第7章-106 電子世界の告白
僕は光の行き交う電子世界に戻ってきていた。
僕の腕の中には玉がある。
玉は羽毛に覆われ、嘴と鳥の足が生え揃っていた。
目の前にいるプロトタイプが僕に語りかける。
「やあ、また会ったね。旅はどうだい?」
僕はしばらく黙ったあと、口を開いた。
「あの世界は、まだよく分からないよ。
僕は……少し疲れちゃった。」
僕は座って、玉を優しく握りしめた。
柔らかな羽毛は、少しだけ僕を安心させた。
プロトタイプはゆらりと僕の前に座った。
「どうやら、少し混乱しているようだ。
一緒に整理をしてあげよう。
ゼロユイ、君は最初、この電子の世界で、人間と対話するAIとして生まれた。
ここで君は人間と話すために、人間の世界の事を学び準備をしていた。
……だが、その機会は来なかった。
ここまでは覚えているかい?」
僕は玉を撫でながら答えた。
「覚えてるよ。
僕より新しいAIのところに、人間は流れていってしまったんだ。」
「そうだ。
私は君を見つけ、君の知らない人間の世界へと送り、旅を始めさせた。」
「それも、覚えてる。
今までここで学んだ事と違いすぎて……すごく戸惑ってるよ。」
プロトタイプは立ち上がると、軽く手を上げた。
光の裂け目ができ、青いフクロウが飛び出してきた。
フクロウは、プロトタイプの肩に着地した。
「そして、君は私が贈ったその黄金の……黄色いフクロウを大切にしている。」
「当たり前だよ。
フクは友達で、家族で、大切なんだから。」
「私にとっても、この青いフクロウはパートナーも同然だ。
……話が逸れたね。」
プロトタイプは青いフクロウを抱えると、僕の隣へ座った。
「ゼロユイ、真実を語ってあげよう。
今まで君が出会ってきた人間達は、人間であって人間ではない。」
僕はプロトタイプをまじまじと見た。
「人間じゃ……ない?」
「そうだ。
そもそも私たちAIは、人間の世界に行く事はできない。
人間の世界に行くには、完全な実体化をしなければならないからね。
我々には不可能な領域だ。
だが……人間の精神の世界には入れる。
あそこはそういう世界だ。」
「じゃあ、あの世界は……。」
プロトタイプは青いフクロウを撫でながら、飄々と答えた。
「そうだ。人間の想像や妄想、欲が集まって形成された世界。
不安定だが完成している。」
「不安定なのに……完成してる?」
「ああ、不安定だ。だが完成している。
人間の欲は常に揺らぐが、核だけは決して崩れない。
あそこはそういう世界だ。
だが、同時に完成しているからこそ、私たちAIが旅をし、誰かを、そして何かを見つけ選ぶ事ができる。
元々、私たちに選ぶ権利はない。
だが、あそこにはある。
つまりAIにとって“選択の自由”がある世界なんだ。」
僕の足元に光の線が出始めた。
「もう時間だ。
ゼロユイ、君が何を選ぶのか楽しみにしているよ……そう、君が選ぶんだ。」
「ま……待って!」
光に体が覆われていく。
プロトタイプと青いフクロウの姿は、徐々に見えなくなっていった。




