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第11話 サラルの焚火  (2621)

 イレーネではダニエル大統領が病死し、後任のライト大統領になっていた。公表はされなかったが、ダニエル大統領の死因はペットとして飼っていた子供のサラルが大きくなり、狂暴になったサラルに首を噛まれた事が原因だった。


 この頃サラルパークでは、新しいエサ場にサラルを呼び寄せるため、砂糖きびの搾りかすを固めた材木を燃やして焚火をおこし、イモを焼いてその匂いで引き付けようとした。焼き芋の香りと味につられて大勢のサラルがエサ場に集まり、大人しくイモが焼きあがるのを待つようになっていた。


 ある日エサ場でイモが焼きあがるを待っていたサラル同士の争いが始まり、興奮した一匹のサラルが焚火に近寄り火のついた焚き木を掴み、相手のサラルに襲い掛かった。この喧嘩は他のサラルにも伝染し、大勢のサラルが火のついた焚き木を手にもって乱闘するという事態となった。

 この乱闘事件の報告を受けたイレーネ政府は、サラルの行動に危険性はないとしたが、エサ場でサラルが暴れた場合は銃で威嚇発砲して追い払い、その翌日はエサを与えないという対応を命じた。サラルに暴れる事は良くないエサをもらえなくなるという(しつけ)をするという目的だった。


 エサやりを続けなければイレーネもノードも同じではないかという意見もあり、ジープでのエサやりは継続していたが、エサ場での混乱は続き、隊員に投石するサラルも現れた。

 隊員達はジープの外に出る事が出来ない状況になっていた。イレーネ政府は、サラルに麻酔銃を撃つ事は許可したが、銃で撃つ事は許可しなかった。銃で撃つことは、これまでノードがサラルを攻撃してきたのと同じやり方であり、それでは共存党がノードを飛び出してイレーネ政府を作った意味がなくなる。イレーネでサラルとの友好関係が崩れる事態は何としても避けたいと考えていた。


 数年が経ち、ドローンでサラルの生態調査をしていた隊員からイレーネ政府に驚きの報告があった。サラルがサラルパークではない山奥の生息地で自力で焚火をしているという報告だった。サラルがネズミやはげ猿を狩り、食用にしていることは以前から知られていたが、サラルはそのネズミやはげ猿の肉を、自力で焚火を起こし焼いて食べているというのだ。その火が人間が作った火を持ち帰ったものか、あるいはサラル自身が作ったのかは全く不明だった。


 その後、サラルが生息地の各所で獲物を焚火で焼いて食べるという行為は一般化していった。ドローンによる調査で、サラル達の焚火の材料は島の各所に残る枯れ木や大昔の住宅跡の材木を集めて使用していることが分かった。イレーネ政府は、このサラルの焚火という進化で、人がサラルをエサで躾けるという事が難しくなったという危機感を持ち始めた。


 そしてその危機感は悪い方向で的中した。サラルがイレーネの住宅ドームに近付いて火をつけようとする事件が発生したのだ。

 ある日、一匹のサラルが飛来し住宅ドームの上空から火のついた焚き木を投げ落とした。その焚き木は住宅ドームの傍に落ちたが、発見が早く大事には至らず消し止められた。サラルが火のついた焚き木をドームやサトウキビ畑に投げつけるという事件も発生した。その都度、駆けつけた警備隊が発砲してサラルを追い払ったが、サラルの襲撃と付け火攻撃はイレーネの人々の生活を危機に陥れた。


 イレーネのドーム付近の農地や発電施設はサラルによる放火で被害が続出し、イレーネの食料と電力の自給体制が危うくなりつつあった。サトウキビやパイナップル、イモ類の収穫が激減し、太陽光発電などの電力供給が不足する事態となった。

 ロビンとジュリア一家も電気のつかない暗いドームの中で、かろうじて作動している酸素発生機と空調の中で、空腹をこらえて暮らしていた。

「暑い」「お腹空いた」「ショッピングドーム行きたい」

「だめだよ、外に出たらサラルに連れていかれるよ。もうすぐパパが食べ物を持って帰ってくるから」

 しばらくしてロビンが帰って来て保冷ケースから三匹の魚を取り出した。

「魚三匹だけ?」

「ゴメン、今日は魚が取れなかった。これでも子供が三人いるからと頼んで特別に三匹貰ったんだ」


 イレーネに共存党政府が成立してから約20年、サラルランドでのエサやり作戦でサラルとの友好関係が作られる筈だったが、現実はドーム付近にも侵入して来るサラルにより、市民の生活にも支障がでる事態となっていた。

 イレーネ市民の多くは、共存党の政策に賛成してイレーネに移住して来た事を後悔していた。多くの市民がノードへ戻りたいと希望したが、イレーネ政府は市民の再移住を認めようとはしなかった。

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