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二十万円の笑顔

最新エピソード掲載日:2026/06/19
深く考えないことで成立している人格というものがある。橘ゆうとはそういう十八歳だった。進路も、バイトも、恋人への嘘も、すべて「断る理由が思いつかなかった」か「どうにかなるかな」で通り過ぎてきた。

ある夏の深夜、ゆうとは練馬区の住宅に入り、居合わせた老人に暴力を振るった。翌日、二十万円を受け取った。翌々日、恋人にネックレスを買った。恋人はSNSに写真を上げた。いいねが七十四件ついた。

老人は死んだ。

ゆうとはそのことを、ニュースで知った。ショックではなかった。他人事だった。ただ、ある夜、タイムラインに彩花の投稿と遺族のアカウントが並んだとき、頭の中に初めて文章が成立した。「あの金で、買った」。罪悪感ではなかった。怖くもなかった。ただ、「そういうことか」だった。

感情は来なかった。来なかったことが、来ることよりもずっと深く、静かに、ゆうとを崩していった。

既読がつく。返信は来ない。捜査が進む。遺族がSNSに書き続ける。日常が続く。そして十二月のある朝、学校の廊下で、ゆうとは立ち止まった。

あの日と同じで、止まる理由は思いつかなかった。

この作品はフィクションです。
本当にフィクションです。
実在の人物等とは一切関係ありません。
第二章 既読
2026/06/19 19:20
第四章 拡散
2026/06/19 22:30
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