
サクが軽くガーディの肩を叩く。
「ガーディ、何も気にするな。行こう。」
「サク……分かりました。
コウ様、ゼロユイさんをよろしくお願いします。」
二人は医務室を後にした。
コウは、ゼロユイの顔をそっと撫でた。
「さあ、病院に参りましょう。
到着するまで、ゆっくり眠っていてくださいね。」
コウは小瓶をバッグから取り出し、空のカップにお湯を注いだ。
その甘い香りをゼロユイの鼻に持っていく。
「良い香りでしょう?ゼロユイさん。」
コウは香りを嗅がせたあと、ゼロユイの額に静かにキスをした。




