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第2話  ピラミッド要塞P1   (2604)

 5年の年月をかけてノード南2キロの丘の上に完成した前線基地は、33メートル四方の正方形の土台に四角錘状の鉄筋コンクリート構造で、その形状から「ピラミッド要塞」と命名された。ピラミッド要塞はノードの防衛拠点として頼りにされる存在となった。多くのノード市民がピラミッド要塞の隊員になる

事を希望したが、ノード政府は前線基地の危険性を考慮し、若年層を守るためピラミッド要塞の隊員採用を40歳以上に限定した。


 ノード政府は、完成したピラミッド要塞P1の北西200メートルの地に新しくピラミッド要塞P2を建設する事を決定した。P1とP2は互いに絶好の射程距離にあり、完成すれば相互に援護しあう事で防衛力が大幅に向上すると考えられた。ピラミッド要塞の建設はその後も北西方向に拡張され、ノード西のドラ山方面での前進基地の役割を果たす事になる。


 ノード政府はピラミッド要塞建設と同時に、巨大ドームにサラルが侵入した場合に備え、巨大ドーム地下に市民が避難できる施設を造る事になり、地下避難所と連絡通路の建設が開始された。ノード政府は市民防衛隊を総動員し掘削作業にあたらせた。電力節減のため電動機械ではなく人力で行う事も多く、ドーム内には日夜ツルハシとスコップの掘削音が響く状況になった。


 大多数のノード市民はサラルと戦うためにドームに地下避難所と連絡通路を建設する事の重要性を理解し、進んでその作業に参加した。しかしサラルとの戦いのない平穏な日々が続くなか、ノード市民のなかにはドーム地下の掘削作業への参加を拒否する人々も現れ始めた。ノード政府は、そのような一部の市民に対し掘削作業への参加を強制しなかったが、食料配給を減らすなどの制裁を与える事になり、その事に対して反発する人々も出てきた。ドーム地下の掘削作業を批判し、市民防衛隊への参加を拒否するようになった人々は徐々に数を増し、ついに集会を開いて公然とノード政府の政策に反対するようになった。

 それらの市民による政治団体として、サラルとの共存を求める「共存党」が結成される事になった。結成当時共存党支持者はノードの全人口一万九千人の1%にも満たない数だったが、「地下掘削による騒音反対」「静かな生活は市民の権利」「市民防衛隊の強制参加反対」というプラカードを掲げた反対集会は、徐々に参加者数を拡大して行った。


 基礎学校六年生になったロビンは、12歳の誕生日を迎えた日にノード政府から本物の銃を支給された。それは18歳以上の大人が持つ銃より小さく重さは半分ぐらいの軽量の銃だったが、訓練用の弾とはいえ弾丸を実際に発射する銃を初めて持つことになった。銃には安全装置がかかっており、訓練用の弾丸は火薬の入っていない模造品だったが、それでもロビンは自分もノードを守る市民防衛隊に入隊するのだという実感を持つ事が出来た。


 銃を支給された日の翌日の水曜日、ロビンは同じ週に誕生日を迎えた4人の「同週生」と一緒に中央ドームにある警備隊本部を訪れた。女子はライラとジュリア、男子はロビンのほかにアラン、マシューと言う双子がいた。警備隊本部前にはリッチ、アリス、ルーシーという男女3人の銅像があり、カナクでサラルと戦った英雄と言う説明があった。ライラは実はこのアリスの孫のアルビン隊長のそのまた孫にあたる家系だったが、それを言い触らすほど愚かではなかった。

 その後、ロビン達5人の生徒たちは警備隊本部の建物の中に入り、サラルの剥製を見学する事になった。この日初めてサラルの実物の姿を見た5人は一様にショックを受けた。人間より少し小さいサラルにはつのが有り、顔はサルと人間の中間、体全体は茶色の短い毛でおおわれ、背中にコウモリの様な羽根が有り、長いしっぽがある。こんな恐ろしいサラルと戦う事になるとはと、皆同様に顔をしかめて顔を見合わせる他なかった。


 同じ週に誕生日を迎えた同週生5人はすぐに仲良くなり、公園のベンチで一緒に昼食をとる事になった。

「同じ年の同じ週に生まれた人を同週生と言うんだって」

「性格とかも似てるのかな」

「なんか違う気がする。私は暗めだけど、みんな明るいわね」とジュリアが言う。

「そんなことないよ、みんな普通だよ」

「なんか君だけとびぬけて明るい気がする」

「悪かったわね明るくて、みんなついて来て、カモーン!」とライラが言う。


 5人はそれからも毎日のように一緒にいることが多くなり、ゲームセンターや映画館、図書館、テニスコート、時にはドーム外に自転車で出掛け、パイナップル農場や海辺で遊んだりするようになった。

 5人の中で一番活発なのはライラで、「みんなでピラミッド要塞に行こうよ!」と言い出した。5人は一緒にノード警備隊本部に行きピラミッド要塞見学を申し込んだが、許可は出なかった。

「なによ、ピラミッド要塞って40歳以下は立ち入り禁止?そんなことってある?」と怒るライラをジュリアがなだめる。

「まあ仕方ないんじゃないの?それだけ危険だという事でしょ」

 そんな時、3人の男子はあいまいに笑っているだけだった。


 アランとマシューの父親は警備隊員、ライラの父親は政府の役人、ロビンの父親は建設作業員、ジュリアの父親は漁業作業員だった。アラン、マシュー、ライラの3人は基礎学校卒業後すぐに市民防衛隊に入隊する予定だったが、ジュリアには問題があった。ジュリアは両親が共存党支持者で市民防衛隊への入隊に反対されているという。ロビンは自分も同じ事情だとジュリアに言った。

「僕も父親に市民防衛隊に入隊するなと言われている」

「私ははっきり言ってわからない。サラルと戦うべきか共存すべきか」

「市民防衛隊に入隊する事は大切だと思う」

「でもあのサラルを見てサラルと共存するのは無理だと思わない?」

「理想を言えば共存党の主張のように、サラルと仲良くできれば良いけどね」

「あのサラルが近所に住んでいたら夜も眠れない気がするけどね」

「そんなことより、今度の日曜日にピラミッド要塞に行ってみない?」

「無理だね、警備隊に見つかって怒られるよ」

「気にしない気にしない、みんなついて来て、カモーン!」

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