第6話 サラルパーク (2610)
共存党の支持者がノードを離れ、ニューヨークでイレーネ政府を発足させてから3年が過ぎた。
イレーネではサラルとの争いのない平穏な日々が続き、ドーム・発電施設の建設と農業漁業の食糧増産に成果を上げていた。ノードからの移住者も増え続け、人口は当初の2千数百人から3千人を超えるようになった。
共存党政府はイレーネから20キロ南西の山岳地帯へ天使ドローンを飛行させ、サラルの群れに食糧を配布していたが、増え続けるサラルの数に食料供給が追いつかない事態が起きていた。共存党政府はそれに対応するため、ドームから15キロ南の丘に新しいエサ場を造り、食糧運搬方法をドローンからジープによる大量移送に変更することになった。食糧を運ぶジープには果物だけでなくイモ・魚介類などが満載されていた。こうして新しいエサ場に運ばれた食糧は初めはネズミやはげ犬・はげ猿のエサとなっていたが、すぐにサラルの群れが現れ、エサ場を独占するようになった。
ダニエル大統領は、イレーネ市開設3周年の記念式典で3千人の市民を前にこういう式辞を述べた。
「35億年前、地球という星に生命が生まれ植物が育ち、その中で動物が進化し、爬虫類、恐竜、大型哺乳類などが地球を支配して来た。そして180万年前に我々ホモサピエンスという人類が誕生した。それから人類は長い年月をかけて地球上を支配し人口百億人に迫るまでに繁栄した。しかし不幸な戦争があり、この数百年で人口を減少させて今に至っている。そして現在、旧大陸にも新大陸にもサラルという新型の類人猿の数が急増している。このまま人類はサラルに支配を譲ることになるのだろうか?それは人類にとって最悪の未来であり、許すわけにはいかない。
しかし、そうはさせんとサラルと戦うのが良いのか?カナクはサラルと全面対決した結果、どうなったのか?サラルとの戦いが不幸な結果に終わった事を我々は知っている。人類はサラルと敵対する他ないのか?我々イレーネ市民は人類が生き残るための知恵を出す必要がある。人類は、有史以来何万年にもわたりオオカミやクマやトラやライオンなどの野生生物との共存を続けてきた。そして長い年月を経てウシやウマや犬や猫という家畜動物として飼育できるようにした。サラルとの共存には多くの困難が予想されるが諦めてはならない。人類はサラルと共存し飼育する事も出来るはずだ。
イレーネ市は開設以来3年間、サラルにエサを提供し関係を築いてきた。そして今回さらなる友好関係を築くためドームから10キロ南の地に「サラルパーク」という施設を造る事を決定した。いつの日か人類とサラルとが共存できる日が来るはずだ。その世界は人類もサラルも区別なく、同じ規範の中で安全に住む事が出来る。人とサラルがあいさつを交わし微笑みあい、話をすることもできる。そういう未来を、我々知恵ある人類は目指そうではないか!」
ダニエル大統領の言葉に3千人の市民が万雷の拍手と「共存党バンザイ!ダニエル大統領バンザイ!」の声を上げた。
数か月後イレーネ政府はイレーネの南10キロのくぼ地に「サラルパーク」という動物園のような施設を造り、サラルを呼び寄せるため、檻のない広い土地に山の水源からの水で川を引き込み、その川沿いに幾つかの洞窟風のサラルの家を造った。そしてその近くのエサ場で隊員達がサラルのために食糧を配布することになった。しばらくすると、その洞窟風住居にはそれぞれ数匹のサラルが居住するようになり、隊員達が毎日運んでくるエサを見ると、洞窟から出てくるようになった。サラルはこの環境に満足したらしく、サラルパークに棲みつくサラルの数は増加していった。
政府はサラルパークへの一般市民の見学を推奨し、昔のサファリパークの様に金網で囲った輸送用モービルに見学者を乗せ、安全にサラルの群れを見学するツアーを実施した。そのツアーは無料で昼食付きだったが、自主的に参加する市民はほとんどなく、イレーネ政府により特別招待された市民がツアーに参加する事が多かった。
ダニエル大統領も頻繁にサラルパークを訪れ、サラルの子供を抱き上げるパフォーマンスをしてサラルとの友好をアピールした。
政府の招待でサラルパークツアーに参加した市民達は、恐る恐る輸送用モービルの窓からサラルにエサを与えようとしたが、サラルに威嚇され、大人たちでさえ恐怖を覚えた。子ども達が泣き叫ぶなか、モービルの外に出てサラルにエサを与えようとする勇気のある者もいたが、サラルに襲われ命からがら逃げ戻るだけだった。
「オーマイゴッド!もう少しで殺されるところだったぞ!」
「良くやった!君はヒーローだ!」
「スリル満点だな。サラルをこんな近くで見れるなんて」
「しかし、政府の指示で来たんだが、楽しくはないな」
「こんな奴らと仲良く暮らせる日が来るんだろうか?」
「どうかな、立場が逆転して人間がサラルに飼育される日が来るかもしれないな」
「そんなわけないだろ!冗談が過ぎるぞ!」
市民達は力のない笑い声を残してサラルパークを後にした。




