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『限界社畜OLの絶対安全ダンジョン経営〜最強の過保護護衛に溺愛されつつ遊園地作り。荒らしは勝手に自滅します〜』  作者: 月神世一


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最強護衛の過保護すぎるセキュリティチェック

最強護衛の過保護すぎるセキュリティチェック

ポポロ・ワンダーパーク(ヒカリが勝手に命名したダンジョンの名前だ)の朝は早い。

「うん、カフェの備品よし。スパのお湯加減よし。ドッグランのポチたちも元気だね」

ヒカリはマスター権限のパネルを操作しながら、ダンジョン内の朝の点検を行っていた。

カフェにはリーザがモップがけをしており、スパエリアからは朝風呂を楽しんで骨抜きになった村長・キャルルの幸せそうなため息が聞こえてくる。

外のドッグランでは、もふもふの魔獣たちがボール遊びをしてじゃれ合っていた。

「順調順調。ニャングルさんの屋台も品出しが終わったみたいだし、そろそろ入り口のエントランスを開けようかな」

ヒカリが鼻歌交じりにエントランスホールへと向かった、その時だった。

「……おはようございます、マスター。第1次防衛ラインの構築、ならびに第2次スクリーニングゲートの設置が完了しました」

「……はい?」

エントランスの自動ドアの前に立ったヒカリは、自分の目を疑った。

昨日まで、そこには観葉植物と可愛らしいウェルカムボードが置かれた、木漏れ日の差し込むオシャレな空間が広がっていたはずだ。

しかし今、そこにあるのは――。

「えっと……シンくん? なに、これ」

黒スーツにタクティカルベストを着込んだシンが、ビシッと敬礼をして立っている。

彼の背後には、空港の保安検査場に置かれているような巨大な『X線手荷物検査機』と『金属探知ゲート』がドドンと鎮座していた。

それだけではない。

エントランスの左右には、どう見ても軍事用の土嚢がうず高く積まれ、その隙間からは『M82A1対物ライフル』の黒光りする銃身が、入り口をロックオンするように配置されている。

床には「これより先、発砲許可エリア」と書かれた黄色い規制線まで引かれていた。

「どういうことって……セキュリティチェック体制の強化ですが?」

シンは極めて真面目な顔で答えた。

「このダンジョンが『絶対安全領域』であり、暴力や悪意が無効化されることは理解しています。しかし、魔獣は本能で動きますが、人間の悪意は狡猾です。たとえば、時限爆弾や毒ガスなどの化学兵器をカバンに隠して持ち込まれた場合、システムの判定が遅れるリスクを排除しきれません」

シンは手元のタブレット(USSS支給の暗号化端末だ)をスワイプしながら、淡々と説明を続ける。

「そのため、まずはこのX線スキャナーでミリ波による透過チェックを行います。不審物が確認された場合、あの対物ライフルが自動で対象の膝を撃ち抜き、制圧。さらに、突破された場合に備えて、観葉植物の鉢植えの下には対人地雷クレイモアを――」

「ストーーーーーップ!!」

ヒカリの絶叫が、エントランスホールに響き渡った。

「だめだめだめ! ぜっっったいにダメ!!」

「えっ? なぜですか? これでもまだセキュリティが甘いと……? ならば天井に自動追尾型のガトリングガンを――」

「違うよ! うちはテーマパークなの! 夢と魔法と温泉の国なの!」

ヒカリはズンズンとシンに詰め寄り、彼の胸ぐら……は届かなかったので、ネクタイをぐいっと引っ張った。

「遊びに来たお客さんが、入り口で手荷物検査されて、土嚢の隙間から銃口向けられて、観葉植物の下の地雷に怯えながら温泉に入るの!? 夢から覚めちゃうでしょ!」

「しかし、マスターの安全が……」

「アカンアカン! ヒカリはんの言う通りや!」

騒ぎを聞きつけて、屋台の準備をしていたニャングルがすっ飛んできた。

「兄ちゃん、こんな物騒なゲート置かれたら、客がドン引きして帰ってまうわ! ワイの売上が吹っ飛ぶやろが! 商売の邪魔すんなや!」

「ニャングルさんの売上など僕の知ったことではありません。マスターの命に比べればチリのようなものです」

「なんやとコラ! ワイの算盤と兄ちゃんの銃、どっちが硬いか試してみるか!?」

ニャングルが算盤を振り上げ、シンが反射的に銃のグリップに手をかける。

そこに、モップを持ったリーザがひょっこり顔を出した。

「あの〜、お掃除したいんですけど、その金属の門みたいなやつ(金属探知機)が邪魔で通れませんわ……。あと、間違って地雷踏んだら私、またパンの耳生活に逆戻りですの?」

「リーザさん、地雷の起爆スイッチは僕が持っていますから安心してください。ただし、不審な動きをすれば話は別ですが」

「ひぃぃっ! やはりブラック企業でしたのね!?」

エントランスは大混乱である。

「はい、ストップ! 全員ストップ!」

ヒカリはパンパンと手を叩き、強引に場を収めた。

「ニャングルさんは屋台に戻る! リーザちゃんはお掃除の続き! そしてシンくんは、この物騒な機械と土嚢を今すぐ片付けること!」

「……っ」

ヒカリにピシャリと叱られ、シンはびくっと肩を揺らした。

そして、大型犬がご主人様に怒られた時のように、あからさまにシュン……と耳と尻尾(幻覚)を垂れ下げた。

「……申し訳ありません、マスター。僕の存在意義は、あなたの安全を守ることです。それなのに、こんな無防備な入り口では、万が一の時に……僕があなたを守りきれないかもしれないと、不安で……」

シンは目を伏せ、消え入りそうな声で呟いた。

彼がUSSSで培ってきた「絶対に死なせない」ための防衛本能。それが、ヒカリを大切に思うあまり暴走してしまったのだ。

その痛いほどの忠誠心と、過保護すぎる愛の重さに、ヒカリは毒気を抜かれてしまった。

(もう……。最強の暗殺者のくせに、どうしてこんなに捨て犬みたいな顔するかなぁ)

ヒカリはため息を一つ吐くと、シンのネクタイから手を離し、代わりに彼の背中をポンポンと優しく叩いた。

「……怒ってごめんね。私のために一生懸命考えてくれたのは分かってるよ。ありがとう」

「マスター……」

「でもね、本当に大げさな機械はいらないの。だって、私にはシンくんがいるんだから」

ヒカリは、シンの顔を下から覗き込むようにして、にっこりと微笑んだ。

「どんな最新のセキュリティゲートより、どんな対物ライフルより、シンくんの『目』の方がずっと正確で頼りになるって、私は信じてるよ。怪しい人が来たら、シンくんが一番に気づいて、私を守ってくれるんでしょ?」

「――っ!」

シンの心臓が、ドクンッ! と大きく跳ねた。

「機械なんかより、あなたが一番頼りになる」。それは、極限の世界で自分の腕一つで命を護ってきた男にとって、これ以上ない最高の賛辞であり、殺し文句だった。

シンの顔が、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染まっていく。

「ま、任せてください……! この神谷シン、マスターの信頼に必ずや応えてみせます……! 怪しい輩は、ゲートを通る前に僕の視線だけで射殺(※物理的な発砲はしません)してみせます!」

「うんうん、その意気だよ。だから、手荷物検査はもっと自然な形でお願い。たとえば……そうだな、入場ゲートで『ようこそ! 福引抽選やってます!』って言いながら、笑顔でさりげなく荷物の中身をチェックするとか。シンくんならできるでしょ?」

「……! なるほど、ホスピタリティに偽装した動線管理とスクリーニングですね。流石はマスター、目から鱗です。すぐにマニュアルを作成します!」

シンはすっかり元気を取り戻し(むしろやる気ゲージが限界突破し)、瞬く間にX線スキャナーと土嚢を【シークレットサービス】の亜空間へと収納していった。

「ふぅ、一件落着」

ヒカリは胸を撫で下ろした。

限界社畜時代、クレーム客をなだめ、現場のトラブルを笑顔で乗り切ってきた『進行管理事務』のスキルが、ここでも遺憾なく発揮されていた。

(でも、福引係をやるシンくん……黒スーツで真顔でガラガラ回すのかな。それはそれでシュールかも)

想像して少し笑ってしまったヒカリだが、シンが自分のために必死になってくれること自体は、嬉しくないわけではなかった。

「ヒカリはーん! 準備できたでー! いつでも開けられるわ!」

屋台からニャングルが声を上げる。

「かしこまりましたわ! カフェエリア、清掃完了ですの!」

リーザもほうきを置いて胸を張った。

「第1次防衛ライン……いえ、おもてなしゲート、異常ありません!」

黒スーツのシンが、福引のガラガラを横に置いてビシッと直立不動の姿勢をとった。

「よし!」

ヒカリは、ダンジョンマスターのパネルを操作し、『エントランス解放』のボタンを押し込んだ。

「ポポロ・ワンダーパーク、本日プレオープンです! みんな、よろしくね!」

ギィィィ……と、ダンジョンの重厚な扉が外に向かって大きく開かれる。

絶対安全な夢のテーマパークが、ついにお客様(という名の、過労の兵士や村人たち)を迎え入れる時が来たのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

シンくんの過保護が暴走し、テーマパークの入り口が軍事基地になりかけました(笑)。

対人地雷にX線スキャナー……ニャングルの言う通り、お客さんがドン引きして帰ってしまいます。

でも、ヒカリちゃんに「機械よりシンくんを信じてる」と言われて、あっさりと陥落するチョロい暗殺者。

結果的に、黒スーツのイケメンが真顔で福引のガラガラを回すという、シュールな「おもてなしゲート(偽装手荷物検査)」が誕生しました。

次回、ついにダンジョンがプレオープン!

最初の休日を満喫しようとするヒカリちゃんたちですが、そこに思わぬ『お客様』がやってきて……!?

のんびりした休日の尊さをお届けする予定です。

「シンくんチョロい!」「福引回す暗殺者見たい(笑)」「ヒカリちゃんの猛獣使いスキルが高い」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】の評価(星をポチッと押して★★★★★に!)をお願いいたします!

皆様の応援が、ダンジョンをより楽しいテーマパークにする原動力になります。

次回の更新もどうぞよろしくお願いいたします!

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